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16、本当の父
しおりを挟む停学が明けたオリビア様は、すっかり大人しくなっていた。陛下に王宮へと呼び出され、ものすごく叱られたと殿下に聞いた。それでも、エリック様と婚約をしたいと譲らなかったそうだ。
「セイン侯爵は二人の婚約に乗り気のようだが、父上は許さないだろう」
オリビア様が病弱を装い、婚約者のいる男性を誘惑して奪ったことが、陛下は許せないようだ。
「陛下が反対をなさっているから、オリビア様は大人しいのですね」
前に殿下が、陛下は厳しい方だと仰っていた意味が分かった気がする。ケリーがしたことを考えると、陛下に許していただくのは難しそうだ。難しいからといって、諦めるつもりはないけれど。私は今まで、何もかもを諦めて来た。それは、私にはそうするしか道がなかったからだ。今思えば、臆病なだけだった。ケリーのことは、全力で守ってみせる。
「レイチェル、陛下がお前に会いたいそうだ。オリビアがしたことを、謝りたいようなのだが」
陛下とお会いするのは、もっと先のことだと思っていた。全てが明らかになってから、お会いしたいと思っていたけれど、陛下の申し出を断るわけにはいかない。
「分かりました」
初めて私は、本当の父に会うことになる。
どんな方なのか、想像しなかったわけじゃないけれど、考える度に今の父の顔がチラつく。蔑むような父の視線が、脳裏に焼き付いて離れない。陛下にお会いすれば、父の存在は消えてくれるのだろうか。
週末、殿下と一緒に王宮へと向かった。
「どうして、ディアム様まで馬車に乗っているのですか?」
迎えの馬車に、なぜかディアム様まで乗り込んで来た。
「俺は、レイチェルの護衛だ」
「今日は、殿下がいてくださいます。せっかくのお休みなのですから、ディアム様はゆっくりなさったらいいのに」
「関係ない。俺は何時でも何処でも何があっても、レイチェルを守ると決めている。異論は認めない」
「ディアムは、言い出したらきかない。諦めろ」
殿下が何も言わなかったのは、ディアム様の性格を良く知っていたからのようだ。
本当はディアム様が一緒に来てくれて、感謝している。陛下にお会いすることを考えていたら、緊張でどうにかなってしまいそうだった。なぜだか分からないけれど、ディアム様がいてくれると気持ちが落ち着く。
王宮に到着すると、謁見の間ではなく応接室へと案内された。
しばらくすると応接室の扉が開かれ、殿下に良く似た男性が姿を現した。この方が、国王陛下のようだ。
「父上、レイチェル・クライド嬢をお連れしました」
「お初にお目にかかります、レイチェル・クライドと申します」
「……本当に、そっくりなのだな。かけなさい」
陛下も、私が王妃様に似ていると思ったようだ。今の言い方は、噂を知っていたのだろう。
陛下が腰を下ろした後、言われた通り私達もイスに座る。
「それで? なぜディアムがこの場にいるのだ?」
そういえば、馬車からの流れで気にしていなかったけれど、この場にディアム様がいるのはおかしい。
「私は、レイチェルを愛しています! 片時も離れたくないのです」
予想もしていなかった言葉に、私達は口を開けたままポカンとしてしまう。
陛下の前で、何てことを言っているの!?
「……そうか、気持ちは分かった。だが、ここから出ていてくれ」
陛下が右手を上げると、ディアム様は護衛兵に両腕を掴まれてそのまま部屋の外に引きずられて行く。
「陛下~! これは、あんまりですよ~!」
そのまま、部屋の扉は閉められた。
「全く、あやつは……。昔から、ちっとも変わっておらぬ。だが、そなたは素晴らしい男に愛されているようだな」
陛下は、とても悲しげな瞳で微笑んだ。
陛下の心のうちは分からないけれど、私を見る目は殿下と同じような気がした。
「オリビアのことは、全て聞いた。そなたには、本当に申し訳ないことをしてしまった」
王妃様もそうだったけれど、陛下まで伯爵令嬢の私に頭を下げた。正直、複雑な気持ちだ。私の本当の両親は、オリビア様の為に頭を下げたのだから。けれど、この国の民としては、お二人がこの国の国王様と王妃様で本当に良かったと思う。
「陛下、おやめ下さい! 私は、これで良かったのだと思っております」
「ああ、ディアムのことか」
「……え? ち、違います!」
「違うのか? ディアムが気の毒だな」
ディアム様のことは、素敵な方だと思う。けれど私はまだ、誰かを好きになるのが怖い。
陛下と、お会い出来て良かった。
怖い方なのかと思っていたけれど、とてもお優しい方だった。もしかしたら、ディアム様はわざとあんなことを言ったのかもしれない。
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何も進展がないまま時だけが過ぎていき、私達は二年生になった。
「お久しぶりね、お姉様」
新学期の前日、キャロルが女子寮へと越してきた。
ガードナーさんに関して進展はなかったけれど、オリビア様が大人しくなりエリック様も私に絡んで来なくなっていたから、平穏な学園生活を送れていた。それなのにまた、嵐がやって来てしまったようだ。
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