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二章
ルドルフ殿下
しおりを挟むレイビス様が扉に目を向けた数秒後、その扉は開かれた。現れたのは、ルドルフ殿下。
「兄上……!?」
誰より先に驚いたのは、クリフ様だった。
「王太后様もダベルン公爵も、ずいぶんと大それたことをしましたね」
ルドルフ殿下は、全てを知っているようだ。つまり、レイビス様も王太后様と宰相の真意に気づいていたのだろう。
「ルドルフ……あなたを危険な目に遭わせてしまってごめんなさい」
「殿下、本当に申し訳ないことをしました」
王太后様と宰相は、ルドルフ殿下に頭を下げた。
「危険? 自分で毒を入れたのに、毒だと騒いだメイドのことですか? 誰が見ても、殺す気なんかないのはわかります。ですから、協力はします。こんなことで、あなた方が処刑にでもなったら後味が悪いですからね」
呆れた顔でそう告げるルドルフ殿下。
王太后様と宰相は、ルドルフ殿下のお母様のご実家と敵対関係にあった。幼い頃にルドルフ殿下のお母様は亡くなっているけれど、殿下との関係も良好だったわけではない。
だからこそ、二人は今回の計画を立てたのだろう。自分たちがいなくなれば……と。
「……母を知らないおまえに、冷たく当ってしまったことを、ずっと後悔していた。本当に、すまなかった」
王太后様が十六歳で王妃となったすぐ後に、ルドルフ殿下のお母様が二十二歳で側室となった。殿下のお母様は嫁いですぐにご懐妊されたのに、王太后様にはなかなか子が出来なかった。
殿下に優しく出来なかったのは、仕方がないことだと思う。
「過ぎたことです。では、俺はこれで失礼します」
殿下はそのまま会議室から出ていってしまった。
素っ気ない態度をとっていたけれど、どこか寂しそうにも見えた。
「ルドルフ殿下の協力も得られたことですし、大掃除といきますか」
宰相と王太后様から、ルドルフ殿下の毒殺に賛成した者たちの名が明かされる。人数は七人。
一人一人別々に話をし、その者たちを確実に捕まえられるように、全員にルドルフ殿下の食事に入れた毒と同じ毒を用意させていた。
もし失敗しても、自分たちが全ての罪を負うと話したら、喜んで用意したそうだ。
殿下の毒殺に失敗したことは、すでに知っているだろう。けれど、その首謀者として捕えられるのは王太后様と宰相だけだと安心している。
二人が自分たちの派閥を裏切るなんて、思ってもいないのだから。
その後いっせいに公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家の七人の貴族たちが捕らえられ、今は尋問を受けている。
「大活躍だったな。さすが俺のセリーナ」
レイビス様は自慢気にそう言いながら、子供をあやす様に私の頭を撫でた。
「レイビス様、いつから知っていたのですか?」
「……あー、やっぱりバレたか」
バレない方がおかしい。
ルドルフ殿下を呼んだのは、レイビス様だ。全部わかっていなかったら、そんなことはしない。
納得がいかず、彼の顔をジトーっとした目で見る。最初からわかっていたのに、私にはなにも言わなかったことに腹が立っている。
「どうしてなにも教えてくれなかったのですか?」
いじけたようにそう言うと、今度は両頬を摘まれた。
「王太后陛下は、セリーナに断罪されることを望んでいたから……かな。シェリルの手紙、俺にも届いていた。だから、陛下がセリーナを調べていたことを知っていたんだ」
たしかに私もシェリルの手紙を読んで、王太后様が私に断罪されるようにしていたことに気づいた。
王太后様は私がクリスティ様にしたことや、スフィリル帝国でしたことまで調べていた。
グランディ王国の国王陛下も、全て知っていたのではないかと思う。だから、まだ王妃教育中の私をこの国に来させた。陛下は私が真実に気づき、王太后様の計画を止めることを期待していたのではないだろうか。
「それでも、納得いきません……」
「すまない。俺が口を出すのは、よくないと判断した。セリーナなら任せられると、信じていたし」
信じていた……なんて、ズルい。そんなことを言われたら、怒れなくなってしまう。そんな私の肩を、レイビス様がそっと抱き寄せる。
「ゴホン」
私たちを見て、わざとらしく咳払いをするカタリーナ。
「なんだ、カタリーナいたのか……」
「ずっといましたが? 私が見えないなんて、どれだけ頭の中がお花畑なのですか?」
「誰がお花畑だ! こういう時は、気を利かせるものだろう?」
「お断りします! 油断も隙もないので、やはりあの扉には鍵をかけましょう!」
二人のやり取りを見ていたら、なんだか気が抜けてしまった。
この国に来た時はどうなることかと思ったけれど、頼もしいクリフ様を見ることができて安心した。
「レイビス様、これを」
彼に贈るつもりだった剣を、ようやく渡すことができた。
「これは?」
「剣です」
「それは見ればわかる。どうして俺に?」
「レイビス様に、贈りたかったんです」
「俺に、贈りたかった? セリーナ……ありがとう。嬉しいよ。すっごく嬉しい!」
レイビス様は、嬉しそうに剣を抱きしめる。
「良かったですね、殿下。私の剣の次に、いい剣です」
「……セリーナ? カタリーナにも贈ったのか?」
「はい、もちろんです!」
笑顔でそう答えた私を見て、なぜだかレイビス様はショックを受けているようだった。
贈り物は、剣じゃない方がよかったのかな?
「殿下、お気の毒様です」
「おまえに言われたくない!」
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