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二章
裏切り
しおりを挟む何事もなく、一週間後を迎えた。
議会に集まった貴族たちは、続々と会議室へ入る。ただ、なぜかドノバン公爵の姿がない。
「お集まりの皆さんに、私からご報告があります」
集まった貴族たちにそう話すのは、ランドルク公爵。
「私が掴んだ情報では、近隣のオーバレ王国、ネダ王国、プマリヤ王国、ゴーレスタ王国の四カ国がこの国に攻撃を仕掛けようとしているようです」
公爵の話を聞き、集まった貴族たちがザワつく。近隣四カ国はグルダと同じ小国とはいえ、四つの国を相手にするのは無謀だ。
いっせいに攻められたら、この国は終わる……皆、それはわかっている。
「こうしている間にも、攻撃は始まっているでしょう。四カ国がいっせいに攻撃を始めたと、数日後には報告が入ると思います」
「すぐに手を打たなければ……」
「兵を送らなければ」
「なぜ急に、このようなことに……」
なぜ急に……それが、ほとんどの貴族たちの気持ちだろう。
攻撃を仕掛けようとしている四カ国は、それほど仲がいいとは言えない。だがその四カ国が同時に攻めてくるということは、手を組んでいるとしか思えない。
「……ランドルク公爵、なにか手があるのか?」
会議室が緊張に包まれた時、ルギウスが口を開く。
「あります。その前に、恐れながらこの国を守るために陛下にはその座を退いていただきたい」
ランドルク公爵の言葉に、貴族たちは驚きを隠せない。
「ランドルク公爵、それはどういうことですか!?」
「無礼ですぞ!」
驚きが怒りに変わり、貴族たちはランドルク公爵を責める。
「私も、このようなことをお伝えしたくはありません。ですが、この国を窮地に陥らせた責任を取っていただかなければなりません」
「まずは、国を守ることが先ではないのか!?」
「責任の追求より、この危機をどう対処するかを話し合うべきだ!」
危機を脱する方法ではなく、責任の追求を優先する公爵に苛立ちを覚える貴族たち。
ドノバン公爵はまだ姿を現しておらず、セリーナたちが味方にした貴族たちは一度も口を開いてはいない。
「私は、この国を愛しています。皆さんも、そうでしょう。先程も申しましたが、陛下がその座を退くこと……それがこの国を守る方法なのです」
貴族たちはわけがわからず、困惑の表情を浮かべている。
「話を続けてくれ。この国を危機から救う方法があるなら、なんでもしよう」
ルギウスは表情を変えることなく、ランドルク公爵に話を続けるように言う。
「私なら、四カ国を説得することができます。ですが、皆ルギウス陛下に不信感を抱いているのです。四カ国は陛下の退位を要求するでしょう。説得するには、陛下の退位が必要不可欠なのです」
もっともらしく語っているが、四カ国と交渉できるのなら、窮地に陥る前に交渉するべきだったと皆が思った。
ランドルク公爵が報告したのは、四カ国がすでに国境付近まで訪れているというもの。さらに、攻撃は開始されていると確信している。
この国が追いつめられ、ルギウスが退位しなければならないほどの状況に持っていくためなのだと誰もがわかっている。
そんな状況になっても、口を開こうとしないホークス公爵たち。このままでは、ルギウスが王位を退くことになってしまう。
「申し訳ありません。遅くなりました」
議会が始まってから数十分後、姿を現したのはドノバン公爵夫人と元王妃、そしてサイモンだった。
三人の姿を見て、会議室内はどよめく。議会には王族と貴族が参加可能だが、ドノバン公爵ではなく夫人が現れ、廃妃となった元王妃が現れ、廃王子となったサイモンまで現れたのだから無理もない。
「これは、どういうことですか?」
一人の貴族が皆の疑問を口にする。
「夫が急病のため、私が代わりに参加しますわ」
「四カ国との交渉には、私が必要なの。四カ国の国王陛下とは、懇意にしていたのよ。それと、ルギウスが退位した時のためにサイモンを連れてきたわ」
ドノバン公爵夫人はまだしも、平民となった二人がこの場にくるのは、どう考えても最初から計画されていたことなのだとわかる。
それでもこのまま四カ国に国を滅ぼされるわけにはいかないと、誰もそれを追求できない。
ドノバン公爵夫人は、一週間前に夫を選んだはずだった。だが、結局ランドルク公爵家を選んだようだ。
公爵は急病ではなく、自宅に軟禁されている。
夫人はセリーナとレイビスがきたことをランドルク公爵に話し、夫の裏切りも報告していた。ドノバン公爵を説得しようと試みたが、公爵は気持ちを変えず、仕方なく夫人がこの場に現れた。
ランドルク公爵は、セリーナとレイビスにはなにも出来ないと判断し、計画を続行することを決めた。
二人は、護衛以外の兵を連れていなかった。つまり、国の命令で動いていたわけではない。
早急にルギウスを退位させ、サイモンを王にしてしまえば、友好国とはいえ、王位の問題に口を出すことなどできない。
だからこそ、セリーナたちはランドルク公爵側の貴族たちを味方につけようとしていたのだ。だが、味方にしたはずの貴族たちはひとことも口を開かず、ドノバン公爵は出席できない状態。
議会は、ランドルク公爵の思い通りに進んでいた。
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