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二章
カシム殿下
しおりを挟む「少し寒いけれど、外の空気を吸うと気持ちいい」
雪の降る日が続いてようやく晴れたこともあり、庭園に出て散歩する。
真実を知ったミリアナに、宰相は泣きながら謝っていた。けれどミリアナは、「お父様が、国とクリフ様を選んでくださったことに感謝しますわ。ですが、皆を混乱させたことは反省してください」と言っていた。
とても七歳とは思えない。私なんかよりずっと、いい王妃になるだろう。
「寒さにお強いのですね」
振り返ると、そこにはカシム殿下が立っていた。考え事をしていたからか、声をかけられるまで気づかなかった。
「強いわけではありませんが、こうして雪の上を歩くのは好きです。カシム殿下は、寒いのがお嫌いですか?」
「母が南の国出身だからか、寒いのは苦手ですね。一度も、その国には行ったことがないのですが」
寂しげな表情を見せるカシム殿下。
殿下のお母様はアシュタリア王国の王女だった。アシュタリアは、貿易が盛んな国だそうだ。
たった一人で遠い異国の側室になるなんて、とても心細かっただろう。
「アシュタリアは、とても暖かくて美味しい食べ物もたくさんあるとか。それに国民が皆陽気で、楽しい国だそうですね。いつか、行けたらいいですね」
カシム殿下は、なぜか不思議そうに私を見つめる。
「……あの、どうかしました?」
なにか変なことでも言ってしまったのだろうか。
「アシュタリアを褒めていただいたのは初めてだったので、とても嬉しいです。セリーナ嬢は、なんの偏見ももたないのですね」
偏見とは、アシュタリアの王女を商売の道具のように扱っているという噂のことだろう。
アシュタリア国王には側室が何十人もいて、王女が生まれると他国の王族に嫁がせている。そうして友好国を作り、貿易事業を拡大させてきた。
けれど、その事業を王族が行っているわけではない。国民が豊かになるために、王女は自らの意志で嫁いでいる。
褒められたやり方ではないけれど、国民を想う気持ちに嘘はないと思った。けれど、その王女が嫁いだ国での扱いはいいものではなかったのだと、殿下の反応を見ればわかる。
「殿下も食べたくありませんか? アシュタリア王国のあまーいフルーツ! ケーキに乗せたら、絶対美味しいですよ!」
「あははっ! セリーナ嬢は、面白い方ですね。あなたのような方に、もっと早く出会いたかった。あなたは、不思議な人だ……」
カシム殿下が、なぜだか消えてしまいそうな気がした。
「カシム兄上ー! セリーナー! お二人が一緒にいるなんて珍しいですね」
王宮の方から私たちの姿が見えたのか、クリフ様とミリアナが私たちに手を振っている。可愛らしい二人の姿を見て、私たちも手を振り返す。
「風邪をひくといけません。そろそろ戻りましょう」
「そうですね」
部屋に戻ると、メーガンが温かいお茶を淹れてくれた。身体の芯から温まり、ホッとする。
「カタリーナ、カシム殿下のことどう思った?」
カタリーナは、王宮内を歩く時も護衛をしてくれている。先程も、ずっと私のそばにいてくれた。つまり、私と殿下の話も聞いていた。
「この国に、いい印象をお持ちではない気がした」
「カタリーナも、そう思うのね」
クリフ様に手を振ったあと、二人の元に殿下は駆け寄った。とても愛おしそうに見つめていて、クリフ様を可愛がっているという話は本当なのだと感じた。
けれど、殿下はこの国が好きではないようにも感じた。殿下のお母様が受けた扱いが、関係しているのかもしれない。
「眉間に皺、寄ってるぞ」
「レイビス様!?」
声をかけられて、慌てておでこを隠す。
「いつからいらっしゃったのですか!?」
「だから、鍵をかけておこうと言ったのに」
「おい! ノックはしたぞ」
「はい。聞こえていましたが、無視をしました」
「おまえ……」
考え事をする時、周りが見えなくなる癖をどうにかしなければと反省する。毎回、声をかけられて驚いている気がする。
「セリーナは、そんなに眉間に皺を寄せて何を考えていたんだ?」
レイビス様にじっと見つめられて、顔が赤くなる。
「そんなに見ないでください!」
恥ずかしくなり、目を逸らす。
「まさか、俺以外の男のことを考えていたわけじゃないよな?」
「はい、その通りです。セリーナは、先程じっくりと語り合ったカシム殿下のことで頭がいっぱいになっています」
カタリーナ……その言い方は、語弊がある。
「セリーナ……」
泣きそうな表情を見せるレイビス様を見ながら、カタリーナは勝ち誇ったようにニヤリと笑った。やっぱりカタリーナは、シェリルに似てきている。
「私には、レイビス様しか見えません。わかっているではありませんか。カシム殿下のことを考えていたのは、なんだか悩んでいらっしゃるようだったからです」
「セリーナは、優しいからな」
すぐに機嫌を直すレイビス様。こういうところも、愛おしい。
「ところで、なにか用があったのですか?」
「ああ、そうだった。クリフとミリアナから、一緒にお茶をどうかと誘われた」
「先程お会いしたのですが、それでクリフ様とミリアナが一緒にいたのですね。お二人とお話したいと思っていました。行きましょう」
クリフ様に、カシム殿下のことを聞くチャンスだ。
私たちは二人が待つ、温室へと向かった。
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