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二章
幻
しおりを挟む「護衛が一緒に乗るとは、不思議だな」
カタリーナは今日も、私たちと一緒に馬車に乗っている。それと、ルドルフ殿下も一緒だ。
「なんでおまえがこの馬車に乗っているんだ?」
レイビス様はルドルフ殿下が一緒の馬車に乗っていることが、不満なようだ。カタリーナのことは、当たり前のように受け入れている。今回は、クウも一緒だけれど。
「一人では、寂しいじゃないか! それに、セリーナ嬢の顔を見ていたい」
「セリーナを見るな!」
レイビス様は私の顔の前に手をかざし、ルドルフ殿下から見えないようにする。
「レイビス様、ずっとそうしているおつもりですか?」
どう考えても、とっても疲れる体勢だ。
「このままでいる!」
ルドルフ殿下はレイビス様の必死な姿を見て、くすくすと笑い出す。殿下も、この体勢でずっといれるわけがないと思っているのだろう。
二時間後、レイビス様の手はおろされた。
だいぶ疲れたのか、ぐったりしている。余計な体力を使うところが、レイビス様らしい。
それにしても、二時間もあの体勢でいたことが素直にすごいと思う。
「で、話を戻すが、護衛が一緒に乗るとは不思議だな」
どうしても疑問を解きたかったのか、ルドルフ殿下は二時間前に言ったことを繰り返した。
「私は、レイビス殿下からセリーナを守るためにここにいます」
カタリーナは無表情でそう答える。
「素晴らしい! さすが、セリーナ嬢の護衛ですね!」
「ルドルフ……おまえ……」
言い返す元気もないようだ。無理をするから……
「レイビス様、少し休んでください。昨夜も遅かったのでしょう?」
昨日私たちが部屋に戻ったあとも、二人はずっとケンカしていたようだ。寒い中、なにをしているのだろうか。風邪をひいていないのが、不思議に思えてしまう。
「セリーナ嬢に心配かけるなよ」
他人事のように、ルドルフ殿下は呆れた顔でそう言った。
「ルドルフ殿下、あなたもです」
「すみません……」
ケンカするほど仲がいいというけれど、ケンカばかりだとこちらが疲れてしまう。けれど、お互い嫌っているようには見えない。
もう少し仲良くできたらいいのにな。
王宮を出てから十八時間馬車を走らせ、ようやく雪の花が咲く山があるという街に到着した。
この街の外れにある山の頂上に、雪の花が咲くらしい。
「街の食堂で朝食をとってから、山に登ることにしよう」
「そうですね。なんだか、ワクワクしてきました」
長時間馬車に乗っていて疲れてはいるけれど、それよりも雪の花が楽しみで仕方がない。レイビス様と見られることが嬉しくて、ご飯が喉を通らないかもしれない……なんて思っていたのだけれど……
「このお料理、美味しいですね! お肉を追加でお願いします」
食堂の料理が美味しくて、いくらでも食べられてしまう。
「ルドルフ、セリーナを見すぎだぞ」
「ルドルフ殿下、食べないと山を登れませんよ? たくさん食べて体力をつけてください」
ずっと私を見ている殿下のお皿に、お肉を載せてあげる。きっと、お肉が食べたかったのだろう。
「ありがとうございます」
食事を終えると、一度馬車に戻る。
食堂に動物を連れていくわけにはいかないから、馬車の中でメーガンがクウにミルクをあげてくれていた。
「お腹がいっぱいになったら、眠ってしまいました」
「本当によく寝る子ね。すぐに大きくなりそう」
眠っているクウをコートの中に入れて、私とレイビス様、ルドルフ殿下とカタリーナ、そして護衛五人と共に山に登る。
メーガンと残りの護衛たちには、この街の宿で待機してもらっている。
「さあ、雪の花を探しに行きましょう!」
山に登るのは、この国に来て二度目だ。けれど、前回とは全く違う。
「セリーナ、張り切りすぎて迷子になるなよ」
レイビス様が、私の右手をとる。手を繋いで歩くのが、なんだか照れくさい。
「どさくさに紛れて、手を繋ぐとは」
ルドルフ殿下が私たちを見ながら、不満そうにそう言った。二人きりではないことを、忘れていた。
「レイビス様、子供ではないのですから、迷子になんかなりません」
繋いだ手を、離してしまった。本当は嬉しかったのに、素直じゃない自分に腹が立つ。
「俺のそばから離れるの禁止」
手を離してしまったのに、不機嫌になることもなく優しいレイビス様。
「……離れません。ずっと」
彼のことを、日に日に好きになっていく。こんなに好きな気持ちでいっぱいなのに、今日より明日の方がもっと好きになるだろう。
「風が強くなってきたな」
山に登り始めて一時間後には雪が降り始め、三時間経った今は風が強くなってきた。
「もう少し登ると、山小屋があるそうです。セリーナ嬢、そこで休憩しましょう」
「なぜセリーナにだけ言っているんだ?」
「セリーナ嬢に休んで欲しいからに決まっている」
「おまえは自分の心配をしていろ」
こんな状況なのに、ケンカを始める二人。さらに吹雪いてきて、視界が悪く二人の声もあまり聞こえなくなる。
「みんな……どこ? レイビス様?」
手探りで進もうとすると、レイビス様の姿が見えた。彼は私に微笑みかけ、手を伸ばす。その手を掴もうと進むと……
「きゃっ!」
足を出した先に、道がなかった。クウがいる胸元をかばいながら、そのまま雪の斜面を転がり落ちていく。
怖い……誰か……助けてっ!!
転がり落ちながら、レイビス様の姿が見えた気がした。
どうしてレイビス様が、道のないところに立っているの?
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