幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

文字の大きさ
26 / 77
二章

ルドルフ殿下

しおりを挟む

 レイビス様が扉に目を向けた数秒後、その扉は開かれた。現れたのは、ルドルフ殿下。

「兄上……!?」

 誰より先に驚いたのは、クリフ様だった。

「王太后様もダベルン公爵も、ずいぶんと大それたことをしましたね」

 ルドルフ殿下は、全てを知っているようだ。つまり、レイビス様も王太后様と宰相の真意に気づいていたのだろう。

「ルドルフ……あなたを危険な目に遭わせてしまってごめんなさい」
「殿下、本当に申し訳ないことをしました」

 王太后様と宰相は、ルドルフ殿下に頭を下げた。

「危険? 自分で毒を入れたのに、毒だと騒いだメイドのことですか? 誰が見ても、殺す気なんかないのはわかります。ですから、協力はします。こんなことで、あなた方が処刑にでもなったら後味が悪いですからね」

 呆れた顔でそう告げるルドルフ殿下。
 王太后様と宰相は、ルドルフ殿下のお母様のご実家と敵対関係にあった。幼い頃にルドルフ殿下のお母様は亡くなっているけれど、殿下との関係も良好だったわけではない。
 だからこそ、二人は今回の計画を立てたのだろう。自分たちがいなくなれば……と。

「……母を知らないおまえに、冷たく当ってしまったことを、ずっと後悔していた。本当に、すまなかった」

 王太后様が十六歳で王妃となったすぐ後に、ルドルフ殿下のお母様が二十二歳で側室となった。殿下のお母様は嫁いですぐにご懐妊されたのに、王太后様にはなかなか子が出来なかった。
 殿下に優しく出来なかったのは、仕方がないことだと思う。

「過ぎたことです。では、俺はこれで失礼します」

 殿下はそのまま会議室から出ていってしまった。
 素っ気ない態度をとっていたけれど、どこか寂しそうにも見えた。

 「ルドルフ殿下の協力も得られたことですし、大掃除といきますか」

 宰相と王太后様から、ルドルフ殿下の毒殺に賛成した者たちの名が明かされる。人数は七人。
 一人一人別々に話をし、その者たちを確実に捕まえられるように、全員にルドルフ殿下の食事に入れた毒と同じ毒を用意させていた。
 もし失敗しても、自分たちが全ての罪を負うと話したら、喜んで用意したそうだ。
 殿下の毒殺に失敗したことは、すでに知っているだろう。けれど、その首謀者として捕えられるのは王太后様と宰相だけだと安心している。
 二人が自分たちの派閥を裏切るなんて、思ってもいないのだから。 

 その後いっせいに公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家の七人の貴族たちが捕らえられ、今は尋問を受けている。

「大活躍だったな。さすが俺のセリーナ」

 レイビス様は自慢気にそう言いながら、子供をあやす様に私の頭を撫でた。

「レイビス様、いつから知っていたのですか?」
「……あー、やっぱりバレたか」

 バレない方がおかしい。
 ルドルフ殿下を呼んだのは、レイビス様だ。全部わかっていなかったら、そんなことはしない。
 納得がいかず、彼の顔をジトーっとした目で見る。最初からわかっていたのに、私にはなにも言わなかったことに腹が立っている。

「どうしてなにも教えてくれなかったのですか?」

 いじけたようにそう言うと、今度は両頬を摘まれた。

「王太后陛下は、セリーナに断罪されることを望んでいたから……かな。シェリルの手紙、俺にも届いていた。だから、陛下がセリーナを調べていたことを知っていたんだ」

 たしかに私もシェリルの手紙を読んで、王太后様が私に断罪されるようにしていたことに気づいた。
 王太后様は私がクリスティ様にしたことや、スフィリル帝国でしたことまで調べていた。
 グランディ王国の国王陛下も、全て知っていたのではないかと思う。だから、まだ王妃教育中の私をこの国に来させた。陛下は私が真実に気づき、王太后様の計画を止めることを期待していたのではないだろうか。

「それでも、納得いきません……」
「すまない。俺が口を出すのは、よくないと判断した。セリーナなら任せられると、信じていたし」

 信じていた……なんて、ズルい。そんなことを言われたら、怒れなくなってしまう。そんな私の肩を、レイビス様がそっと抱き寄せる。

「ゴホン」

 私たちを見て、わざとらしく咳払いをするカタリーナ。

「なんだ、カタリーナいたのか……」
「ずっといましたが? 私が見えないなんて、どれだけ頭の中がお花畑なのですか?」
「誰がお花畑だ! こういう時は、気を利かせるものだろう?」
「お断りします! 油断も隙もないので、やはりあの扉には鍵をかけましょう!」

 二人のやり取りを見ていたら、なんだか気が抜けてしまった。
 この国に来た時はどうなることかと思ったけれど、頼もしいクリフ様を見ることができて安心した。

「レイビス様、これを」

 彼に贈るつもりだった剣を、ようやく渡すことができた。

「これは?」
「剣です」
「それは見ればわかる。どうして俺に?」
「レイビス様に、贈りたかったんです」
「俺に、贈りたかった? セリーナ……ありがとう。嬉しいよ。すっごく嬉しい!」

 レイビス様は、嬉しそうに剣を抱きしめる。

「良かったですね、殿下。私の剣の次に、いい剣です」
「……セリーナ? カタリーナにも贈ったのか?」
「はい、もちろんです!」

 笑顔でそう答えた私を見て、なぜだかレイビス様はショックを受けているようだった。
 贈り物は、剣じゃない方がよかったのかな?

「殿下、お気の毒様です」
「おまえに言われたくない!」
しおりを挟む
感想 308

あなたにおすすめの小説

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。