幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

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二章

決着

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「ウォオーンッ!」

 白い狼が兵に飛びかかり押さえつける。クリフ様に、その剣が届くことはなかった。
 クリフ様がご無事だったことにホッと胸を撫で下ろす。すると、クリフ様を護衛していたはずのガレスタ王国の兵が、なぜかクリフ様に剣を振り上げた。

「この国にふさわしい王は、ルドルフ殿下だ!」

 そう言って、剣を振り下ろす。

「クリフーーーーっ!」

 ルドルフ殿下がクリフ様に覆い被さり、振り下ろされた剣は殿下の背中を斬りつける。

「カタリーナ!」
「はい!」

 私とミリアナを守っていたカタリーナが護衛の剣を途中で防いだけれど、殿下の肩が少しだけ斬られてしまった。

「兄上……!? ルドルフ兄上ーっ!」

 肩から血が流れ、床にぽたぽたと落ちる。

「そんな……ルドルフ殿下……」

 斬りつけた護衛は、自分がルドルフ殿下にケガを負わせたことにショックを受けている。

「兄上……僕のせいでごめんなさい!」
「……クリフ、おまえはなにも悪くない。あいつを信用した俺のミスだ。泣くな……俺は、大丈夫だ」

 ルドルフ殿下が信頼したからこそ、クリフ様の護衛につけていたのにその信頼を裏切られた。
 先程殿下ははっきりと、「だからといって俺は王座が欲しいとは思わないし、弟であるクリフを愛している」と言っていたのに……
 この護衛は、なにを聞いていたのだろうか。きっと、肩のケガよりも心が痛いだろう。

「兄……上……」

 カシム殿下も心配そうに、二人の姿を見ている。

「傷を見せてください」

 ルドルフ殿下の肩の傷は、幸いあまり深くはなかった。近くにあった布を傷口にあてて血を止める。

「傷は、深くはありません。ですが、すぐにお医者様に診てもらわないと」

 カシム殿下が投降し、ほかの兵は殿下に従い剣を下ろす。殿下は私たちの護衛とともに城門に行き、私兵たちに投降するように命じた。
 カシム殿下に従った者は全て捕らえられ、牢に入れられた。

「終わったのですね……」
「ああ、そうだな。セリーナは、大丈夫か?」

 目の前で、たくさんの人が死んだ。その光景が、頭から離れない。
 大丈夫……と言ったら、嘘になる。今も、怖くてたまらない。けれど、もっと怖かったのはクリフ様とミリアナだ。私が弱音をはいている場合ではない。

「大丈夫です。カシム殿下は、なにもかもお話になったそうですね」

 騒動が落ち着いた後、カシム殿下の取り調べが始まった。山を拠点にして、私兵を育てていたそうだ。
 クリフ様を亡き者にするという話をマリーちゃんのお父さんに聞かれてしまい、命を奪ってしまった。その瞬間を見られてしまい、お母さんの命も奪ってしまったのだ。
 殿下が「もう後には、引けないのです」と言っていたのは、守るべき国民の命を奪ってしまったことを後悔していたからかもしれない。
 その後に行方不明になった者がいるという噂は、全て作り話だった。
 カシム殿下が戦意を失った後にクリフ様を狙った兵ケリーストは、殿下をそそのかした張本人だった。
 きっかけは、二年半前。先王様が、ご病気になった時。先王様の命がそれほど長くはないと考えたケリーストは、カシム殿下に次の王になって欲しいと持ちかけた。
 最初は断っていたカシム殿下だったけれど、あることがきっかけで決断する。そのきっかけとは、愛する人の死。
 カシム殿下には、愛する女性がいたそうだ。彼女は侯爵令嬢だった。クリフ様と彼女がいてくれたから、お母様が亡くなってしまってからのつらい日々を、なんとか過ごすことが出来ていた。
 ただ、父親であるコールス侯爵は二人の婚約を認めなかった。理由は、カシム殿下のお母様がアシュタリア出身だったから。
 それでもいつかは認めてもらえるようにと、カシム殿下は努力していた。カシム殿下を認めなかった貴族たちは、少しずつ殿下を認めるようになっていく……コールス侯爵以外は。
 コールス侯爵は王太后様の派閥で、カシム殿下を決して認めようとはしない。娘を殿下に奪われるくらいならと、他国の貴族に嫁がせようと考えた。
 それが、悲劇を生んでしまったのだ。
 コールス侯爵はカシム殿下が公務で王都を離れている間に娘の結婚を勝手に決め、すぐにその国へ行かせることにした。
 最後にカシム殿下に会いたいという娘の言葉を無視して、送り出したコールス侯爵。けれど、コールス侯爵令嬢は他国に向かう途中で事故にあい、帰らぬ人になった。
 王宮へ戻ってきたカシム殿下は、愛する人の亡骸にも会えなかったそうだ。
 そのことがきっかけで、カシム殿下はケリーストの提案を受け入れた。
 この話をあの場でしなかったのは、クリフ様もその女性を慕っていたから。本当の姉のように慕っていたそうだ。だから、クリフ様には彼女が原因だとは話せなかった。
 クリフ様の命を狙っていたというのに、傷つけたくないという気持ちもあったようだ。
 コールス侯爵は、宰相と王太后様の計画で断罪された一人だ。娘を失ったことを、王家のせいだと逆恨みしていたのかもしれない。
 本当に殺したかったのは、ルドルフ殿下ではなくカシム殿下だったのだろうけれど。

「ケリーストと話をしたいのですが、可能でしょうか?」
「なにか、気になることがあるのか?」
「はい。どうしても、確認したいことがあります」
「わかった。クリフに頼んでこよう」

 レイビス様は私がなにを確認したいのかは聞かず、クリフ様に頼みに行ってくれた。
 
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