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二章
最後の願い
しおりを挟むシェリルたちがしていたことを、まさか自分たちがすることになるとは思わなかった。見つかった気まずさから、その場から一刻も早く去りたい気持ちでいっぱいになる。
「では、私たちはこれで失礼します」
なにが「では」なのか……
とりあえずこの場を離れたくて、そのまま歩き出す。
「お姉様! ありがとうございました!」
ミリアナ、上手くいってよかったね。
心の中でそう呟きながら、振り返らずに手を振る。カッコつけているわけではなく、恥ずかしくて振り向く勇気がないからだ。
そのまま歩き続け、二人には見えない場所まで来ると大きなため息が出た。
「はあ~……」
「「はあ~」」
私がため息をついたあと、レイビス様とルドルフ殿下のため息が聞こえた。二人も気まずかったのか、私のあとをついてきたようだ。
「急に扉が開いて、びっくりしましたね……」
「本当ですね。どんな顔をしたらいいか、わかりませんでした」
「で? なにをしていたんだ?」
レイビス様には、なにもわからないまま気まずい思いをさせてしまった。
とりあえず私の部屋に行き、レイビス様にも事情を話した。
「なるほど、ミリアナとクリフが心配だったのか」
ソファーに腰を下ろし、ようやく落ち着くことができた。いくらミリアナが心配だったからとはいえ、盗み聞きをするなんてやり過ぎてしまったと反省する。
「クリフがミリアナを遠ざけているのは、今の自分を見られたくないからだろう。自分の兄の処罰を決めなければならないのだからな」
クリフ様はきっと、カシム殿下を許したいと思っている。なにより、離れたくないだろう。けれど、それは決して許されることではない。それだけのことを、殿下はしてしまった。
短い期間で、大勢の人の刑を決めなければならなくなったクリフ様。
ルドルフ殿下毒殺未遂で捕えた貴族たちに始まり、カシム殿下の私兵たち。刑を言い渡されるのを待っている牢にいるガレスタ王国兵とケリースト、そしてカシム殿下。
幼いクリフ様が、たくさんの人たちの人生を左右する決断をしなければならない。その現実を小さな身体で受け止めようと、必死なのだろう。
ミリアナもまだ幼い。そんなミリアナに、厳しい選択をする自分の姿を見せて苦しめたくないのかもしれない。
「あんなに小さいのに、お互いを想いあっているのですね」
「それにしても、ミリアナがお菓子作りとは……セリーナ嬢が無事で本当によかったです」
「……どういう意味でしょうか?」
ミリアナの不器用さは、王宮の誰もが知っていることだったらしい。特になにかを作ることが苦手らしく、刺繍をしていたら自分の着ている服と縫い合わせてしまったことがあったとか。
しかもそのまま立ち上がったら盛大に転び、なぜか刺繍糸を切るハサミが宙を舞い、侍女に向かって飛んでいったそうだ。
しかも、それだけではないようで……
怖くてそれ以上は聞けなかったけれど、無事にクッキーが出来て本当によかった。
翌日になると、いつものミリアナに戻っていた。昨日過ごした短い時間で、ミリアナの不安も消え去ったようだ。
ミリアナの手作りクッキーを食べたクリフ様の様子も、少しだけ変わったように見える。
クッキーを喜んでくれたのがよほど嬉しかったのか、「今度はケーキに挑戦しますわ」と言っていた。
厨房で働く皆さん、どうかご無事でありますように。
そして、全ての罪人に刑が言い渡された。
最も厳しい刑を言い渡されたのは、ケリースト。侯爵令嬢を殺害した罪、王族をそそのかした罪、国を裏切った罪、脱獄を企てた罪などなど。
たくさんの罪を犯し、未だに反省もしていない。
マリーちゃんの両親を手にかけたのも、ケリーストだった。カシム殿下の目の前で惨殺し、殿下が後戻り出来ないようにしたのだろう。
殿下が止める間もなく斬りかかっていたと、その場にいた私兵が話していた。
そんなケリーストにも、妻がいたそうだ。その妻は、五年前に自害している。
妻の死で変わったわけではない。ケリーストは、ずっと権力を欲していた。権力を手に入れるために家族を蔑ろにした結果、妻は死を選んだ。
変わったとすれば、権力を手に入れるためになりふりかまわなくなったというところだろう。結局その権力を手にすることがないまま、彼は処刑される。
彼に共感することも、同情することもない。妻を蔑ろにし、自分だけのために生きてきたケリーストには、幸せな結末など残されていなかった。
捕らえられたガレスタ兵は、私兵たちの刑と同じ炭鉱送りとなる。ルドルフ殿下を崇拝していた護衛兵も、同様だ。
カシム殿下は身分を剥奪され、国外追放となる。
甘い決断だと、皆が言うかもしれない。幼い国王だからだと、言われてしまうかもしれない。けれど、クリフ様が一生懸命悩んで出した決断だ。
だから私は、そんなクリフ様を褒めて差し上げたい。
「ケリーストが、最後にセリーナに会いたいそうだ」
ケリーストは処刑が決まってすぐ、私に会いたいと言ってきた。この国では、処刑が決まると最後の願いが聞かれる。大抵は豪華な食事や、家族に会うこと、恋人に会うことを願い出るのだそうだ。
見たくもない相手に会いたいなどと、ずいぶん変わった最後の願いだと思う。
「セリーナが会う必要はない。いや、俺があんな奴に君を会わせたくない」
レイビス様は、私を心配してくれている。けれど……
「私、会います。最後の願いなのですから、叶えて差し上げましょう」
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