幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

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二章

幼いクリフ様

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「クリフ様に、セリーナお姉様のことをお話したのです。それで、クリフ様もお話してみたいとおっしゃたので」

 嬉しそうに話すミリアナが可愛い。陛下が大好きなのだと、顔に書いてある。

「お二人には挨拶もろくに出来ず、申し訳ないと思っています。僕が、なにも出来ない王で失望していることでしょう……」
「そのようなことはありません。陛下は、とてもしっかりなさっていると思います」

 今ここにいる陛下は、舞踏会の時の人形のような表情とは違い、八歳の男の子の顔をしている。感情がなくなるようなことがあったのではと心配していたけれど、それは杞憂だとわかり安心する。

「陛下……ですか。クリフと呼んではいただけませんか? 僕はお二人と友達になりたいです!」

 この子はきっと、寂しかったんだ。

「友達か。クリフ、俺のことはレイビスと」
「レイビス様!? 呼び捨てはさすがに……」

 クリフ陛下の前で、私たちと過ごしている時のレイビス様に戻る。いくら幼いとはいえ、相手は他国の国王陛下だ。

「かまいません! 僕、とても嬉しいです!」
「クリフもこう言ってるし、ここには俺たちしかいない。若干一名、心配でついてきた騎士がいるけどね」

 レイビス様が目を向けた先には、カタリーナが立っている。カタリーナはなにも反応を見せず、こちらのことは見えていないように振る舞っている。

「あのね……レイビス、セリーナ、相談してもいい?」

 上目遣いで、大きな青い瞳をうるわせながら私たちを見るクリフ様。天使のような可愛さに、胸がキュンとなる。

「もちろん!」

 そのたった一言で、クリフ様は無邪気な笑顔を見せてくれた。ミリアナがクリフ様は笑顔を見せてくれなくなったと悩んでいたけれど、どうやらひとつ解決したようだ。

「本当は、国王になんてなりたくなかったんだ。ルドルフ兄上もカシム兄上もいるのに、どうして僕がやらなくちゃいけないの?」

 この子はこの子なりに、悩んで来たんだ。
 本妻の子が跡を継ぐのは、王族であっても貴族であっても変わらない。クリフ様が望んでいなくても、この子は国王として生きなければならない。

「クリフの気持ち、よくわかる。だが、それを受け入れなければ前には進めない。どうして自分がやらなければならないのかなんて悩んでるひまがあったら、今の自分になにが出来るのかを考えろ」

 レイビス様も、王位継承のことで散々悩んできた。彼は、クリフ様の気持ちがよくわかるのだろう。

「今の僕になにが出来るか……わからないよ。誰も僕の言うことなんて聞いてくれないし、ただそこにいるだけの人形になれと母上にも言われた」
「本当に誰もクリフ様の言うことなんて聞いてくれませんか?」

 クリフ様の隣で、泣きそうな顔をしているミリアナ。この子はずっと、クリフ様のことを想ってきたはず。

「ミリアナは私たちの部屋を訪ねて、クリフ様を助けて欲しいと言いました。私のことを怖いと思っていたのに、こんなに小さな女の子が勇気を出したのです」
「わたくし、クリフ様の笑顔が見たくて……」
「ありがとう、ミリアナ」

 ミリアナを見るクリフ様の表情は、男の子の顔だ。こんなに幼くても、二人はお互いを想いあっている。

「クリフ様は、ミリアナが大切なのですね」
「僕はミリアナが好き!」

 清々しいほどのはっきりとした告白。クリフ様は、レイビス様に似てるような気がする。

「クリフ様……あの……わたくし……恥ずかしいですわ」
「ミリアナは違うのか?」
「違うはずありませんわ! 好きに決まっています」

 女の子の方が精神年齢が高い分、恥ずかしいのだろう。まだ幼いけれど、この二人なら大丈夫。

「守るべき人がいると、人は強くなります。小さな一歩からで、いいではありませんか。あなたは、ガレスタ王国の国王陛下です。自信を持ってください」
「セリーナ、ありがとう。僕は、ミリアナを守りたい。僕になにが出来るかわからないけど、この国は大好きだし守りたいと思っている。不思議だね、セリーナに言われると、自信が持てるような気がする」

 国王だからといっても、まだまだ子供だ。いきなり大人になんてなれないのだから、今出来ることをやるしかない。いつかこの子は、とてもいい国王になれると思う。

「レイビス、セリーナ、またここで会える? セリーナの武勇伝をたくさん聞きたい」
「武勇伝てなんですか!?」
「セリーナの武勇伝……あはははっ」

 レイビス様が笑い出した。彼はいつも私の話になると笑う。思いっきり彼を睨みつけると、クリフ様とミリアナが目を見開いてカタカタと震えている。
 また、怖がらせてしまったようだ。

「クリフ様、ミリアナ、私の武勇伝なんてありませんよ」
「でも、奴隷商人を目にも止まらぬ早さで倒したと皆が話してた」

 少し怯えながら、クリフ様はとんでもないことを言い出した。

「それは私ではなく、そこにいるカタリーナです。彼女はスフィリル帝国一の剣士なのですよ」

 スフィリル帝国一の剣士と聞いて、二人は目を輝かせながらカタリーナを見る。
「わたくし、クリフ様の笑顔が見たくて……」
「ありがとう、ミリアナ」
「すごいですね! 大帝国一の剣士が、女の人だなんて!」
「わたくし、セリーナお姉様と同じくらいカタリーナ様も尊敬いたします!」
「私は、セリーナ様をお守りするためならなんでも斬ります。そこにいるダメ殿下でも、容赦なくいきます」
「おい! 誰がダメ殿下だ!」
「レイビス殿下以外、どこにダメ殿下がいるというのですか?」
「まあ! セリーナお姉様をお守りする騎士様なんて、素敵です!」
「僕だって、ミリアナを守る!」
「嬉しいですわ、クリフ様」

 話がこのまま終わらなそうだ。
 クリフ様の笑顔を見ることができて、ミリアナは嬉しそう。
 このまま全て上手くいく……なんてことはないだろうけれど、今は楽しそうなみんなの顔を見ていよう。
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