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二章
狼と会話する少年
しおりを挟む「まさか、ここでルドルフ殿下にお会いするとは思いませんでした」
「こちらも、山にいるはずのお二人がお見えになるとは思いませんでしたよ」
笑顔で会話するレイビス様とルドルフ殿下。私と同じで、レイビス様もルドルフ殿下がここにいたことで確信したのだろう。
「まだ、クリフ様にはお話していないのですね」
「ええ……まだ、話せていません。時間があまりないので、まずは白狼を王宮の中に入れるよう命じてきます」
白い狼のことまで、ルドルフ殿下は知っていたようだ。殿下は護衛の一人に、白い狼を王宮の中に入れるよう伝え、私たちの元に戻ってきた。
「兵は、どれくらい集められましたか?」
レイビス様は慌てる様子を見せず、冷静に質問する。こういう時、本当に頼もしい。
「それが、あまり集められませんでした」
私たちの会話を聞きながら、クリフ様とミリアナがポカンとしている。
護衛の話はレイビス様とルドルフ殿下に任せ、私はクリフ様とミリアナに事情を話すことにした。
「クリフ様、落ち着いてお聞きください。今この王宮に、クリフ様のお命を狙う者たちが向かって来ております。もう時期、到着するでしょう」
「……セリーナ? なにを言っているの? 命を狙うだなんて……だって、この国には私利私欲にまみれた貴族はいなくなったはずだよ」
クリフ様は、動揺を隠せない様子だ。国王といっても、まだ八歳の子供なのだから仕方がない。
「残念ながら、その方々とは別の方です」
「それは……誰?」
「カシム殿下です」
自分の命を狙う者が兄だと知って、クリフ様はその場に崩れ落ちる。
ルドルフ殿下はカシム殿下が怪しいと思い、山を探っていたに違いない。王宮に来た使いは、カシム殿下の私兵が山を下りたことを伝えに来たのだろう。
「そん……な……。カシム兄上が、僕を? どうして? 兄上が、そんなことするはずないよ!」
「落ち着けクリフ! 取り乱してなにか解決するのか? おまえは、この国の王なのだぞ」
取り乱すクリフ様を、ルドルフ殿下が叱りつける。
信じられないのも、無理はない。優しかった兄が、自分を殺そうとしているなんて考えもしなかっただろう。
「クリフ様……」
ミリアナが心配そうに、クリフ様の手を握る。どうしてこの子たちは、つらい思いばかりしなければならないのだろう。
ルドルフ殿下とミリアナのおかげで、クリフ様は少し落ち着いたようだ。
「僕にも、状況を教えてください」
まだ戸惑ってはいるけれど、レイビス様とルドルフ殿下の話に加わるクリフ様。
「お姉様……わたくしは、クリフ様のためになにができるのでしょうか……」
ミリアナは不安そうな顔で、私を見上げる。不安な気持ちは、よくわかる。
「今のままで十分クリフ様の力になっているわ。あなたがいるから、クリフ様は強くいられる。クリフ様を信じてあげて」
「信じます! わたくし、全力でクリフ様を信じますわ!」
クリフ様もこんな素敵な婚約者がいて、心強いだろう。
王宮にいる兵にも、カシム殿下側についている者がいるようだ。ルドルフ殿下が把握しているだけで、今王宮内にいる兵の三分の一はカシム殿下側だという。
それほどの人望があるのに、どうしてこのような選択をしたのだろうか。
「すぐにカシムを捕らえようとしたのだが、すでにカシムは王宮内にいる味方に守られていました」
「だから、クリフ様を守ろうとこちらにいらっしゃったのですね」
「こうなる前に、止めたかったのですが……俺には、カシムのように信頼出来る部下があまりいません。監視するのが、精一杯でした」
ルドルフ殿下は、王宮にいたクリフ様の味方の兵を城門に伏兵として配置していた。だから、白い狼のことを知っていたようだ。
「探らせていたのですが、カシムの私兵がどれほどの数がいるのかわかりませんでした。正直、分が悪い。ですが、クリフは俺が必ず守ります! お二人に危険が及ぶことはないと思いますが、念の為お部屋にお戻りください」
気持ちはありがたいけれど、この状況で部屋に隠れていることなどできない。
「お気遣い、ありがとうございます。ですが、私たちはここを離れるつもりはありません。今日、事を起こすことをカシム殿下が決断したのは、私のせいです。山に私たちがいることを、わざと知らせたからです」
こうなることを、予想していた。それでも、レイビス様を危険な目に合わせたくなかった。
「セリーナ嬢がしたことは正しいです。お二人になにかあれば、この国は終わるでしょう。セリーナ嬢の判断に、感謝しております」
ルドルフ殿下はそう言ってくれたけれど、今の状況が私のせいなのは間違いない。
「クゥーンクゥーン」
私が落ち込んでいると思ったのか、ちび狼が胸元から顔を出して頬をぺろぺろと舐める。
「……元気出して。僕は君の味方だよ? と言っているみたいだ」
「クリフ様? この子の言っていることが、わかるのですか?」
「そうみたい……」
狼の言葉がわかる人間なんて、この世にいるのだろうか。けれど、クリフ様が嘘をつくとは思えない。
その時書斎の扉がノックされた。兵士が、白い狼を連れてきてくれたようだ。
白い狼が書斎に入ると、クリフ様もミリアナも、ルドルフ殿下さえも、あまりの迫力に圧倒されている。無理もない。白い狼はとても大きくて、とても美しい。
「君が、この国の守り神……」
「ウォンウォン!」
「え? 僕と一緒に戦ってくれるの?」
「ウォオーン!」
「ありがとう! 僕も会えて嬉しいよ」
クリフ様は、白い狼と会話し始めた。
「……これは、奇跡? いや、夢か? 人間が、狼と会話してるなんて……」
「すごい光景ですね。なんだか、クリフ様ならありえるような気がしてきました」
「クリフは、王になる運命だったのだな」
「さすがクリフ様ですわ!」
不思議な光景を見ながら、なぜかなんとかなりそうな気がしていた。白い狼と会話するクリフ様を見ていると、この国の王はクリフ様しか考えられない。
「ここで、カシム殿下を待とう。カタリーナ、護衛を全員この書斎に集めてくれ!」
「仰せのままに!」
城門に配置した伏兵がカシム殿下の私兵を食い止めている間に、私たちはここで戦う。殿下は、私たちが王宮に戻っていることを知らない。
城門が騒がしくなれば、カシム殿下が動くだろう。殿下も、クリフ様が毎日ここで勉強していることを知っている。
殿下は必ず、ここに来る。
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