幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

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二章

再び工房へ

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「セリーナ、マリーに会いに行こう」

 どうやら親方から、頼んでいた物ができたと連絡がきたようだ。マリーちゃんに会えるのは嬉しい。
 早速準備をすませ、出発した。

「カシム様、マリーちゃんに謝罪したそうですね」

 親方の工房に向かう馬車の中で、あの時の光景を思い出す。声は聞こえなかったけれど、誠心誠意謝っていたように見えた。
 両親を目の前で殺されてしまったのだから、マリーちゃんがカシム様を許すことなど絶対にないだろう。
 それでも、マリーちゃんの心が少しでも救われていたらと思う。誰かを恨み続ける人生ではなく、前を向いて生きて欲しい。

「セリーナに会えば、マリーも元気になるだろう」
「それなら、いいのですけれど……」

 マリーちゃんは、お祖父さんまで失うところだった。クリフ様やミリアナもそうだけれど、この国の子供たちはつらい目にあいすぎだと思う。
 これからは、幸せな未来が待っていると信じている。

「そういえば、ホワイトはクリフ様のおそばを離れないようですね。クリフ様にすっかり懐いてしまったとか。もう伝説の狼……ではないですね」

 短期間で色々なことが起こり、頼りない国王だと言われていたクリフ様は立派に成長した。それでも、幼い国王だからと不安を抱く者はいるだろう。
 けれど伝説の狼であるホワイトがそばにいることで、その不安は徐々に消えていくはずだ。クリフ様は唯一、ホワイトと話すこともできるのだから。

「ホワイトのことを、言えないのではないか?」

 レイビス様の視線が、私のコートの中で眠っているクウに向けられる。コートの中は、すっかりクウの居場所になってしまった。

「私もいつか、クウの言っていることが理解できるようになるのでしょうか。ねえ、クウ」
「……クゥ……」

 眠ったまま、返事をしてくれた。これは、寝言?

「今でも十分、通じ合えているように見えるが? ずっとセリーナの胸元で寝られて羨ま……いや、クウは幸せ者だな」
「殿下、心の声が漏れていますよ。クウを触るフリしてあわよくば……などというお考えはお捨てください。でないと、このセリーナにもらった剣が血に染まることになります」

 クウを触ろうと伸ばされたレイビス様の手が、ピタリと止まる。そしてそのまま、元の位置に戻っていく。
 二人の顔を交互に見ると、レイビス様の顔にうっすらと汗が滲んでいて、カタリーナの目は全く笑っていない。
 二人の間に変な空気が流れているけれど、それはいつものことだ。外の景色でも眺めよう。

「雪……」

 馬車の窓から外を見ると、雪が降り出していた。この光景を見られるのは、あと何回だろうか。
 音もなく降り積もる雪は、心を穏やかにしてくれる。この景色が、私は好きだ。

「セリーナ、一緒に来てくれてありがとう」
「急に、どうされたのですか?」

 レイビス様の顔を見ると、柔らかい微笑みを浮かべている。

「俺一人でこの国に来ていたら、どうなっていたかわからない。セリーナがいてくれたから、この国は今も平和なんだ」
「そんなことは……」
「素直に感謝されて欲しい。君は、本当にすごい人だ」

 レイビス様の指が、私の頬に触れる。
 彼の指が触れているところが熱を持ち、頬が赤く染まっていく。
 私がすごいわけじゃない。いつだって誰かに、助けられている。

「……私がいるのを、忘れていないか?」

 カタリーナの声で、一瞬で我に返る。

「わ、忘れてないよ!」

 赤くなった頬を隠すように、両手で隠す。
 カタリーナがいることを、完全に忘れていた。

「殿下、でセリーナに手を出すのはおやめください。私は全て、陛下(スフィリル皇帝)にお伝えしなければなりません」
「カタリーナ、それって……」
「つまり、カタリーナがいないところでしろということだな」
「さあ、なんのことでしょう?」

 カタリーナはカタリーナなりに、レイビス様を認めている。それが、すごく嬉しい。

「ちなみに、シェリルにも同じ情報を送っています」
「はあ!?」
「えっ……シェリルにも、伝えているの!?」
「そうしないと泣いてやる! と脅されたので」

 シェリル、恐るべし。
 私たちのことを聞いて、どうするつもりなのだろうか。それにしても、可愛い脅し方だ。
 シェリルが情報通なのは、まさかそんなふうにみんなを脅しているから? なんて、あるわけないか。

「シェリルのやつ……」

 シェリルと離れてからだいぶ経つのに、今も私たちのそばにいるように感じる。

「仕方がありません。だって、シェリルですから」

 その言葉で納得して、私たちは笑い合う。
 工房に着くまで、シェリルの話で盛り上がっていた。

「お姉ちゃん!」

 工房に着くと、マリーちゃんが出迎えてくれた。彼女は職人になるために勉強中で、毎日工房にいるらしい。彼女の元気な姿が見られて、ホッとする。
 工房の中は、この前来た時と違ってずいぶんと賑やかだ。

「お待ちしてましたよ、レイビス殿下~」

 親方はとても機嫌がよさそうに、レイビス様を出迎える。レイビス様が親方と話している間、マリーちゃんが工房を案内してくれる。
 白い狼が人間を襲うという噂が流れて、鉱石を採ることができなくなってから数年。何人もいた職人たちは、工房から去っていった。
 噂が嘘だったと知り、鉱山の採掘も再開され、職人たちも戻ってきたようだ。
 白い狼を、一目見ようと訪れる観光客も増えてきている。ただ、ホワイトたちはすでに山にはいないのだけれど……

「お姉ちゃん……なんか、コートの中にいるみたい……」

 私のコートの胸元を見ながら、マリーちゃんが驚いている。

「そういえば、マリーちゃんに紹介していなかったね。この子は、クウ。よろしくね」

 胸元から、まだ眠たそうなクウを出してマリーちゃんに紹介する。

「わあ! かわいー! 抱いてもい?」
「どうぞ」

 嬉しそうにクウを見つめるマリーちゃんに、そっとクウを手渡す。幼い女の子と小さな狼……この組み合わせは、最強だ。
 
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