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二章
謝罪 カシム視点3
しおりを挟む「ケリースト、やめ……」
「ぎあああぁぁぁっ!!」
目の前で、ケリーストは男性を斬った。守るべき民が殺され、それが自分のせいだという現実が受け入れられず、私は放心していた。
「あなた!」
男性の悲鳴を聞いて女性が現れ、斬られた男性の身体を抱き起こす。その女性を、ケリーストは無表情で斬りつける。
「なにをしているんだ! 民を手にかけるなど、あってはならないことだ!」
ようやく正気を取り戻して止めに入った時には、すでに遅かった。女性は血まみれで倒れていた。
「あ……あぁ……」
「まだ生きている! すぐに医者に診てもらわなくては!」
「殿下、そこをお退きください。この者に、話を聞かれてしまいました。殺さなければ、私たちは終わりです」
「それなら、それでいい。命令だ! これ以上、罪のない者の命を奪ってはならない!」
ケリーストの誘いに乗ったのが、そもそも間違いだった。私には、クリフを殺すことなどできない。
罪のない民の命を奪ってまで、王になりたいとも思わない。
「申し訳ないのですが、そのご命令に従うことはできません。私たちはもう、後戻りはできないのです」
女性の前に立っていた私を交わし、女性に剣を突き刺した。
「……な……にを……」
ケリーストは、何度も何度も何度も何度も……女性と男性に剣を突き刺す。
あまりに残酷な行為に、腰が抜けて動けない。
「なにを見ている? おまえたちもやれ」
ケリーストは二人の私兵にそう命令し、三人は遺体を何度も突き刺す。
目の前で行われている残虐な光景に、頭がついていかない。真っ白な雪が血に染まっていくのを、ただ見ていることしか出来なかった。
後戻りは出来ない……ケリーストが言った言葉が、頭の中で繰り返されている。なぜ、こんなことになってしまったのだろうか。
視界に、小さな女の子の姿が映った。この二人は、彼女の両親だろう。クリフと同じ年頃だろうか……女の子がケリーストに見つかれば、殺されてしまう。
「もういいだろう。行くぞ」
平静を装い、その場を離れようと促す。あの子だけは、絶対に守らなければならない。
「殿下、二度と怖気付いたりしないでいただきたい。この戦いは、あなたが望んだことなのです」
ケリーストはなにがなんでも、私を王にしようとするだろう。
「わかっている。だがおまえこそ、二度と命令に背くことは許さない。アジトに戻るぞ」
一刻も早く、この場から去ろうと思った。女の子を守るにはそうするしかなかったのだが、無事に山をおりられたのだろうか。あの子の無事を、祈ることしか出来なかった。
────そして、あの日が訪れた。
セリーナ嬢とレイビス殿下があの場にいてくれなかったら、私はクリフを手にかけていたかもしれない。
クリフは私をあんなに慕ってくれていたのに、その気持ちを裏切ってしまった。
この国が好きだったのだと、今なら思える。
私は国外追放となり、母上の生まれた国であるアシュタリア王国へと向かう。
クリフは、姿を現さなかった。最後に一目だけでも会いたかったが、それは私のわがままだ。罪を犯した私には、許されない。
王宮の門を出ると、たくさんの民が待っていた。皆、涙を流しながら、私の乗っている馬車に手を振っている。
決して許されないことをしてしまった私に、手を振り返すことなど出来ない。そんな資格は、私にはないのだ。
ゆっくりと走る馬車から、一人の少女が見えた。すぐにわかった。あの時の、少女だと。
「すまない! 止めてくれ!」
どうしても彼女に、謝りたかった。謝ってすむことではないことは、重々承知だ。それでも、謝らなければならない。
馬車が止まると、彼女の元に走り出す。彼女もすぐに私に気づき、驚いた表情を見せる。
彼女にとっては、二度と見たくない顔だろう。
「本当に、申し訳ないことをした! すまなかった!」
頭を深々と下げ、誠心誠意謝罪する。
「……どうして、お父さんとお母さんは死ななくちゃいけなかったの? 返してよ……お父さんとお母さんを返して!」
返してあげられたら、どれほどよかったか……
取り返しのつかないことをしてしまった自分を、何度も責めてきた。
「……すまない」
私には、謝ることしか出来ない。
「謝られたところで、許すことなどできやしない。あんたが、この国のために努力してきたことは知っている。だからこうして、みんな集まったんだ。だがな、俺とマリーは、あんたを許すことは決してない。それだけは、覚えておいてくれ」
彼は、彼女の祖父だろうか。だとしたら、彼から子を奪ったことになる。許さないのは、当然だ。許されようとも、思っていない。
「忘れない。本当に、申し訳なかった」
兵が私を、もう一度馬車に乗せる。
泣きながら祖父に抱きつく少女の姿が、小さくなっていく。見えなくなるまで、少女の姿を目に焼き付けた。
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