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二章
舞踏会
しおりを挟むミリアナ様の話によると、最近クリフ陛下のご様子がおかしいのだそうだ。
二人が婚約したのは、クリフ陛下が三歳、ミリアナ様が二歳の時だった。ミリアナ様が五歳の時から、彼女は王宮に住んでいる。
「先王様がお亡くなりになってクリフ様が国王陛下にご即位されてから、笑顔を一度も見ていません。あんなによくお笑いになる方だったのに。わたくし、クリフ様が心配で……」
「ミリアナ様は、クリフ陛下のことがお好きなのですね」
「え……!? そ、そ、そんなこと……」
真っ赤に染まった頬を両手で隠すミリアナ様が、とても可愛らしい。
笑わなくなったクリフ陛下。八歳で即位されて三ヶ月、公務が忙しくて疲れているだけかもしれないと考えるのが普通だろう。
けれど、そう思えない理由が彼女にはあるのかもしれない。
「ミリアナ様、クリフ陛下はどのような方ですか?」
「とってもお優しい方ですわ!」
クリフ陛下の話をするミリアナ様は、お菓子を見る時と同じように目を輝かせていた。
まだこの国の内情を把握出来てはいないけれど、どのような理由があるにしても若干八歳の陛下から消えてしまった笑顔を取り戻して差し上げたい。
私たちはこの国の者ではなく、ただ友好関係のある国のものでしかない。不用意に首を突っ込むことで、友好関係が崩れてしまうことだってありえる。
レイビス様の決定に従おうと、彼の顔を見る。すると、彼は穏やかな表情で頷いてくれた。
「私たちに何ができるかはわかりませんが、やれるだけのことをしてみますね」
「セリーナ様……いいえ、セリーナお姉様! ありがとうございます!」
「おね……!?」
「お姉様と呼ばせてください! わたくしのことは、どうかミリアナと」
「は……はい……」
ミリアナの勢いに押されて、受け入れてしまった。そんな私たちを見て、レイビス様はまた笑っている。
ミリアナはお菓子をたくさん抱えて、自室へと戻って行った。王宮にたどり着くまでに寄って来た街や村で、お菓子を買いまくってきて正解だった。
「レイビス様は、ずいぶん楽しそうでしたね」
拗ねたように唇を尖らせながら文句を言う。
「やはり、セリーナはすごいなと思ったら嬉しくてね」
「何がですか?」
「あの子、最初はあんなにセリーナを怖がっていたのに、すぐに懐いてしまった。さすが俺の婚約者だ」
褒められている気がしないのだけれど、これがレイビス様なのだと諦めることにした。
その日は、クリフ陛下にお会いすることが出来なかった。
宰相の話によると、明日、王宮で舞踏会が開かれる。そこでご挨拶することができるようだ。私たちを歓迎するための舞踏会……ではなく、三ヶ月に一度開かれている。
「レイビス様、もしかして狙ってました?」
たくさんの貴族たちと会うことができる舞踏会が、都合よく明日開かれる。その日に間に合うように調節していたように思えた。
「これでも、グランディ王国の王太子だからな」
得意気なレイビス様。まるで、シェリルを見ているようで頼もしい。彼が頼もしくなかったわけではないけれど、シェリルの情報を集めて活かす能力は並外れていた。
「レイビス様が、シェリルに見えました」
「セリーナ……それは、全く嬉しくない!」
「殿下、今回ばかりは同情いたします」
なぜか拗ねてしまったレイビス様を、カタリーナが慰めている。私、なにか悪いことを言ってしまったのだろうか。
舞踏会当日、鏡の中の自分を見ながら気合いを入れる。
「頑張らなきゃ!」
社交の場は、何度参加しても好きになれそうにない。本心なんて誰も見せることはなく、上辺だけの会話が繰り広げられる。
けれど、この国のことを知るのに絶好の機会だ。
「セリーナ……今日も綺麗だ。こんなに美しい婚約者がいて、俺は世界一幸せ者だよ」
迎えに来てくれたレイビス様が、とろけるほど甘い言葉で褒めてくれる。今着ている白と赤と黒のドレスは、レイビス様が選んでくれたものだ。
彼のエスコートで、舞踏会が行われているホールへと足を踏み入れる。
「……視線が痛いですね」
私たちがホールへ入ると、皆がいっせいにこちらを向いた。私たちが来ることは、知らされていなかったようだ。
「気にしなくていい。まずは、陛下にご挨拶に行こうか」
少し怖気付いてしまったことが恥ずかしい。レイビス様は、とても堂々としている。私はそんな彼の婚約者だ。私も、堂々としていよう。
ホールの真ん中にダンスフロアがあり、正面には王族が勢揃いしている。クリフ陛下とミリアナ、そして王太后様はイスに腰を下ろし、その後ろに宰相。クリフ陛下の横にルドルフ殿下とカシム殿下が立っている。
「陛下、本日はお招きいただきありがとうございます」
「遠い北の地までお越しくださり、ありがとうございます。何もないところですが、楽しんでいってください」
まるで言わされているかのような、感情のこもっていない言葉。クリフ陛下の表情が、まるで人形のように冷たい。ミリアナ様の言っていた、『様子がおかしい』という意味がわかるような気がする。
「お二人とも、とてもお美しくて見惚れてしまいますな。お二人のダンスを、見せていただけませんか?」
ほんの一言挨拶を交わしただけで、宰相が割って入ってくる。これ以上、陛下と話すなということのようだ。
「ええ、そうですね。レイビス様、行きましょう」
宰相が割って入り、レイビス様の表情が険しくなっていた。挨拶の邪魔をされて、苛立っているのだろう。
レイビス様と一緒にダンスフロアへ行き、美しい音楽に合わせてゆっくりと踊り始める。
「……セリーナ、すまない」
「謝る必要はありません。陛下のお姿を見て、レイビス様も怒っているのがわかって嬉しかったです」
こういう時、彼はいつも冷静で、取り乱すのは私の方だった。こんな彼を見るのは新鮮で、なんだか嬉しい。
「ありがとう、セリーナ。君がいてくれて、心強い」
「レイビス様がいてくれるから、私は強くいられるのです」
まだ舞踏会は始まったばかりだ。
陛下と話すことは邪魔されたけれど、他にも話したい相手はたくさんいる。
とりあえず今は、大好きな人とのダンスを楽しもう。
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