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二章
我慢の限界
しおりを挟む隣の部屋で、私たちは会議室の様子を伺っていた。
「夫人と元王妃様とサイモン様が、中に入ったようね。それにしても、ランドルク公爵には腹が立つわ! 偉そうに、何様のつもりなの!?」
「シェリル、気持ちはわかるけれどその体勢はちょっと……」
シェリルは誰よりも耳を壁に押し付けて、中の話を聞いている。なんでもっと壁を薄くしないのよと、文句を言っていた。
「今だけだ。ランドルクも、元王妃も、サイモンも終わりだからな」
珍しくシェリルをからかおうとはせず、拳を握りしめるレイビス様。ものすごく、怒っているようだ。
「それにしても、残念でしたね……ドノバン公爵」
「申し訳ありませんでした。本当は彼女が変わらないとわかっていたのかもしれません。それでも、信じたかった……」
あれから、ドノバン公爵の屋敷をずっと見張らせていた。屋敷にランドルク公爵が現れたことで、夫人が裏切ったこともわかっていたのだ。
どうしても私は、夫人を信じることが出来なかった。彼女は、クリスティ様にそっくりだったからだ。
夫人が屋敷を出たあとに、ドノバン公爵を救出して王宮へお連れしていた。
「しーっ! 始まったわ! なんだか、楽しくなってきた!」
なぜか、シェリルはとても楽しそうだ。
ルギウス様の婚約者になってから、ランドルク公爵家にさんざん苦しめられてきたのだろう。私たちと別れてからずっと、心から笑えていなかったのかもしれない。
シェリルはそんなに強くない。それはわかっていたはずなのに、こんなに苦しんでいたことに気づいてあげられなかった。
せめて、もう二度とランドルク公爵家に悩まされないようにしてあげたい。
私もシェリルを見習って、壁に耳をピッタリとくっつける。すると、会議室の声が聞こえてきた。
「ルギウス、あなたがこのまま国王でいたら、この国は終わりよ。さっさとその座を、サイモンに譲りなさい!」
「…………」
元王妃様の無礼な物言いに、ルギウス様はなにも答えない。
「兄上、短い間だったけどご苦労様。兄上には、荷が重かったでしょう。あとは任せて、ゆっくり休んでください」
サイモン様は、すでに王になったつもりでいる。
「こうしている間にも、多くの民の命が失われていきます。陛下、ご決断を」
民の命が失われるとわかっていて仕組んだ張本人が、どの口で言っているのだろうか。本当に、救いようがない。
「悪いが、私がこの座を退くことはない」
ずっと話を合わせていたルギウス様が、はっきりと自分の意見を告げた。
「な……にを……? まさか、四カ国と戦争でもするおつもりか!? 自分の地位を守るために、この国を滅ぼすというのか!?」
「ルギウス、いい加減にしなさい! あなたのワガママで、この国が滅んでもいいと言うの!?」
ワガママは、どちらだろうか。
壁から離れ、私たちは廊下に出て隣の会議室へ向かう。
「皆さん、どう思われますか? 陛下は、民を守る気がないようです! 未熟な国王のせいで、民が命を失う……そのようなことが、あっていいのでしょうか!」
ドノバン公爵が会議室の扉に手をかけ、ゆっくりと開く。
「ランドルク公爵、その辺にしたらいかが?」
一番最初に会議室に足を踏み入れたのは、シェリルだった。予定ではドノバン公爵が先に入るはずだったのだけれど、シェリルは我慢の限界を超えていたようだ。
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