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5、犯人を捕まえよう
しおりを挟む「僕は……っ」
ディアム様の気迫に、エリック様は言葉を詰まらせる。そんなエリック様の隣りに、オリビア様が並んで立つ。
「エリックを責めないで。エリックは、身体が弱い私のことをずっと気遣ってくれた。それが、悪いことなの? レイチェル様は、エリックが私の側にいるのが気に入らなかったのでしょう? だから、私に嫌がらせをした……。レイチェル様は、エリックに相応しくない!」
オリビア様の演技は、完璧だった。瞳を潤ませながら、ベストなタイミングで涙が頬をつたう。エリック様でなくても、こんな迫真の演技を見せられたら信じてしまうだろう。
「オリビア……君は、本当に心が綺麗だな」
誰もが信じてしまうとは思うけれど、エリック様は単純過ぎると思う。そもそも、心が綺麗な人が婚約者のいる男性にベタベタしたりはしないからだ。
クラスの生徒達が、私を遠ざけて来た理由は分かる。最初から仲が良かったわけでもない私と仲良くして、王女であるオリビア様に敵視されたくはないのだろう。けれど、エリック様には私という存在がいた。それでも彼は、オリビア様を信じた。
「そうだな……エリック、お前はレイチェルに相応しくない。心が綺麗? 笑わせるな。身体が弱いなら、他人に迷惑にならないようにするべきだろう? 毎日元気に学園に来て、男にベタベタとすり寄っているような女のどこが心が綺麗なんだ? エリック、お前のような奴は、虫唾が走る」
今日のディアム様は、本当にいつもと違う。こんなに真剣なディアム様を見たのは初めてだ。ずっとエリック様が誠実だと思って来たけれど、本当に誠実なのはディアム様の方だったのかもしれない。
「てことで、レイチェルは俺が大切にする。お前はもう、レイチェルに関わるな。いや……見るな話すな近寄るなっ」
またいつものディアム様に戻り、私の肩を抱き寄せる。肩に乗せられたディアム様の手を、思いっきりつねる。
「イテテテテッ」
「お気持ちは嬉しいのですが、遠慮いたします。女性に軽々しく触れるものではありませんよ」
そう言った後、誘導されたのだと気付いた。それはまるで、エリック様に向けた嫌味のようなものだったからだ。私がずっと言えなかった言葉を、簡単に引き出されてしまった。
今もエリック様とオリビア様は、当たり前のように寄り添っている。その様子を、他の生徒達が気まずそうに見ていた。
「エリック……私、目眩が……医務室に、連れて行ってくれる?」
教室内の雰囲気が居ずらかったのか、今まで一度も行こうとしなかった医務室に行くと言い出した。
「大丈夫か!? ほら、僕に掴まって!」
二人はそのまま、医務室に行ってしまった。
「……なんだか、都合が悪くなったから体調が悪くなったように見えたな」
「そういえば、ずっとエリック様と一緒にいるのに、いつレイチェル様に嫌がらせされたのかしら?」
今日のことで、クラスメイトの私に対する態度が変わったような気がした。彼らと距離が近付いたわけではないけれど、少なくとも私の悪口は聞こえなくなった。悔しいけれど、ディアム様のおかげだと思う。私も、もっと強くなろうと思った。
一日の授業が終わり、寮に戻ると……
「綺麗になってる……」
ドアの落書きが、綺麗に消えていた。
「そのままでいいと仰っられましたが、レイチェル様を悪く書かれているのがどうしても許せませんでした。余計な真似をしてしまい、申し訳ありません」
「謝る必要なんてないわ。ありがとう、ケリー」
何度も何度も、申し訳なくなる。
部屋に入り、何か良い方法はないかと考えていると、部屋のドアがノックされた。
「入っていい?」
訪ねてきたのは、デイジーだった。
部屋の中に招き入れると、部屋の中をキョロキョロと見回しながらソファーに座った。
「何もないでしょう?」
必要最低限のものしか買ってもらえないのは、学園に入ってからも変わらなかった。
「私の部屋も、変わらないわ。次は、私の部屋にも来てね」
「次は、お邪魔するね。ところで、今日はどうしたの?」
「気になって来てみたら、ドアが綺麗になっていたからまた落書きされるんじゃないかと思ったの。だから、私達で犯人捕まえない?」
デイジーは、目を輝かせながらそう言った。
確かに、落書きのことはどうにかならないかと考えていたけれど、犯人を捕まえるなんて考えていなかった。いつ書かれるか分からず、寝ている間に書かれているとしたら、夜中も起きて見張っていなければならないからだ。
デイジーは、やる気満々……ということは、何日も徹夜を覚悟しなくてはならないようだ。
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