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二章
神秘的な光景
しおりを挟む「カタリーナたちは、無事ですか?」
「カタリーナは皇帝陛下の幻を見ていたが、すぐに正気に戻っていた。ほかの護衛たちがはぐれないように、同じ場所で待機させている」
「よかった……」
みんなが無事だったことに、ほっと胸を撫で下ろす。ルドルフ殿下も安心したように頬を緩ませ、その場に腰を下ろした。
「あの……レイビス様。本当に私の匂いを追ってきたのですか?」
みんなの無事を知って安心したところで、レイビス様に質問する。自分が臭いのではと、心配になっていた。
「これ、落ちていたぞ」
差し出されたのは、サミュエルから誕生日にもらったハンカチだった。
「え!? どうして!?」
思い当たるのは、転がり落ちたあとにクウの無事を慌てて確認した時。あの時に、落としてしまったようだ。
「大切なものなんだろ? もう落とすなよ。まあ、そのおかげでセリーナを見つけることが出来たんだけどね」
「私ったら……もう二度となくさないと誓ったのに、サミュエルごめん!」
このハンカチは、レイビス様と初めて出会った時にクラスメイトに捨てられてしまったものだ。あの時、レイビス様はこのハンカチを一緒に探してくれた。
サミュエルと離れるのが寂しくて肌身離さず持っていたのだけれど、またなくすなんて本当に私はバカだ。
「サミュエルが、セリーナを見つけさせてくれたんだ」
落ち込む私に、レイビス様は優しく微笑んでくれる。レイビス様に言われると、サミュエルが私の居場所を伝えてくれたのかもしれないと思えてくる。サミュエルならきっと、私を守ってくれるから。
それでも、今度こそ絶対になくさないようにしなければ。
「吹雪がおさまってきたようです。皆さんと、合流しましょう」
ルドルフ殿下が洞窟の外を見ながら、そう言った。
「クゥーーン」
なぜかクウが返事をする。
「クウ、もう二人の邪魔はしないよ」
「ルドルフ? 急にどうしたんだ? ここで、なにがあったんだ?」
事情を知らないレイビス様は、いつもと違うルドルフ殿下の様子を見て不思議に思っている。
「なにもありませんよ、レイビス様。さあ、みんなのところへ戻りましょう。みんなが心配しています」
ルドルフ殿下はこの山が幻を見せること知っていたから、私を見つけることができた。けれど、レイビス様は偽物に惑わされずに本物の私を見つけてくれた。
それが嬉しくて、殿下が嘘をついたことはどうでもいい。
「セリーナがそう言うなら」
レイビス様はきっともう、ルドルフ殿下がしたことに気づいているのかもしれない。
私たちは落ちてきた斜面をのぼり、みんなの待つ場所へと戻った。
「セリーナ! 無事でよかった!」
カタリーナが私の姿を見つけて駆け寄ってくる。
「すまない! セリーナの姿を見失ってしまうなんて、護衛失格だ!」
いつも余裕でクールなカタリーナが、泣きそうな顔になっている。
一緒に私を探しに行くと、最後まで言い張っていたとレイビス様から聞いた。けれど、幻覚を見たままのほかの護衛が心配だからと無理やり置いてきたそうだ。
「カタリーナが護衛失格なら、私を護衛できる人がいなくなってしまうわ。だからカタリーナには、ずーっと私の護衛でいてもらうからね」
「セリーナ……」
久しぶりに会った愛する人(叔父様)を、幻だと必死に追い払い、私を探してくれようとしたのはわかっている。
「叔父様は、素敵だった?」
カタリーナの耳元で、小さくつぶやく。それを聞いた彼女の顔が、真っ赤に染まった。どうやら、素敵だったようだ。
「さ、さあ、雪の花を探しに行こう!」
恥ずかしさを誤魔化すように、先に歩き出す。
たとえ幻でも、カタリーナが叔父様に会えてよかった。あんなに赤くなるということは、本物ではありえない優しさを彼女に向けてくれたのかもしれない。
山の頂上に着く頃には、日が暮れ始めていた。
「ここが、頂上なのですね」
頂上が見える位置に荷物を下ろし、焚き火をしながら雪の花が咲くのを待つ。
辺りを見渡しても、花のつぼみらしいものはない。本当に花は咲くのだろうか。
すっかり日が暮れると、雪がちらちらと降り始める。
満月の光が頂上を照らし、頂上にある鉱石がキラキラと光を放つ。その光に、雪が舞い……まるで花のように見える。
「これが、雪の花……」
神秘的な光景に、私たちは魅せられる。
私の指にそっとレイビス様の指が触れ、そのまま手を握られる。ほかの人もいるのに、まるでこの世界で二人きりになったような感覚。
「セリーナと見ることができてよかった」
「私も、レイビス様と見ることができてよかったです」
この光景は、一生忘れることはないだろう。
雪の花は、五分程でその姿を消した。
満月の光が当たる鉱石の角度、そしてひらひらと降る雪がなければ見ることのできない花のようだ。
「これは、持ち帰ることができそうにありませんね」
「無理だな」
愛する人と見ることができなかった王太后様のために、クリフ様から花を摘んで来て欲しいと頼まれていた。摘める花はないのだから、仕方がない。
想いあっている二人がその花を見ると、生涯離れることはないという王太后様の話を思い出す。
あの幻は、私たちを試していたのだろうか。あのまま私たちが離れ離れになっていたら、この光景を見ることができなかったかもしれない。
「やっぱり、諦めるのはやめた。俺もセリーナと雪の花を見ることができたのだから、生涯離れることがないかもしれない」
ルドルフ殿下は、レイビス様の顔を見ながらそう告げた。
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