幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

文字の大きさ
19 / 77
二章

小さな婚約者

しおりを挟む

「遠いところお越しいただき、ありがとうございます。さぞ、お疲れでしょう。お部屋の用意は整っておりますので、お寛ぎください」

 私たちを出迎えてくれたのは、ガレスタ王国の宰相であるコール・ダベルン公爵。

「まずは、陛下にご挨拶をさせていただきたい」
「申し訳ございません。陛下は今、会議中ですので後ほどお時間を作らせていただきます」

 会議中だというなら、政権を握っている宰相が私たちを出迎えていていいのだろうか。きっと、会議中というのは嘘だろう。陛下を私たちに会わせたくない理由でもあるのだろうか。

「……そうか。では、部屋に案内を頼む」

 レイビス様も不審に思ったのだろう。怪訝な表情を浮かべている。けれど、今はなにを言っても無駄だと判断したようだ。

 メイドに部屋へと案内され、一緒に来てくれたメーガンが荷解きを始める。
 案内された部屋はとても豪華で、雪国らしい大きな暖炉があり、部屋の中はとても暖かい。レイビス様の部屋は隣で、私たちの部屋の中には隣に通じる扉があり、続き部屋になっている。
 気を使ってくれているところをみると、大歓迎とはいかなくても歓迎はされているようだ。けれど、そう思うとますますわけがわからない。
 歓迎はしているのに、陛下に会わせたくない理由はなんなのだろうか。

「こちらの扉、開かないように鍵をかけておこう」

 レイビス様と私の部屋を行き来する扉の鍵をかけようとするカタリーナ。

「カタリーナ、やめて。そんなことをしたら、レイビス様が泣いてしまうわ」

 その時、扉の向こうからレイビス様の声が聞こえた。

「なんだ? 開かないぞ? 壊れているのか? セリーナ! セリーナ、そこにいるのか?」

 カタリーナはすでに鍵をかけてしまっていたようだ。

「……開けてさしあげて」

 仕方なく扉を開けるカタリーナ。深いため息までついている。

「鍵をかけたのか!?」
「セリーナをお守りするためです。仕方がないので開けましたが、こちらへはむやみにいらっしゃらないようにお願いします」
「レイビス様もカタリーナも、やめてください。今はそんなことで揉めている場合ではないでしょう? これからのことを話し合いましょう」

 二人が叱られた子犬のように大人しくなったところで、ソファーに座り、メーガンの用意してくれたお茶をいただきながら話し合いを始める。

「思っていたよりも、宰相の権力が強いように感じました」
「セリーナもそう感じたか。側近が強い権力を握る国との友好関係は崩れやすい。それでも父上がこの国に俺たちを来させたのには、なにか理由があるのだろう」
「お会い出来たのは宰相だけ……まだ、情報が足りませんね」

 その時、部屋の扉がノックされた。扉を開けると、そこに立っていたのは小さな女の子。

 「グランディ王国のレイビス王太子殿下とセリーナ様がお越しと伺い、ご挨拶にまいりました。わたくし、クリフ陛下の婚約者、ミリアナ・ダベルンと申します」

 『ダベルン』ということは、宰相の娘ということだろうか。宰相の娘が婚約者というなら、ますます宰相が権力を握っているのだと感じる。

「ミリアナ嬢、わざわざありがとう」
「お二人にお会い出来て、嬉しいですわ」

 こんなに幼いのに、しっかりしている。七、八歳だろうか。ふわふわの金色の髪がまるで雲みたいで可愛らしい。

「初めまして、ミリアナ様。堅苦しい挨拶はここまでにして、ご一緒にお茶をいかがですか? 美味しいお菓子があるのですが」
「ご一緒したいです!」

 お菓子と聞いて、大きな紫色の目を輝かせている。やっぱり、こういうところは子供だ。

 部屋に招き入れ、メーガンにミリアナ様のお茶を用意してもらった。彼女はお茶を飲みながら、なぜかチラチラと私を見ている。

「なにか付いていますか?」
「あ、いえ……あの……」

 先程あんなにしっかりと挨拶をして来たミリアナ様は、どこに行ってしまったのだろうか。私を見ながら、震えているように見える。

「このお菓子、とっても美味しいですよ。どうぞ」
「は、はい!」

 レイビス様も、ミリアナ様を見ながらあっけに取られている。もしかしてこの反応……

「私が、怖いのですか?」
「ご、ご、ごめんなさい! セリーナ様は、大帝国の貴族たちを震え上がらせた方だとお聞きしました! お、お許しください!」

 うそ……私、そんな風に思われていたの!?

「ぷっ……あははははっ」

 レイビス様は、声をあげて笑い出した。そんなレイビス様を睨みつける。

「心配はいらない。セリーナは、誰よりも優しい人だよ。それはミリアナ嬢にも、すぐにわかるはずだ」

 誰よりも優しい人だと言ってくれたから、今回は許してあげよう。
 こんなに私を怖がっているのにお茶の誘いを受けてくれたのは、なにか理由があるに違いない。

「ミリアナ様、私たちになにかお話したいことがあるのですか?」
「セリーナ様……どうして?」

 ミリアナ様は目を丸くして驚いている。思った通り、なにかあるようだ。

「う……ぅぅ……うわーん!」

 ミリアナ様は、いきなり泣き出してしまった。
 泣き出したミリアナ様の背中を優しく擦りながら、彼女が落ち着くのを待つ。事情はわからないけれど、こんなに幼い子がなにか悩んでいるのなら力になってあげたい。
 しばらく泣いたあと、ミリアナ様はぽつりぽつりと話し始める。

「……申し訳ありませんでした。わたくし、どうしたらいいかわからず……。セリーナ様……お願いです! クリフ様を助けてください!」

 ミリアナ様は大きな瞳を潤ませながら、怖いと思っている私の目をまっすぐ見つめてそう言った。
 クリフ陛下を助けて欲しいとは、いったいどういうことなのだろうか。
 
しおりを挟む
感想 308

あなたにおすすめの小説

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。