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二章
出会い カシム視点1
しおりを挟むフローラ(コールス侯爵令嬢)と出会ったのは、三年前の母上の葬儀の日だった────
「兄上!」
私の姿を見て、駆け寄ってくるクリフ。クリフは、初めて見る令嬢と一緒にいた。
「クリフ、心配してくれてありがとう」
私の味方は、母上とクリフだけだった。その母上を失い、これからどうしたらいいのかわからなくなっていた。クリフを抱きしめながら、涙が頬をつたう。
「兄上の母上は、お星様になったのでしょう? 近くにいなくても、ずっと兄上を見ているのだとフローラが言っていました」
「フローラ?」
「はい! フローラは、僕の家庭教師です! なんでも知っていて、すごいのです! ね、フローラ」
クリフが振り返ると、フローラは慌てて話し出す。
「も、も、申し訳ありません! わたわたわたし、余計なことを!」
あまりの慌てように、その瞬間だけ悲しみが和らいでいた。
「いや、謝る必要はない。クリフのことを、よろしく頼む」
「は、はい!」
変わった女。
だが、悪い人間ではなさそうだ。
葬儀が終わり、自分の部屋に戻るとどっと疲れが押し寄せてきた。
母上は死んでしまったと言うのに、参列した貴族たちは変わらず悪口を言っていた。遠い南の国からたった一人で嫁いで来たというのに、アシュタリア出身だからとバカにする。私はこの国が、心底嫌いだ。
母上が亡くなり、数日が経った。
怖くて、部屋を出ることができない。母上がいたから耐えられた陰口が、耐えられなくなっていた。
部屋の扉をノックする音が聞こえる。誰にも会いたくなくて、返事をしないでいると……
「兄上ー! いるのでしょう? 僕、兄上に会いたいです!」
「クリフ……」
クリフを無視することなどできない。
最初は、子供だから兄を慕っているだけなのだと思っていた。だが、クリフはクリフなりに私を想ってくれていたのだ。
貴族たちがクリフに「カシム殿下と仲良くしてはなりません。クリフ殿下には、悪影響にしかならないのですから」と話していた。
正直、またかとしか思わなかったのだが、クリフは私のために怒ってくれた。「カシム兄上は僕の兄上だ! 悪く言うのは許さない!」と。
まだ五歳だというのに、大人たちに向かってはっきりと拒否する姿を見て、この子は国王になるために生まれてきたのだと思った。同時に、こんな私を慕ってくれていることが嬉しかった。
「兄上、お庭に行きましょう!」
扉を開くと、クリフは笑顔でそう言った。そしてそのまま、手を引かれて庭園に出る。
「兄上! 雪です! 雪が降っています!」
雪国なのだから、雪が降ることなど珍しくもない。クリフは懸命に、私を元気付けようとしてくれているのだろう。
「クリフ、走ると転ぶぞ」
「えいっ」
クリフが雪を丸めて、投げてきた。
「兄上に当たりましたー」
「やったなーっ」
クリフに当たらないように、雪玉を投げると反対側から歩いてきたフローラの顔に当たってしまった。
「きゃっ!」
私たちは驚いて、フローラに駆け寄る。
「すまない!」
「フローラ、大丈夫?」
必死で、フローラの顔についている雪を払う。
「……」
顔を真っ赤にするフローラを見て、自分が女の子の顔に触れていたことに気づく。
「ごめん!」
慌てて手を離し、頭を下げる。
「……ふふっ。カシム殿下は、クリフ殿下が仰っていた通りの方ですね」
なぜか、笑われている?
「クリフが、私の話を?」
「カシム殿下のお話ばかりしていますよ」
どんな話か気になったが、風邪をひかないように室内に入ることにした。
私の部屋に行き、フローラにタオルを手渡す。
「ありがとうございます」
「本当にすまない。ケガがなくてよかった」
まさか、女の子の顔に雪玉を当ててしまうなんて……申し訳なくて落ち込む。
「お気になさらないでください。私の顔に傷がついたところで、なんの問題もありません」
笑って話してはいるが、女の子の顔に傷がついたらおおごとだ。彼女は、顔にコンプレックスでもあるのだろうか。
「そんなことを言ってはいけない。君は、とても魅力的だ」
すごい美人ではないけれど、可愛らしい顔をしている。傷がつかなくて本当によかったと思いながら、彼女の顔をジッと見つめる。
「あの……」
彼女の顔が真っ赤に染まり、目をそらされてしまった。その時、自分が恥ずかしいことを口にしたのだと気づく。なぜかわからないが、彼女の前だと無意識に行動してしまう。
「あ、あの、クリフは私のことをなんて話しているんだ?」
話題を変えようと試みる。
「どうして二人とも顔が赤いの?」
クリフもいることを忘れていた。そして、話題を変えることにも失敗。
「それは寒いからだ」
「僕が外に連れ出してしまったからですね。ごめんなさい」
我ながら苦しいいいわけだが、クリフは納得してくれたようだ。だが、悪くないクリフをションボリさせてしまった。
「クリフはなにも悪くない。私を、元気にしてくれようとしたんだよな」
クリフの頭を優しく撫でる。すると、嬉しそうに笑う。私にはもったいないくらい、可愛い弟だ。
「あの……クリフ殿下、授業の時間が過ぎています」
「あ! ごめんなさい!」
どうやらフローラは、クリフが部屋にいないから迎えに来たようだ。
「クリフを叱らないで欲しい。私を心配して来てくれただけなんだ」
クリフは故意に授業をサボったりはしない。
「わかっています。ですが、これからは気をつけてくださいね」
「はーい」
そういえば自然とフローラと一緒にいるけど、いつも他の貴族たちに感じる嫌な感じがしない。
彼女は、私に嫌悪感を抱いていないのだろうか。
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