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二章
キスはおあずけ
しおりを挟む「誰かいるのか?」
少し騒ぎすぎてしまったようだ。廊下から、男性の声が聞こえる。
「そこの本棚の後ろに隠れて!」
クリフ様が私たちに、隠れるように言う。このような時間に他国の王太子と密かに会っているのは、あまり褒められたことではない。
私たちは言われた通り、本棚の後ろに隠れて息をひそめる。
「クリフ? 夜分にこのようなところで何をしている?」
「最近ミリアナと過ごす時間がなかったから、二人で会いたくて来てもらったんだ」
「ルドルフ様、お騒がせしてしまい申し訳ありません。私がクリフ様とお会いしたいとわがままを言ってしまいましたの」
入ってきたのは、ルドルフ殿下。
先程まで楽しそうだった二人が、今はどこか緊張しているように見える。
「……おまえは国王だ。軽率な行動は慎め」
「申し訳ありません。これからは、気をつけます」
ルドルフ殿下は、クリフ様に注意したあと書斎から出ていく。気のせいだろうか……さっきの間、私たちに気づいていたように思えた。
「部屋に、戻りましょうか」
その日はそのまま、解散になった。
一日を無事に終えて、ベッドに横になる。今日は色々なことがあって、少し疲れてしまった。
貴族たちの噂では、ルドルフ殿下はクリフ様に冷たいという話だ。けれど、私にはそう感じなかった。
翌日、シェリルから手紙が届いた。嬉しくてさっそく読み始める。
『セリーナ、元気? セリーナとお兄様が、ガレスタ王国に行くと聞いて、手紙を書いてるの。本当は、ガレスタ王国に行って「来ちゃった」って言いたかったのだけれど、さすがに今はグルダを離れることが出来なかった。すっごく残念だけど、お兄様の顔を見ながら私が「来ちゃった」と言うところを想像して我慢してね』
「……シェリルは、変わらないな」
手紙を読みながら、嬉しい気持ちと寂しい気持ちがごちゃ混ぜの複雑な感情になる。
グルダはルギウス様が国王となり、シェリルが陛下を支えるために頑張っている。忙しいはずなのに、私たちの心配までしてくれるシェリルにとても感謝だ。
午後になると、私たちは街へ出かけることにした。国民の話を聞くというのが目的だけれど、可愛いお店や可愛いガラス細工、宝石などを見てただ純粋に楽しんでいた。
「これも可愛いです! あれも素敵ですね」
「それなら、全部買おう!」
「レイビス様、そのような贅沢はいけません。お気持ちだけで結構です」
レイビス様なら、本当に全部買ってしまいそうだ。お買い物を楽しんでいると、普通の恋人同士みたいで嬉しくなる。
ここでは、私たちを認識している人はほとんどいない。ただ、好きな人と一緒にこうして過ごせることが嬉しくて余計にはしゃいでしまう。
「セリーナは欲がないな。俺は、セリーナが喜ぶことはなんだってしたい。めいいっぱい甘やかして、俺がいないとダメなくらいにさせたい」
不意にそんなことを言われて、胸の鼓動が早くなる。すでに私は、レイビス様がいないとダメだ。
なにも言えずに赤くなった顔を隠すように下を向いていると、レイビス様の顔が近づいてくる。
「誰も俺たちを気にしていないみたいだから、ここでキスしていい?」
耳元でそう囁かれ、顔が爆発してしまうのではないかと思えるほど熱くなる。
「な、な、な、なにをおっしゃっているのですか!?」
キ、キ、キ、キスなんて、こんなところで……
心の声まで動揺してしまうほど、恥ずかしさでいっぱいになってしまう。
「ご、ご、ご、護衛が見ているではありませんか! そのような冗談は、おやめください」
「残念。護衛が見てないときにしようね」
本当に残念そうな表情を浮かべながら、私から離れていくレイビス様。冗談だと思ったけれど、本気だったのだろうか……
彼が離れたことで安心し、ふとカタリーナの方を見ると、悪魔のような形相でレイビス様を見ていた。その顔を見て、先程のドキドキは一気に消え去ってしまった。
お買い物を終えると、私とレイビス様は別行動をとる。どうしても行きたいところがあるそうだ。私も行きたいところがあったから、ちょうどよかった。
「これなんかどうかな?」
やって来たのは、武器屋さん。ずっと護衛をしてくれているカタリーナに、剣を贈りたかったのだ。
「……セリーナ、私はもう死んでもいい」
いつも冷静なカタリーナが、顔をくしゃくしゃにしながら泣き出してしまう。
「死なれたら困る。誰が私を守ってくれるの? 護衛はたくさんいるけれど、私はカタリーナに守って欲しいの」
「セリーナの護衛で、本当によかった……」
さらに泣かせてしまったけれど、私も同じ気持ちだ。カタリーナが護衛で、本当によかった。
お気に入りの剣が見つかり、大事そうに剣を抱える姿が可愛い。先程見た悪魔の形相で、レイビス様にこの剣を向けなければいいのだけれど……
「きっとヤキモチを焼くだろうから、レイビス様にも剣を買おうかな」
なんていいわけしてみるけれど、レイビス様にもなにか贈り物をしたかった。ガレスタ王国の武器は、細かいところにこだわっていて、とても丈夫で斬れ味も鋭いのだと聞いた。
それだけでなく、鞘にも細かい細工が施されていて、剣とは思えないほど美しい。この国にくると決まった時、二人に贈りたいと思っていた。
「おじさんは、この国にずっと住んでいるのですか? 他の国では見かけない素敵な武器ばかりなので、気になってしまいました」
「お? 素敵だなんて言われたら、サービスしたくなっちゃうね。俺は、生まれた時からずっとこの国育ちさ。先王様がお亡くなりなって、この国がどうなっていくのか心配だがな」
八歳の男の子が国王になったのだから、心配になるのは当然のことだろう。
「ルドルフ様もカシム様も国を愛しているから、兄弟で国を守っていってくださると信じているがね」
今日聞いた人たちは皆、ルドルフ殿下もカシム殿下も国を愛していると言っていた。誰一人として、悪くいう人はいない。
三人で協力したら素晴らしい国になると思うのだけれど、そう簡単にはいかないだろう。
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