幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

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二章

雪の花

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 カーテンの隙間から朝の光が差し込み、穏やかな気持ちで目を覚ます。

「クウ、おはよう」

 クウは私の隣でまだ眠っている。夢でも見ているのか、たまに「クゥーン」と小さく鳴く。撫でると気持ちよさそうな顔をするけれど、いっこうに起きようとはしない。それがまた可愛い。

「よく寝る子ね」

 ずっと見ていられるほど可愛らしい姿に、朝から癒される。

「セリーナ様、朝食の支度が整ったそうです」
「わかったわ」

 まだ眠っているクウをメーガンに任せ、支度をすませて部屋を出る。

「セリーナ、おはよう」

 昨日のことがあったからか、レイビス様は私の支度が終わるまで部屋の前で待っていてくれた。

「レイビス様、おはようございます」

 クリフ様はこれから毎日、食堂で食事をとることにしたようだ。みんなで食事をすると、美味しく感じると話していた。
 今までは、クリフ様も王太后様もルドルフ殿下もカシム殿下もミリアナも、皆別々に食事をしていたそうだ。

「今日は、賑やかですね」

 食堂に入ると、皆さんが勢揃いしていた。そこにカシム殿下がいないのが、寂しい。

「レイビス、セリーナ! 昨日のことを、ミリアナと母上に話していたんだ」
「わたくしも、その場にいたかったですわ」

 クリフ様は昨日のルドルフ殿下の話を、二人にしていたようだ。ミリアナは、なにも知らされなかったことにいじけていて、ルドルフ殿下は下を向いたまま、顔を赤く染めている。

「ルドルフが泣くなんて、私も見たかったわ。しかも、号泣したのでしょう?」

 王太后様のルドルフ殿下を見る目が、とても優しい。

「……頼むから、もうやめてくれ」
「そうですよ、陛下。ルドルフが可哀想なので、やめてあげてください」

 レイビス様はにこにこしながら席につく。ルドルフ殿下が恥ずかしがっている姿を見て、なんだか楽しそうだ。

「私は感動したのだけれど、ルドルフが嫌ならこの話はもうおしまい。食事にしましょう」

 朝から豪華な料理が運ばれてくる。どれもこれも美味しそうで、顔がにやけてしまう。

「二人には、本当に世話になりました。このようなことしかできなくて申し訳ないけれど、たくさん召し上がって」
「ありがとうございます。私にとっては、なにより嬉しいことです」

 運ばれてきた料理を、次から次へと平らげていく。あたたかいスープで身体がポカポカになり、柔らかいお肉でお腹が喜び、甘いスイーツで幸せいっぱいになる。

「クリフとミリアナが言っていた通り、素晴らしい食べっぷりね。喜んでもらえているのが伝わるわ」
「とても美味しかったです」

 スイーツもたくさんいただき、大満足な朝食だった。

「ルドルフ、そんなに見つめたらセリーナの顔に穴があいてしまうわ」
「王太后様……」

 からかうように王太后様にそう言われたルドルフ殿下は、また顔を赤く染めていた。王太后様の前だと、いつもと違うようだ。
 けれど、からかわれて嫌がっているようには見えない。前のような嫌味を言わないし、二人が親子のようにも見える。仲直り出来るのか不安だったけれど、問題はなさそうだ。

「そうそう、こんな話を知っているかしら?」

 食事を終えてお茶をいただきながら王太后様が話してくださったのは、雪の花と呼ばれる花の話だった。雪の花は、満月の夜にだけ咲くらしい。
 想いあっている二人がその花を見ると、生涯離れることはないという伝説があるそうだ。

「私もね、陛下をお誘いしようと思ったことがあるの。けれど、私たちがその花を見ることは叶わなかった。とっても綺麗なのですって。それだけでも、見に行く価値はあると思うわ」

 雪の花なんて、心が踊る。雪国でしか見られない花なんて、見たいに決まっている。

「それはどこにあるのですか!?」

 私よりも先に、レイビス様がそう聞いた。同じ気持ちだったのかと思うと、嬉しくなってしまう。

「良かった、興味があるのね。ただ、満月は明日よ。お昼には出ないと、間に合わないわ」
「俺も行く!」

 ルドルフ殿下も、なぜか名乗りをあげた。

「セリーナとの大切な時間を邪魔するな! 行きたいなら、別の日に行け!」
「別の日に行ったら意味がないだろう! 想いあっている二人、つまり俺の愛が勝つかもしれない! レイビスは、自信がないのか?」
「そんなわけあるか! よし、わかった! おまえも連れて行ってやる」

 なんだかおかしな方向に、話が進んでしまった。けれど、レイビス様が楽しそうだ。

「僕もいつか、ミリアナと行きたい!」

 今行きたいと言わないところが、クリフ様が成長した証だろう。国王として、今はやらなければならないことがある。

「クリフ……成長したわね」

 王太后様は少し涙ぐんでいるようだ。幼い我が子が国王になり、ずっと心配だったのだろう。

「母上、泣かないでください」

 クリフ様が王太后様の座っている席に駆け寄り、王太后様の頭をなでなでしている。その光景を見ていたら、サミュエルがお父様の頭を撫でていたのを思い出す。

「サミュエルを思い出しているだろ?」

 心の中の声が聞こえてしまったのではと驚く。隣を見ると、レイビス様が私を見ながら微笑んでいた。彼には、私の考えていることがお見通しだ。

「そうですね。元気にしているでしょうか」
「セリーナの弟だぞ? 元気に決まっている」

 レイビス様に言われると、そう思えるから不思議だ。

 朝食を終えた私たちは、雪の花を見に行くために支度を始めた。雪の花が咲く場所は、ここから馬車で一日ほどかかるそうだ。
 支度を終えた私たちは、馬車に乗り込み出発する。

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