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二章
フローラの死 カシム視点2
しおりを挟むあれから、クリフとフローラと三人で過ごすことが多くなっていた。今日もクリフの授業終わりに、温室で三人でお茶をしている。
「クリフは、真面目に授業を受けているのか?」
「もちろんです! 僕は勉強するのが大好きですから」
クリフは大好きなクッキーを食べながら、得意げにそう言う。
「クリフ殿下は、とても優秀ですよ。教えたことは、すぐに覚えてしまいます」
まだ五歳だというのに、感心する。
それにしても、フローラは気にならないのだろうか。温室に三人で向かっていた時、すれ違った貴族たちが私の陰口を言っていた。
私と一緒にいるだけで、彼女も悪く言われているのかと心配になる。
「聞いてもいいか? その……フローラは、私と共に過ごしていて大丈夫なのか?」
「大丈夫なのか……とは?」
「貴族たちは、私を蔑んでいる。君も私といることで、なにか言われたりしていないか?」
こんなこと、本当は聞きたくはない。自分が惨めになってくる。
「正直にお話します。最初は、カシム殿下と関わらないようにしようと思っていました。ですがクリフ殿下からカシム殿下のお話を聞くうちに、そんなことはどうでもよくなっていました。言わせたい人たちには、言わせておけばいいのです」
「……本当に、正直なのだな」
「も、申し訳ありません!」
「いや……ありがとう。私と関わってくれて、嬉しいよ」
私は、甘えていたのかもしれない。
母上がアシュタリア出身だから、息子の私も受け入れてもらえるはずはないと決めつけて、なんの努力もしてこなかった。
フローラはこんな私と、こうして向き合ってくれる。彼女を守るためにも、みんなに認められる存在になりたい。
それから私は、認められるように懸命に努力をした。
徐々に周りの私への態度が変わって行き、大嫌いだったこの国も嫌いではなくなり始める。
そしてようやく、彼女に想いを告げた。
「フローラ、私は君に救われている。君のことが、好きだ」
フローラは少し驚いた表情を見せたあと、嬉しそうに微笑んだ。
「……私も、好きです」
初めての感情だった。彼女がいるだけで、なんでも出来そうな気がする。
フローラと想いが通じ合えたあとは、さらに国のために働いた。彼女との婚約を、コールス侯爵に認めてもらうためだ。
コールス侯爵は、私を嫌っている。だが、諦めたりはしない。
ルドルフ兄上のように問題を抱えている村や町を訪れ、民と共に悩み、共に問題を解決していく。
兄上のように上手くは出来ないけれど、民のために働くのは好きだった。
そんな時、父上がお倒れになってしまったのだ。
父上が倒れたあと、ケリーストから次の王になって欲しいと言われた。もちろん、断った。
まだ父上はご存命だ。不謹慎にも程がある。それに、次の王はクリフしかいない。
そんなことを進言する臣下を、本来なら罰するべきなのだろう。だがケリーストは、誰からも認められていなかった時から味方のいない私に優しくしてくれていた。
私には、ケリーストを罰することは出来なかった。
それから数ヶ月後、フローラが死んだ。
私が公務で王宮を離れている間に、コールス侯爵はフローラと他国の貴族との結婚を決めていた。そして、その国に向かう途中で事故にあったようだ。
王宮に戻った時には葬儀も終わり、彼女はすでに埋葬されていた。最後にフローラの顔を見ることさえ、叶わなかった。
私は、これからどうしたらいいのか……
愛するフローラを失い、なにもかもどうでもよくなっていた。
そしてまた、ケリーストから王になって欲しいと言われた。
「カシム殿下が王にならなければなりません! 殿下が王になっていたら、フローラ嬢も無理やり嫁がされることはなかった! そして、あのようなお姿になることも……」
あのような姿……
フローラの遺体は、無惨な姿だったそうだ。崖から落ちたのが原因か、身体中の骨が折れ、顔はパンパンに腫れ上がっていたという話だ。
本当に事故なのかとも考えたが、荷物は手付かずだったこともあり、賊の仕業とも思えない。フローラが殺される理由などなく、事故だと納得した。
「フローラの話はするな……。私には、そんな気力もない」
彼女を失った悲しみが、消えることはない。この先、彼女なしで生きていく自信さえない。
「本当によろしいのですか!? 母上がどれほどお辛い目にあってこられたか、殿下もおわかりでしょう! 今まで蔑んで来た貴族たちを、フローラ嬢との婚約を許さなかったコールス侯爵をお許しになるのですか!?」
「私は、フローラがそばにいてくれさえすればよかった……」
「そのフローラ嬢を奪ったのは誰ですか!? 殿下、力を持つのです! フローラ嬢のためにも、権力を握るのです! この国に、復讐をしましょう!」
生きる気力さえ失っていた私は、ケリーストの言葉で心を決めた。
たしかに、その通りだと思った。私に力があったなら、フローラを失わずにすんだかもしれない。
ケリーストは、山を拠点にし、兵を育てることを提案した。父上の病状が日に日に悪化していき、幼いクリフが国王になることに不安を抱く王国兵たちも仲間に加わった。
「クリフの命は、助けてやりたい」
国王になると決意した時から、この話題にはずっと触れずに来た。クリフを殺すなんて、考えられないからだ。
「それは出来ません」
「ケリースト!」
「殿下も、おわかりのはずです。クリフ殿下が生きていては、いつか王座を奪われることになります。兵士たちは、殿下のために命をかけるのです。そのような甘いお考えはお捨て下さい」
クリフは、殺さなければならない……それは、わかっている。だが、まだ私は受け入れられずにいた。
そんな時、事件が起きた。
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