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二章
守り神
しおりを挟むレストランに着くと、中はとても賑わっていた。
この国ではほとんどの人が私たちを知らないから、個室ではなく空いている席に座る。この雰囲気が、とても好きだ。
「こんなにお客さんがいるなんて、とても人気なんですね」
「美味しいと評判だからな」
「私のために、調べてくれたのですか?」
「当たり前だ。セリーナの喜ぶ顔が見たいから」
まだ食べていないのに、胸がいっぱいで大満足だ。
「ご注文はいかがなさいますか?」
「お肉料理を全種類お願いします!」
大満足だけれど、それとこれとは別だ。
今度はいつ食べられるかわからないのだから、お腹いっぱい食べないと。
私の注文を聞いて、周りのお客さんたちが驚いた表情でこちらを見る。
「全種類……で、よろしいのですか?」
店員さんまで、聞き返してくる。
メニューには、お肉料理が五種類載っている。どれも大皿で提供されるようだ。
「はい! 全種類お願いします!」
店員さんに笑顔でそう答えると、レイビス様が笑いを堪えていた。
少しムッとした顔で彼を見ると、「セリーナといると、本当に楽しいな」と言われた。楽しいならいいか……と思ったけれど、やっぱり腑に落ちなくてもう一度ムッとした顔をする。
「お待たせしましたー」
ムッとしたところでお肉料理が運ばれてきて、自然と顔がほころぶ。すると、またレイビス様が笑いを堪えている。
「コロコロと表情が変わって可愛い」
可愛いと言えば、許されると思っているのだろうか。
「レイビス様には、お肉料理あげませんよ」
「ごめん! セリーナ機嫌直して?」
「……仕方がありませんね。取り分けます」
大きな大皿に載っているお肉料理を小皿に取り分ける。
「「いただきます」」
一口食べると、「んー……」という声が出てしまう。
ローストされたお肉に、あっさりしたソースがかかっていていくらでも食べられそう。周りに添えられた野菜も一緒に食べると、止まらなくなる。
小皿に取り分けては食べるを繰り返していると、周りのお客さんが話しかけてきた。
「気持ちのいい食べっぷりですね」
「あまりにも美味しそうに食べるから、こちらまで幸せな気持ちになります」
なぜかお客さんに囲まれながら、次のお肉料理が運ばれてくる。
「このお肉も美味しそう!」
「これは、このお店で一番ですよ!」
「そうなんですね。楽しみです」
小皿に取り分けながら、お客さんと会話をする。デートだったはずが、なぜか皆さんと食事をしていることに気づく。
今度のお肉料理は、中にたくさんの野菜が詰め込まれていた。野菜にお肉の旨みがたっぷりと染み込んでいて、こちらも食べる手が止まらない。
「その細っこい身体のどこに入るのか……」
「大食い大会が開かれたら、お姉さん優勝間違いなしだね」
「彼氏も負けずに食べないと!」
デートとは程遠いけれど、これはこれで楽しい。
「俺は彼女の美味しそうに食べる姿が好きだから、これでいいんだ!」
「彼女に負けるなんて、情けないね~」
「これは大食い大会じゃない!」
レイビス様も、なんだか楽しそうだ。
お肉料理を食べ終わる頃には、すっかりみんなと仲良くなっていた。
「最後の一口、いただきます!」
最後の一口を口に入れると、拍手が巻き起こる。
「大皿の肉を五皿、ほとんど一人で完食するなんて大したもんだ」
「その食べっぷりは、一生忘れられないよ」
「お姉ちゃん、すごいー!」
感心されるようなことではないけれど、褒められるのは嬉しい。
「とっても美味しかったです。ご馳走様でした!」
どのお肉料理も美味しくて、大満足だ。少しお腹がぽっこりしてしまったので、明日からはダイエットをしなければ。
「あんたたちは、この国の人間じゃないんだろ? 旅行かなにかかい?」
「実は、婚前旅行なんだ。食べることが大好きな彼女に、美味しい肉料理を食べさせてあげたくてこの店に来た」
婚前旅行と言われて、ほんのり頬が赤く染まる。結婚前だから、間違ってはいないかもしれない。
「優しい旦那さんになるねえ。そうそう、もしも白い狼の話を聞いて来たんなら、山には登らない方がいいよ」
「白い狼……ですか?」
白い狼は、初耳だった。
シェリルの手紙にも、そのことは書かれていない。
「この街には、守り神がいたんだよ。この国を守ってくれていた、真っ白い狼でね。それがここ数年、人を襲うという噂が広がって、誰も山に近づかなくなったのさ」
「どうしてそのような噂が? 誰か、襲われた人がいたのですか?」
「襲われているところを見たわけじゃないんだけどね。そもそも、白い狼に出会えることは稀だからね。何人か山に行ったっきり帰って来ないんだ。死体も見つかった。獣に襲われたような傷が残っていたんだよ」
なんだか、その話は私にはしっくりこない。
数年前までは、その白い狼が国を守ってくれているのだと信じていた。それなら、信じるに値する何かがあったのだろう。
それなのに、急に人を襲うなんて……
襲われているところを見ていないなら、噂を故意に流した人がいるのではないだろうか。
「話を聞かせてくれてありがとう。山には行かないようにする。俺たちは用があるから、これで失礼する」
「皆さんと食事できて、楽しかったです。ありがとうございました」
みんなに見送られてレストランを出ると、レイビス様が私の顔を覗き込んできた。
「……なんですか?」
「白い狼に会いたいとか、思ってないか?」
するどい!
どうしてわかったのだろうか。
「お、思っていませんよ?」
どもったあげくに、語尾の声がうわずってしまった。これでは、バレバレだ。
「思いっきり顔に書いてある。それに、セリーナの考えそうなことはわかる」
レイビス様に、嘘なんて通用しない。それが良いのか悪いのか……
「とにかく、白い狼の話はいったん忘れてくれ。用があると言ったろ? 行くところがあるんだ」
彼が、なんだか緊張しているように見える。レイビス様が行くところがあるというのだから、白い狼のことはいったん忘れよう。
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