40 / 68
二章
決着
しおりを挟む「ウォオーンッ!」
白い狼が兵に飛びかかり押さえつける。クリフ様に、その剣が届くことはなかった。
クリフ様がご無事だったことにホッと胸を撫で下ろす。すると、クリフ様を護衛していたはずのガレスタ王国の兵が、なぜかクリフ様に剣を振り上げた。
「この国にふさわしい王は、ルドルフ殿下だ!」
そう言って、剣を振り下ろす。
「クリフーーーーっ!」
ルドルフ殿下がクリフ様に覆い被さり、振り下ろされた剣は殿下の背中を斬りつける。
「カタリーナ!」
「はい!」
私とミリアナを守っていたカタリーナが護衛の剣を途中で防いだけれど、殿下の肩が少しだけ斬られてしまった。
「兄上……!? ルドルフ兄上ーっ!」
肩から血が流れ、床にぽたぽたと落ちる。
「そんな……ルドルフ殿下……」
斬りつけた護衛は、自分がルドルフ殿下にケガを負わせたことにショックを受けている。
「兄上……僕のせいでごめんなさい!」
「……クリフ、おまえはなにも悪くない。あいつを信用した俺のミスだ。泣くな……俺は、大丈夫だ」
ルドルフ殿下が信頼したからこそ、クリフ様の護衛につけていたのにその信頼を裏切られた。
先程殿下ははっきりと、「だからといって俺は王座が欲しいとは思わないし、弟であるクリフを愛している」と言っていたのに……
この護衛は、なにを聞いていたのだろうか。きっと、肩のケガよりも心が痛いだろう。
「兄……上……」
カシム殿下も心配そうに、二人の姿を見ている。
「傷を見せてください」
ルドルフ殿下の肩の傷は、幸いあまり深くはなかった。近くにあった布を傷口にあてて血を止める。
「傷は、深くはありません。ですが、すぐにお医者様に診てもらわないと」
カシム殿下が投降し、ほかの兵は殿下に従い剣を下ろす。殿下は私たちの護衛とともに城門に行き、私兵たちに投降するように命じた。
カシム殿下に従った者は全て捕らえられ、牢に入れられた。
「終わったのですね……」
「ああ、そうだな。セリーナは、大丈夫か?」
目の前で、たくさんの人が死んだ。その光景が、頭から離れない。
大丈夫……と言ったら、嘘になる。今も、怖くてたまらない。けれど、もっと怖かったのはクリフ様とミリアナだ。私が弱音をはいている場合ではない。
「大丈夫です。カシム殿下は、なにもかもお話になったそうですね」
騒動が落ち着いた後、カシム殿下の取り調べが始まった。山を拠点にして、私兵を育てていたそうだ。
クリフ様を亡き者にするという話をマリーちゃんのお父さんに聞かれてしまい、命を奪ってしまった。その瞬間を見られてしまい、お母さんの命も奪ってしまったのだ。
殿下が「もう後には、引けないのです」と言っていたのは、守るべき国民の命を奪ってしまったことを後悔していたからかもしれない。
その後に行方不明になった者がいるという噂は、全て作り話だった。
カシム殿下が戦意を失った後にクリフ様を狙った兵ケリーストは、殿下をそそのかした張本人だった。
きっかけは、二年半前。先王様が、ご病気になった時。先王様の命がそれほど長くはないと考えたケリーストは、カシム殿下に次の王になって欲しいと持ちかけた。
最初は断っていたカシム殿下だったけれど、あることがきっかけで決断する。そのきっかけとは、愛する人の死。
カシム殿下には、愛する女性がいたそうだ。彼女は侯爵令嬢だった。クリフ様と彼女がいてくれたから、お母様が亡くなってしまってからのつらい日々を、なんとか過ごすことが出来ていた。
ただ、父親であるコールス侯爵は二人の婚約を認めなかった。理由は、カシム殿下のお母様がアシュタリア出身だったから。
それでもいつかは認めてもらえるようにと、カシム殿下は努力していた。カシム殿下を認めなかった貴族たちは、少しずつ殿下を認めるようになっていく……コールス侯爵以外は。
コールス侯爵は王太后様の派閥で、カシム殿下を決して認めようとはしない。娘を殿下に奪われるくらいならと、他国の貴族に嫁がせようと考えた。
それが、悲劇を生んでしまったのだ。
コールス侯爵はカシム殿下が公務で王都を離れている間に娘の結婚を勝手に決め、すぐにその国へ行かせることにした。
最後にカシム殿下に会いたいという娘の言葉を無視して、送り出したコールス侯爵。けれど、コールス侯爵令嬢は他国に向かう途中で事故にあい、帰らぬ人になった。
王宮へ戻ってきたカシム殿下は、愛する人の亡骸にも会えなかったそうだ。
そのことがきっかけで、カシム殿下はケリーストの提案を受け入れた。
この話をあの場でしなかったのは、クリフ様もその女性を慕っていたから。本当の姉のように慕っていたそうだ。だから、クリフ様には彼女が原因だとは話せなかった。
クリフ様の命を狙っていたというのに、傷つけたくないという気持ちもあったようだ。
コールス侯爵は、宰相と王太后様の計画で断罪された一人だ。娘を失ったことを、王家のせいだと逆恨みしていたのかもしれない。
本当に殺したかったのは、ルドルフ殿下ではなくカシム殿下だったのだろうけれど。
「ケリーストと話をしたいのですが、可能でしょうか?」
「なにか、気になることがあるのか?」
「はい。どうしても、確認したいことがあります」
「わかった。クリフに頼んでこよう」
レイビス様は私がなにを確認したいのかは聞かず、クリフ様に頼みに行ってくれた。
163
あなたにおすすめの小説
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ
みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。
婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。
これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。
愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。
毎日20時30分に投稿
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
勝手に勘違いして、婚約破棄したあなたが悪い
猿喰 森繁
恋愛
「アリシア。婚約破棄をしてほしい」
「婚約破棄…ですか」
「君と僕とでは、やはり身分が違いすぎるんだ」
「やっぱり上流階級の人間は、上流階級同士でくっつくべきだと思うの。あなたもそう思わない?」
「はぁ…」
なんと返したら良いのか。
私の家は、一代貴族と言われている。いわゆる平民からの成り上がりである。
そんなわけで、没落貴族の息子と政略結婚ならぬ政略婚約をしていたが、その相手から婚約破棄をされてしまった。
理由は、私の家が事業に失敗して、莫大な借金を抱えてしまったからというものだった。
もちろん、そんなのは誰かが飛ばした噂でしかない。
それを律儀に信じてしまったというわけだ。
金の切れ目が縁の切れ目って、本当なのね。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。