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二章
国のために
しおりを挟む「茶番? なにを言っているの?」
陛下と宰相の顔色が、明らかに変わった。
「最初の違和感は、あれほど私たちをクリフ様にお会いできないようにしていたのに、書斎でクリフ様にお会いできたことです。本当に会わせたくなければ、監視をつけていたはずです」
ミリアナも、自由だった。宰相の娘だからとも思ったけれど、その宰相の娘が私たちに『クリフ様を助けて』と言った。
二人が想いあっていることを知っていたなら、笑顔を見せなくなったクリフ様をミリアナが心配することもわかっていたはず。
ミリアナが私たちにクリフ様のことを話すのは、彼らの計画通りだった。
「陛下と密会なさっていたとは、驚きです」
「クリフ、どういうことなの!?」
まだ演技を続ける二人。
「全て、計画だったのですよね? 私たちがガレスタ王国へ訪れた時から、いいえ、先王様がお亡くなりになった時から」
「やめなさい! これ以上は、もうやめて……」
陛下は、懇願するように私を見る。
演技をしても無駄なのだと、わかったようだ。
「母上?」
クリフ様はなにが起きているのかわからず、不思議そうに首をかしげる。
「クリフ様、お二人はこの国、そしてクリフ様のために悪役になるおつもりだったのです」
クリフ様は、目を見開いて驚いている。
この計画が上手く行けば、ミリアナも無事ではいられない。ただ、クリフ様なら命までは奪わないと考えていただろう。
それでも娘が危険になると承知で、宰相は計画をやり遂げようとしていた。父親としてではなく、宰相として国を守る道を選んだことが切ない。
「もう一つの違和感、それはルドルフ殿下の毒殺未遂です。あれはこの国にとって邪魔な存在……つまり、自分たちの欲しか考えていない方々を道ずれにするためですね」
あの後、ライトに詳しく調べてもらった。
毒が入っているとわかったのは、メイドが毒だと騒いだからだそうだ。
毒入りの食事を用意し、メイドが毒が入っていると騒ぐ……最初から、ルドルフ殿下を毒殺するつもりなんてなかった。
そしてすぐに、その騒いだメイドが毒を入れたと自白している。時期を見て、陛下と宰相の命令だったと話すつもりなのだろう。
「クリフ様を操り、この国を我がものにしようとした罪で断罪される……それが、お二人の計画ですね」
自分たちが捕まった後、兄弟三人が協力して国を守っていくことを望んでいた。
「母上、ダベルン、どういうことですか? セリーナの言っていることは、本当なのですか?」
「……」
クリフ様に、なにも答えることができない王太后様。愛おしそうに見つめながら、大きな瞳から涙がこぼれ落ちる。
「セリーナ嬢、このまま……計画通りに進めさせていただけませんか? お願いします!」
宰相は深々と頭を下げた。
命をかけた計画だったのだから、納得はいかないだろう。それでも、こんなやり方は間違っている。
けれど私は、この国の人間ではない。
「クリフ様、どう思われますか?」
「セリーナ?」
急に振られて、クリフ様は困惑した様子で私を見る。
「クリフ様は、この国の王です。クリフ様のお考えに従います」
クリフ様はもう一度私を見てから、大きく頷く。
「その計画を進めることは許さない。この国を守りたいと思うなら、未熟な僕を支えてくれなくては困る。僕には母上とダベルンが必要なんだ!」
クリフ様らしい判断で安心した。
宰相は、諦めたようにうなだれている。国王陛下の決断なのだから、受け入れるしかないだろう。
「セリーナ、これでいいかな?」
「はい。国王陛下の威厳が感じられました。ですが、この計画をそのまま使ってしまいませんか?」
皆がいっせいに首をかしげる。
「邪魔なものは、排除しましょう」
私の言葉に、皆固まってしまう。これで、さらに私が怖いという噂が流れることになりそうだ。
邪魔なものの排除とは、宰相と王太后陛下の偽の計画……国を自分たちのものにするという嘘の話に乗ってきた者たちのことだ。
彼らはルドルフ殿下の殺害を本気で考えていた。たとえ宰相と陛下の計画(嘘の計画)に乗せられたとはいえ、王族を殺害しようとしたことには変わりない。
「セリーナの考えを教えて欲しい」
クリフ様は、覚悟を決めたようだ。たった数日で、こんなに成長していることに驚く。
あんなにか弱かったクリフ様が、立派な国王に見える。
「このまま、この計画を利用するのです。ルドルフ殿下を殺害しようとした罪で、偽の計画だと知らずに関わった者たちを裁きます。彼らは本気で、ルドルフ殿下を亡き者にしようとしていたのですから」
メイドはまだ、自分が毒を入れたとしか自白していない。計画通り、宰相と陛下の命令だと証言してもらう。そして、関わった貴族たちをいっせいに捕らえる。
メイドには宰相と陛下の名を出さないようにしてもらう方法もあるけれど、そうしたところでほかの者たちの口から二人の名前が出るだろう。
これは最初から偽の計画だったのだから、それを利用すればいい。クリフ様もミリアナも、そして私たちも知っていたことにすればいい。
ただ、毒入りの食事をルドルフ殿下に食べさせる気がなかったとしても、毒を盛ったのは事実だ。宰相も陛下も自らの命をかけていたのだから、毒は本物だ。そのことが後々、問題になるかもしれない。
この問題を解決するには、ルドルフ殿下も最初から知っていたことにしなければならない。
「セリーナ、そんな難しい顔をしないで。大丈夫。そろそろ来る頃だから」
レイビス様は私の両頬をつまみながら、誰かを待っているのか、扉の方に目を向けた。
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