幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

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二章

盗み聞き

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「クッキーって、こんなに作るのが大変なのですね……」

 粉をボールに入れるだけの作業なのに、半分以上がボールの外に散らばっている。ミリアナがものすごく不器用なのはわかった。
 けれど、粉まみれになりながらも一生懸命作ろうとしている姿が愛らしい。

「食べるのは一瞬だけれど、作るのは大変よね。作ってくれる人に感謝して食べないとね」

 ミリアナが材料を混ぜ合わせているのだけれど、その中身がたまに飛んでくる。混ぜ終わる頃には中身がなくなってしまうのではと、心配になる。

「お姉様……これくらいでいいですか?」

 数分混ぜ合わせていただけなのに、ミリアナの息が上がっている。

「クリフ様への愛は、その程度なの?」

 代わってあげるのは簡単だけれど、それではミリアナの想いが伝わらない。

「違いますわ! わたくし、クリフ様のために頑張ります!」

 クリフ様の名前を出すだけで、ミリアナの疲れが吹き飛んでしまうようだ。こんなに想っているのだから、ミリアナの想いをクリフ様に届けたい。

「出来ましたわ!」

 生地は出来上がったけれど、混ぜ始めた時より半分以上減っている。掃除するのが大変そうだ……
 生地を寝かせている間、厨房でお茶をいただく。

「ミリアナ、よく頑張りました」

 褒めると蕩けそうなほどふにゃふにゃな笑顔を見せてくれる。
 二歳で婚約、五歳で王宮で暮らしているミリアナは、両親からの愛情をあまり知らない。宰相はもちろんミリアナを愛してはいるけれど、厳しく接していたようだ。
 ここでの暮らしで、クリフ様といる時だけが自分らしくいられた。そんなクリフ様との時間も減り、寂しくて仕方なかったのだろう。

「お姉様は、もうすぐグランディ王国へ帰ってしまうのですよね?」
「そうね。でもまたいつか、ミリアナに会いに来るわ」
「……わたくし、強くなります。お姉様のような女性になって、レイビス殿下のようにクリフ様をメロメロにしてみせますわ!」

 メロメロなんて言葉、どこで覚えたのだろうか。

「レイビス様が私にメロメロかはさておき、ミリアナなら私なんかよりも素敵な王妃になれるわ」
「お姉様……わたくし、頑張ります!」

 自分のためではなく、誰かのために必死に頑張れるミリアナ。どんな時も、クリフ様を支えていけるだろう。

 生地を一時間寝かせたあと、型抜きをしてからかまどで焼く。

「美味しそうな甘い香りがしてきました」

 焼いている間、ずっとかまどを見つめているミリアナ。美味しく焼き上がるのか心配なのだろう。
 生地はとっても少なくなってしまったけれど、メーガンが大丈夫だと言ってくれた。きっと美味しく焼き上がるだろう。

 焼き上がったクッキーをかまどから取り出して、味見をしてみる。

「……美味しい! 美味しいですわ、お姉様!」

 まるで百面相を見ているみたいに、コロコロ変わるミリアナの表情。やっぱり、まだまだ子供なのだと思わせる。
 子供らしく過ごすことができたこの時間は、ミリアナにとって貴重な時間だと思う。純粋で無邪気なミリアナが、悲しむことのないようにと願うばかりだ。

「うん、美味しい! クリフ様もきっと喜ぶわ」

 クッキーをお皿に盛り付け、お茶を用意する。お茶とクッキーを載せたカートを押して、クリフ様のいる執務室へと三人で向かう。

「緊張してきました。クリフ様が食べてくれなかったら、どうしましょう……」

 執務室の前まで来ると、ミリアナが急に不安になってしまう。

「大丈夫よ。ミリアナが一生懸命作ったクッキーを、クリフ様が食べてくれないなんてありえないわ」

 落ち着くように背中をさする。
 クリフ様も、ミリアナを大切に思っているのはわかっている。今の状況には、きっと理由があるのだろう。

「……わたくし、行きます!」

 勇気を出して、執務室の扉をノックする。

「クリフ様、お茶をお持ちしましたわ」
「ミリアナ!? 入って」

 ミリアナは中に入り、私とメーガンは廊下に残る。

「聞こえない……」

 中の様子が気になり、扉に耳をつける。
 笑い声が聞こえてきて、楽しそうだ。

「……なにをしているのですか?」
「ルドルフ殿下!?」

 中の話を聞くことに夢中になり、殿下がすぐそこにいることに気づかなかった。
 メーガン……気づいていたなら、教えてよ……

「これはですね、ミリアナがクリフ様との時間がないと落ち込んでいたので、クッキーを作って喜ばせようと思いまして。今まさに、クリフ様にクッキーをお届けしたのですが、二人の様子が気になってしまい、盗み聞きをしてしまいました」

 盗み聞きしている姿を見られてしまい、恥ずかしさからものすごく早口になってしまった。

「それは大事なことですね。なにをしているのです? 早く続きを聞きましょう!」

 なぜかルドルフ殿下まで、扉に耳をつけている。言われるまま私も耳をつけ、中の様子を伺う。

「……楽しそうですね」
「上手くいったみたいです。殿下、ありがとうございます」

 聞き耳を立てながら、ホッと胸を撫で下ろす。

「……なにをしているんだ?」

 次に現れたのはレイビス様。

「シーッ! 聞こえないだろ! レイビスも聞け」

 状況が理解できないまま、レイビス様も耳を扉につける。その様子を見て、メーガンがくすくすと笑っている。
 しばらくすると、なにも聞こえなくなった。

「静かになりましたね」
「クリフ……まだ幼いのだから、よからぬことをしてはダメだぞ。兄は許さん!」
「で、これはなにをしているんだ?」

 中が静かになってすぐに、執務室の扉が開いた。

「皆さん、なにを……?」
「レイビス、セリーナ、兄上まで、なにをなさっているのですか?」

 扉にピッタリと張り付いていた私たちを見ながら、二人は不思議そうに首を傾げる。そんな二人を見ながら、私たちは苦笑いを浮かべていた。
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