幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

文字の大きさ
59 / 77
二章

フローラの死 カシム視点2

しおりを挟む

 あれから、クリフとフローラと三人で過ごすことが多くなっていた。今日もクリフの授業終わりに、温室で三人でお茶をしている。

「クリフは、真面目に授業を受けているのか?」
「もちろんです! 僕は勉強するのが大好きですから」

 クリフは大好きなクッキーを食べながら、得意げにそう言う。

「クリフ殿下は、とても優秀ですよ。教えたことは、すぐに覚えてしまいます」

 まだ五歳だというのに、感心する。
 それにしても、フローラは気にならないのだろうか。温室に三人で向かっていた時、すれ違った貴族たちが私の陰口を言っていた。
 私と一緒にいるだけで、彼女も悪く言われているのかと心配になる。
 
「聞いてもいいか? その……フローラは、私と共に過ごしていて大丈夫なのか?」
「大丈夫なのか……とは?」
「貴族たちは、私を蔑んでいる。君も私といることで、なにか言われたりしていないか?」

 こんなこと、本当は聞きたくはない。自分が惨めになってくる。

「正直にお話します。最初は、カシム殿下と関わらないようにしようと思っていました。ですがクリフ殿下からカシム殿下のお話を聞くうちに、そんなことはどうでもよくなっていました。言わせたい人たちには、言わせておけばいいのです」
「……本当に、正直なのだな」
「も、申し訳ありません!」
「いや……ありがとう。私と関わってくれて、嬉しいよ」

 私は、甘えていたのかもしれない。
 母上がアシュタリア出身だから、息子の私も受け入れてもらえるはずはないと決めつけて、なんの努力もしてこなかった。
 フローラはこんな私と、こうして向き合ってくれる。彼女を守るためにも、みんなに認められる存在になりたい。

 それから私は、認められるように懸命に努力をした。
 徐々に周りの私への態度が変わって行き、大嫌いだったこの国も嫌いではなくなり始める。
 そしてようやく、彼女に想いを告げた。

「フローラ、私は君に救われている。君のことが、好きだ」

 フローラは少し驚いた表情を見せたあと、嬉しそうに微笑んだ。

「……私も、好きです」

 初めての感情だった。彼女がいるだけで、なんでも出来そうな気がする。
 フローラと想いが通じ合えたあとは、さらに国のために働いた。彼女との婚約を、コールス侯爵に認めてもらうためだ。
 コールス侯爵は、私を嫌っている。だが、諦めたりはしない。
 ルドルフ兄上のように問題を抱えている村や町を訪れ、民と共に悩み、共に問題を解決していく。
 兄上のように上手くは出来ないけれど、民のために働くのは好きだった。

 そんな時、父上がお倒れになってしまったのだ。
 父上が倒れたあと、ケリーストから次の王になって欲しいと言われた。もちろん、断った。
 まだ父上はご存命だ。不謹慎にも程がある。それに、次の王はクリフしかいない。
 そんなことを進言する臣下を、本来なら罰するべきなのだろう。だがケリーストは、誰からも認められていなかった時から味方のいない私に優しくしてくれていた。
 私には、ケリーストを罰することは出来なかった。

 それから数ヶ月後、フローラが死んだ。
 私が公務で王宮を離れている間に、コールス侯爵はフローラと他国の貴族との結婚を決めていた。そして、その国に向かう途中で事故にあったようだ。
 王宮に戻った時には葬儀も終わり、彼女はすでに埋葬されていた。最後にフローラの顔を見ることさえ、叶わなかった。
 私は、これからどうしたらいいのか……
 愛するフローラを失い、なにもかもどうでもよくなっていた。

 そしてまた、ケリーストから王になって欲しいと言われた。

「カシム殿下が王にならなければなりません! 殿下が王になっていたら、フローラ嬢も無理やり嫁がされることはなかった! そして、あのようなお姿になることも……」

 あのような姿……
 フローラの遺体は、無惨な姿だったそうだ。崖から落ちたのが原因か、身体中の骨が折れ、顔はパンパンに腫れ上がっていたという話だ。
 本当に事故なのかとも考えたが、荷物は手付かずだったこともあり、賊の仕業とも思えない。フローラが殺される理由などなく、事故だと納得した。

「フローラの話はするな……。私には、そんな気力もない」

 彼女を失った悲しみが、消えることはない。この先、彼女なしで生きていく自信さえない。

「本当によろしいのですか!? 母上がどれほどお辛い目にあってこられたか、殿下もおわかりでしょう! 今まで蔑んで来た貴族たちを、フローラ嬢との婚約を許さなかったコールス侯爵をお許しになるのですか!?」
「私は、フローラがそばにいてくれさえすればよかった……」
「そのフローラ嬢を奪ったのは誰ですか!? 殿下、力を持つのです! フローラ嬢のためにも、権力を握るのです! この国に、復讐をしましょう!」

 生きる気力さえ失っていた私は、ケリーストの言葉で心を決めた。
 たしかに、その通りだと思った。私に力があったなら、フローラを失わずにすんだかもしれない。

 ケリーストは、山を拠点にし、兵を育てることを提案した。父上の病状が日に日に悪化していき、幼いクリフが国王になることに不安を抱く王国兵たちも仲間に加わった。

「クリフの命は、助けてやりたい」

 国王になると決意した時から、この話題にはずっと触れずに来た。クリフを殺すなんて、考えられないからだ。

「それは出来ません」
「ケリースト!」
「殿下も、おわかりのはずです。クリフ殿下が生きていては、いつか王座を奪われることになります。兵士たちは、殿下のために命をかけるのです。そのような甘いお考えはお捨て下さい」

 クリフは、殺さなければならない……それは、わかっている。だが、まだ私は受け入れられずにいた。
 そんな時、事件が起きた。
しおりを挟む
感想 308

あなたにおすすめの小説

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。