幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

文字の大きさ
60 / 77
二章

謝罪 カシム視点3

しおりを挟む

「ケリースト、やめ……」
「ぎあああぁぁぁっ!!」

 目の前で、ケリーストは男性を斬った。守るべき民が殺され、それが自分のせいだという現実が受け入れられず、私は放心していた。

「あなた!」

 男性の悲鳴を聞いて女性が現れ、斬られた男性の身体を抱き起こす。その女性を、ケリーストは無表情で斬りつける。

「なにをしているんだ! 民を手にかけるなど、あってはならないことだ!」

 ようやく正気を取り戻して止めに入った時には、すでに遅かった。女性は血まみれで倒れていた。

「あ……あぁ……」
「まだ生きている! すぐに医者に診てもらわなくては!」
「殿下、そこをお退きください。この者に、話を聞かれてしまいました。殺さなければ、私たちは終わりです」
「それなら、それでいい。命令だ! これ以上、罪のない者の命を奪ってはならない!」

 ケリーストの誘いに乗ったのが、そもそも間違いだった。私には、クリフを殺すことなどできない。
 罪のない民の命を奪ってまで、王になりたいとも思わない。

「申し訳ないのですが、そのご命令に従うことはできません。私たちはもう、後戻りはできないのです」

 女性の前に立っていた私を交わし、女性に剣を突き刺した。

「……な……にを……」

 ケリーストは、何度も何度も何度も何度も……女性と男性に剣を突き刺す。
 あまりに残酷な行為に、腰が抜けて動けない。

「なにを見ている? おまえたちもやれ」

 ケリーストは二人の私兵にそう命令し、三人は遺体を何度も突き刺す。
 目の前で行われている残虐な光景に、頭がついていかない。真っ白な雪が血に染まっていくのを、ただ見ていることしか出来なかった。
 後戻りは出来ない……ケリーストが言った言葉が、頭の中で繰り返されている。なぜ、こんなことになってしまったのだろうか。
 視界に、小さな女の子の姿が映った。この二人は、彼女の両親だろう。クリフと同じ年頃だろうか……女の子がケリーストに見つかれば、殺されてしまう。

「もういいだろう。行くぞ」

 平静を装い、その場を離れようと促す。あの子だけは、絶対に守らなければならない。

「殿下、二度と怖気付いたりしないでいただきたい。この戦いは、あなたが望んだことなのです」

 ケリーストはなにがなんでも、私を王にしようとするだろう。

「わかっている。だがおまえこそ、二度と命令に背くことは許さない。アジトに戻るぞ」

 一刻も早く、この場から去ろうと思った。女の子を守るにはそうするしかなかったのだが、無事に山をおりられたのだろうか。あの子の無事を、祈ることしか出来なかった。

 ────そして、あの日が訪れた。
 セリーナ嬢とレイビス殿下があの場にいてくれなかったら、私はクリフを手にかけていたかもしれない。
 クリフは私をあんなに慕ってくれていたのに、その気持ちを裏切ってしまった。
 この国が好きだったのだと、今なら思える。
 私は国外追放となり、母上の生まれた国であるアシュタリア王国へと向かう。
 クリフは、姿を現さなかった。最後に一目だけでも会いたかったが、それは私のわがままだ。罪を犯した私には、許されない。

 王宮の門を出ると、たくさんの民が待っていた。皆、涙を流しながら、私の乗っている馬車に手を振っている。
 決して許されないことをしてしまった私に、手を振り返すことなど出来ない。そんな資格は、私にはないのだ。
 ゆっくりと走る馬車から、一人の少女が見えた。すぐにわかった。あの時の、少女だと。

「すまない! 止めてくれ!」

 どうしても彼女に、謝りたかった。謝ってすむことではないことは、重々承知だ。それでも、謝らなければならない。
 馬車が止まると、彼女の元に走り出す。彼女もすぐに私に気づき、驚いた表情を見せる。
 彼女にとっては、二度と見たくない顔だろう。

「本当に、申し訳ないことをした! すまなかった!」

 頭を深々と下げ、誠心誠意謝罪する。

「……どうして、お父さんとお母さんは死ななくちゃいけなかったの? 返してよ……お父さんとお母さんを返して!」

 返してあげられたら、どれほどよかったか……
 取り返しのつかないことをしてしまった自分を、何度も責めてきた。

「……すまない」

 私には、謝ることしか出来ない。

「謝られたところで、許すことなどできやしない。あんたが、この国のために努力してきたことは知っている。だからこうして、みんな集まったんだ。だがな、俺とマリーは、あんたを許すことは決してない。それだけは、覚えておいてくれ」

 彼は、彼女の祖父だろうか。だとしたら、彼から子を奪ったことになる。許さないのは、当然だ。許されようとも、思っていない。

「忘れない。本当に、申し訳なかった」

 兵が私を、もう一度馬車に乗せる。
 泣きながら祖父に抱きつく少女の姿が、小さくなっていく。見えなくなるまで、少女の姿を目に焼き付けた。
しおりを挟む
感想 308

あなたにおすすめの小説

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。