幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

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二章

愛のクッキー大作戦

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 本物の雪の花は、持ち帰ることができない。なにより私が、ガラス細工の雪の花を欲しいと思った。

「……それぞれの工房の雪の花か」
「面白いかもしれないな」
「この街でしか買えない雪の花……いいかもしれんな」
「形のないものだからこそ……か。これなら忙しくなるぞ」

 どうなることかと思ったけれど、やる気になってくれたようだ。『こんな小娘の提案など聞けるか!』なんて言われたら、どうしようかと思っていた。
 これで観光客が増えてくれれば、この街も活気が戻るだろう。

「ありがとうございます……セリーナ嬢」
「私ではありません。クリフ様が、雪の花を摘んできて欲しいと仰っていたのを思い出しただけです」

 クリフ様の王太后様を想う気持ちが、この街を救ってくれたらいいなと思う。

 雪の花のガラス細工の完成を見届けたい気持ちはあるけれど、それまでこの街に滞在するわけにはいかない。
 その日の午後、私たちは王宮に向けて出発した。

「今回も色々ありましたけど、楽しかったですね」
「楽しかったか……セリーナがいなくなった時は、心臓が止まるかと思ったんだぞ? 君になにかあったら、そこの嘘つき男はそこに座っていなかったな」
「まあまあ、レイビス。みな無事だったのだからいいではないか」
「おまえが言うな!」

 帰りの馬車も、とてもにぎやかだった。
 この国に滞在するのも、あと少しだ。国境から呼び戻した兵が戻ってきたら、私たちはグランディへと帰る。
 寂しいけれど、いつまでも他国にいるわけにはいかない。

「お姉様、おかえりなさい! 寂しかったですわ!」

 王宮に戻ると、ミリアナに思いっきり抱きつかれた。

「ミリアナ、ただいま」
「遅いから、心配しましたわ!」

 大きな瞳に涙をためて、上目遣いで私を見る。口調は強めなのに、可愛らしい顔で心配してくれている。これを、ツンデレというのだろうか。

「ごめんね、ミリアナ。雪が積もってしまって、すぐに戻れなかったの」
「お姉様、今からわたくしの部屋に行きましょう。あたたかいお茶と美味しいスイーツをいただきながら、お話を聞かせてください」

 帰ってきたばかりなのだけれどと思いながらも、強引なミリアナに腕を引かれる。

「それなら、俺も行こう」

 レイビス様がついてこようとすると、「ダメです!」と拒絶される。ルドルフ殿下も手をあげようとしていたけれど、ミリアナの勢いに驚いてゆっくりと手を下ろした。

「今日は、女子会ですの。男性は、お断りです。カタリーナも行きましょう」

 レイビス様に強気な態度をとるところが、少しだけシェリルと重なって驚く。しょんぼりしているレイビス様を置き去りにして、そのままミリアナに手を引かれ彼女の部屋に連れてこられた。

「お姉様、雪の花はいかがでした? とても素敵だったのでしょう?」

 部屋に入るなり、ミリアナは目を輝かせながら質問してくる。雪の花の話が、聞きたくて仕方なかったようだ。そういう話が好きなところは、幼くても女の子なのだと思う。

「とても神秘的で綺麗だったわ」
「……それだけですか? ほかに変わったことは?」
「ない……と思う」
「はあ……そうなのですね……」

 明らかにガッカリするミリアナ。
 雪の花の奇跡に、期待していたようだ。

「クリフ様と、なにかあったの?」
「なにもないんです。クリフ様との時間も、なくなってしまいました」

 クリフ様が公務や勉強で忙しくなり、二人で過ごす時間がなくなったことにミリアナは不安を抱いているようだ。
 書斎で一緒にしていた勉強も、最近は執務室で一人でするようになったらしい。
 雪の花を見に行くことになった時も、『いつか』ではなくあの時一緒に行こうと誘って欲しかったのだろう。

「わたくしはもう、クリフ様に必要ないのでしょうか……」

 忙しいからとはいえ、一緒に過ごす時間がなくて不安になる気持ちはわかる。ましてや、ミリアナはまだ七歳だ。寂しくなるのは、当然のことだ。

「クリフ様にとって、ミリアナはとっても大切な人よ。それは、絶対変わらない。つらい時、ミリアナだけがクリフ様の支えだったはず。自信を持って」
「お姉様……」

 泣きそうなミリアナを、そっと抱きしめる。

「クゥーン」
「クウ……くすぐったいですわ」

 コートの胸元から顔を出したクウが、ミリアナの頬をぺろぺろと舐めて慰めようとしているみたい。

「とりあえず、女子会はまた今度にしましょう。一度部屋に戻って着替えてくるから、三十分後に厨房に集合しましょう」
「厨房……ですか?」

 忙しいクリフ様を邪魔しないようにミリアナができることをするのが、一番いいと思った。

 部屋に戻って急いで着替えをすませ、厨房に向かう。厨房の前では、すでにミリアナが待っていた。

「あら? カタリーナではないのですね」

 私の後ろに立っているメーガンを見て、首を傾げている。

「彼女はメーガン。これから彼女に、クッキーの作り方を教わろうと思うの」
「わたくしが、作るのですか?」
「そうよ。名付けて、ミリアナの愛がこもったクッキー大作戦!」

 クリフ様は、クッキーが大好きなのは調査済み。ミリアナが作ったクッキーなら、必ず喜んでくれるはず。


 
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