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17、噂
しおりを挟む「キャロル……」
「今日からは、お姉様とまた同じ屋根の下で暮らさないといけないなんて、憂鬱で仕方ないわ」
本当の姉妹ではないと知ってしまい、どんな顔をしたらいいのか分からない……と思ったけれど、そもそもキャロルと仲が良かったわけでもないし、むしろ嫌われて来たのだから気を使う必要はないのかもしれない。
「何も変わっていないのね。その香水、少しキツ過ぎるのではなくて? 匂いでクラクラしてしまうわ」
「なんなの!? 誰にも愛されない分際で、偉そうに! あぁ、お姉様は香水なんて持っていないものね。いつも小汚いお姉様なんて、エリック様に捨てられて当然よね」
どうして私は、こんな妹をほんの少しでも可哀想だと思ってしまったのだろうか。キャロルは入れ替えのことを何も知らない……けれど、実の姉だと思っている相手をここまで蔑むなんて、どこまで性格が歪んでいるのだろうか。ダニエル殿下の愛情を知ってしまったから、今まで以上にキャロルのことが嫌いになってしまった。
「あなたは私が、嫌いなのよね? それなら、関わらなければいいのでは? 私も忙しいから、行くわね」
「ちょっと! 待ちなさいよ!」
振り返ることなく、部屋に戻った。
久しぶりに会ったキャロルは、やっぱりキャロルだった。
そして、いよいよ二年生になった。
クラス替えはなく、三年間同じメンバー。変わったのは、ダニエル殿下がもう学園にいないことと、キャロルが学園に入学して来たこと。
「レイチェル、おはよう! 少し離れていただけなのに、すごく寂しかった!」
休暇の間、デイジーは実家に帰っていた。私は休暇を寮で過ごし、ディアム様も実家には戻らず、私の護衛をしてくれていた。
「私も、寂しかったわ。久しぶりの実家は、どうだった?」
「それがね……前に話した幼馴染みに会ったの。急に訪ねて来たから、本当に驚いたわ」
前に話した幼馴染みとは、オリビア様がひとりじめをした男の子のことのようだ。確か、他国へ留学したと聞いた。
「留学から戻って来たの?」
「そうなの! 戻って来たから、これからもよろしくねだって。昔の面影が全くなくて、最初は誰だか分からなかったわ。……初恋だったのにな」
「それってもしかして……彼じゃない?」
教室の入口に、笑顔で手を振りながら何度も「デイジー」と呼んでいるふくよかな男の子がいる。その声が聞こえていないのか聞きたくないのかは分からないけれど、デイジーは全く反応していなかった。
「……嘘でしょ」
『これからもよろしくね』とは、同じ学園に通うからよろしくという意味だったようだ。
ふくよかな男の子の名前は、パーカー・プラッド様。プラッド侯爵のご子息で、今年からこの学園に入学して来たそうだ。ちなみに、オリビア様はパーカー様に全く気付いていない。
「どうしてここに? ここは、二年の教室よ」
デイジーが冷たくそう言うと、パーカー様はシュンとした表情を浮かべながら「ごめん……君に、会いたくて」と言った。
同じ目にあったから、デイジーの気持ちは分からなくもないけれど、少し可哀想に思える。
「私は、会いたくなかった。だから、もう二度と来ないで」
デイジーは冷たく言い放ち、自分の席に戻る。パーカー様は何も言わず、何度も振り返りながら悲しそうに教室に戻って行った。
「本当にこれでいいの?」
このクラスには、オリビア様もいる。けれどパーカー様は、デイジーに会いに来た。
デイジーは何度も、オリビア様に復讐が出来ると喜んでいた。それだけ、パーカー様のことが好きだったのではと思えた。
「本当はね、パーカーが留学してから、何度も手紙が届いていたの。『ずっと好きだ』って。私は、一度も返事を書かなかった。だったら、オリビア様のことなんて放っておけばよかったのにって思ったし……。優しいだけの男なんて、大嫌いよ。私は、ダニエル殿下のような厳しさの中に優しさがある人が好みなの!」
優しいだけの男なんて大嫌いは、私も同感だ。でもデイジーは、見た目が嫌いとは言わなかった。まだ、パーカー様への気持ちがあるように思えた。
「デイジーが誰を好きでも、私はデイジーを応援するからね」
どんな結末を選んでも、デイジーが幸せならそれが一番だ。
それからも、パーカー様は毎日デイジーに会いに来ていた。最初は冷たくあしらっていたのに、だんだんとパーカー様に笑顔を見せるようになっていた。
「そういえば、一年の間で噂になっていることがあるんだ」
ディアム様とデイジー、そしてパーカー様と昼食をとるようになっていたある日、パーカー様が急にそんなことを言い出した。
「噂って?」
デイジーは、興味津々だ。
「オリビアが、本当は国王陛下の子ではないという噂なんだけど……」
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「それが……キャロル・クライド嬢。レイチェル嬢の、妹君だ」
思った通りだった。
キャロルは、エリック様をオリビア様にとられたことが許せなかったのだろう。(最初からキャロルの婚約者ではないけれど)
エリック様を好きなわけではなく、自分が一番でなくては嫌なのだ。二人は姉妹なのに、何だか悲しい。
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