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二章
申し上げたはずです
しおりを挟む「お待ちしていました」
私たちを見たまま固まっている四人は、なにが起きているのかまだ理解出来ていないようだ。王宮を出るまでもう少しだと思っていたのだから、目の前の光景が信じられないのだろう。
「な……なんなんだ、おまえは!? また俺の邪魔をするのか!?」
ケリーストの怒りは、私に向いているようだ。私が挑発したのだから、当たり前なのだけれど。
「申し上げたはずです。誰からも必要とされず、誰からも愛されることなく死ぬのを待っていてくださいと。あれが挑発だと思いました? いいえ、あれは助言です」
なんて言ってはみたけれど、完全に挑発だった。プライドの高いケリーストなら、すぐに行動を起こすだろうと考えていた。国境の兵が戻ることまで、親切に教えてあげたのだから。
ケリーストは、私たちの思う通りに動いてくれたのだ。
もう少しで自由になれると希望を抱いていたケリースト。それが打ち砕かれて、希望が絶望に変わった。
「ふ……ざけるな! 俺は生きたいんだ! 生きて権力を手にするんだ! こんなところで終わってたまるか!」
隣に立っていた自分の部下の剣を奪い取り、こちらに向かって構える。
「生きたい? フローラ(コールス侯爵令嬢)の命を奪っておいて、ふざけるのもたいがいにしろ! 僕は絶対におまえを許さない」
クリフ様が声を荒らげたのを、初めて聞いた気がする。それだけ、怒っているということだろう。
「許さない? おまえみたいな子供に、なにができるというのだ!」
ケリーストはわかっていない。クリフ様はもう、子供ではない。
「捕らえよ!」
クリフ様の号令で、兵士たちがいっせいにケリーストたちを囲む。剣を構えていたケリーストも、すぐに取り押さえられた。
「離せ! 俺はこんなところで終わる人間じゃない! 俺に触るなー!」
最後まで抵抗するケリーストを、兵たちが牢へと戻す。ほかの三人は、全く抵抗することなく大人しく捕まった。
「兄上、セリーナ、レイビス、僕はもう迷わない」
クリフ様は、立派な王の顔をしていた。
まだそれほど時は経っていないけれど、出会ったばかりの時とはだいぶ変わった。短い期間で色々なことがあり、その度に成長したクリフ様。
それが嬉しくもあり、ちょっとだけ寂しくもある。
もうなにがあっても、乗り越えていけるだろう。
「立派になったな……クリフ」
隣に立っているルドルフ殿下を見ると、号泣している。最初の印象とはまるで違う姿に、どうしたらいいのかわからなくなる。
「え……殿下?」
「セリーナ嬢、どうか胸を貸してください」
「どさくさに紛れて、なにをしている! セリーナに触れるな! この変態が!」
私に近づこうとしたルドルフ殿下を、レイビス様が必死に押し戻す。
クリフ様の成長を感じて感動していたのに、二人のやり取りにため息がもれる。この二人の方が、子供に見えてくる。
「兄上は、セリーナが好きなの?」
クリフ様の表情が、あどけない子供に戻っている。これはこれで、可愛いから好きだ。
「クリフ、その通りだ! クリフは、兄の恋を応援してくれるよな?」
「クリフは俺の味方だ! セリーナに相応しいのは、この俺だよな?」
八歳の子に、なにを聞いているのだろうか。呆れてしまう。
「僕は……セリーナには、兄上と結婚して欲しい。そうしたらセリーナが僕の姉上になるから、ずっと一緒にいられるでしょ?」
クリフ様の気持ちが嬉しい。こんなに可愛く言われたら、抱きしめたくなってしまう。
「さすが俺の弟だ!」
「クリフの裏切り者ー!」
全く……この二人は、なにをやっているのだろうか。
「クリフ様、中に入りましょう。風邪をひいてしまいます。もう遅いので、お休みにならなくては」
まだ言い争っている二人を残して、私たちは先に王宮の中に戻る。
「セリーナは、兄上ではダメ?」
上目遣いでクリフ様がそう私に問う。
「ルドルフ殿下がどうとかではなく、レイビス様でなくてはダメなんです。クリフ様は、ミリアナ以外の人と一緒にいたいですか?」
「やだ! 僕は、ミリアナじゃないとダメだ!」
「それなら、わかってくれますよね?」
「うん、わかった。セリーナ、ごめん」
まだまだ子供らしいクリフ様に、少しだけ安心した。
「ワオーン」
ホワイトがクリフ様に、ピッタリと寄り添う。これは聞かなくてもわかる。「私も一緒にいるよ」と言っているのだろう。
ホワイトを撫でながら無邪気に笑うクリフ様を見て、私も自然と笑顔になる。もふもふ動物と可愛い子供なんて、心があたたかくならないはずがない。
「そういえば、クウはどうしているの?」
「実はここに……」
コートの中から、ぴょこんと顔を出すクウ。
「おまえはセリーナが、本当に大好きなんだね」
触りやすいように屈んであげると、クリフ様がクウを優しく撫でる。撫でられて気持ちがいいのか、そのまま寝息を立てて眠ってしまった。
「寝ちゃった……」
クウが起きないように小さな声でそうつぶやくクリフ様。
「よく寝る子なんです。気づくと眠っています」
私も小さな声で、そう答える。
声を小さくしなくても、クウは滅多なことでは起きない。けれど、クリフ様の優しさが可愛くて合わせることにした。
「僕も眠たくなってきた」
眠いからか、まっすぐ歩けずにフラフラしている。
「カタリーナ」
カタリーナがクリフ様を抱きかかえ、部屋へとつれていく。
抱きかかえられてすぐに眠りにつくクリフ様。よほど眠かったのだろう。天使のような寝顔のクリフ様を見ていると、幸せな気持ちになってくる。
「よく頑張りましたね」
クリフ様を寝室のベッドに寝かせると、私たちも自分の部屋に戻った。
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