〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな

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18、賭けに出る

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 「妹が、ご迷惑をおかけしてすみません……」

 パーカー様の前では、何も言うことが出来ない。ダニエル殿下が卒業してからは、放課後に三人で集まっていた。重要なことは、ディアム様が殿下から伝言を預かり、こちらの話はディアム様が殿下に伝えてくれていた。

 キャロルが噂を流していると聞いた直後に、噂の的にされたオリビア様が食堂に姿を現した。そしてまっすぐ、私達の座るテーブルへと向かって来た。

 「仕返しのつもり?」

 たった今、話を聞いたばかりだから、オリビア様の言いたいことは分かる。私の妹がしたことなのだから、私の為に妹が復讐をしていると思っているのだろう。

 「オリビア様には、大変申し訳ないと思っています」

 キャロルに良く言い聞かせると言いたいところだけれど、私が言ったところでキャロルは聞くわけがない。逆に、余計噂を広めるかもしれない。

 「あなたの差し金でしょう!? エリックを私に奪われたことが、そんなに悔しかったの!?」

 私ではなく、キャロルが悔しがっている。

 「噂は、ただの噂です。オリビア様がしっかりしていたら、何の問題もないかと」

 「当たり前じゃない! 私がお父様の子ではないなんて、そんなことあるはずがないわ! こんなこと、何でもない」

 「でしたら、お話は終わりでいいですね。そろそろ授業の時間なので、教室に戻ります」

 わざわざエリック様を連れずに一人で来たのは、彼に本性を見せたくなかったのだろう。今もまだ、エリック様の前では病弱で心優しいオリビア様でいるようだ。
 
 その日の放課後、いつも通り屋上へ行くと、ダニエル殿下が待っていた。

 「殿下!? どうされたのですか!?」

 久しぶりに会えて嬉しいけれど、何かあったのかと不安になった。
 王妃様が学園長に全てを話し、殿下は自由に出入り出来るようになったようだ。

 「可愛い妹の顔を、見たくなったんだ。それと、彼女がデイジー嬢の護衛をするローラだ」

 デイジーの護衛は、可愛らしい女の子だった。

 「ローラ様、よろしくお願いいたします」
 「よろしくお願いいたします」

 私達が頭を下げると、ローラ様はにっこり微笑んだ。

 「必ず、お守りいたします」

 「ローラはこう見えても逞しいから、安心して任せて大丈夫だ。それと事情も全て話してあるから、何かあった時は頼ってくれ」

 新たな仲間が出来て、何だか嬉しい。ひとりぼっちではないのだと、毎日実感している。

 「殿下、ガードナーさんの行方はつかめましたか?」

 仲間が増えても、デイジーを危険にさらしていることに変わりはない。ディアム様にも、迷惑をかけている。

 「ガードナー程の医師としての技術があれば、使っていると思ったのだが、どうやら医者としては暮らしていないようだ。それで、捜索が難航している」

 医者として暮らしていないなら、お金はどうしているのだろうか。主治医の時に貯めていたお金があったとしても、十六年もの間暮らしていける程の額があったとは思えない。ガードナーさんの人柄を聞く限り、医者の技術があるのに他の仕事をするような人には思えない。だとしたら、お金は母が出しているのかもしれない。

 「賭けに出ませんか?」

 「賭けとは?」

 「私が入れ替えのことを知っていることを、母に気付かせるのです。そして、ガードナーさんを探していることも。殿下が母に見張りをつけていらっしゃるのに、一向に動こうとしません。それは、私が王妃様に似ているという噂が流れてしまったからかもしれません。ガードナーさんの居場所を突き止めたと、母に思わせるのです」

 ガードナーさんの居場所が突き止められたと知れば、母はきっとガードナーさんに知らせに行く。ガードナーさんが捕まれば、全てが明るみになってしまうからだ。

 「そんなことをしたら、レイチェルの身が危ない。ガードナーの元へは行かず、お前を狙って来る可能性だってあるのだぞ!?」

 「分かっています。私には、ディアム様がいてくださいます。それに、キャロルが広めた噂と今までの噂があわさってしまったら、危険なことに変わりはありません」
 
 キャロルは私が王妃様に似ているという噂を流したくはなかったのだろうけど、意図せず母親を追い詰める形になってしまった。

 「ディアムがいる……か。少し悔しいな……」

 「え……?」

 「分かった。そうしよう」

 「レイチェルのことは、心配いらない。必ず守ってみせる」

 なぜかディアム様は、殿下に向かってドヤ顔をしていた。



◇登場人物◇

レイチェル
クライド伯爵家の長女に育ち、両親からも妹からも虐げられて来たが、実は産まれた時に王妃が産んだ子と入れ替えられた。王女。

ディアム
公爵家長男。いつもレイチェルを守ってくれる。ダニエル殿下と親友。

デイジー
レイチェルの親友。

ダニエル殿下
この国の第一王子。オリビアの兄だが、レイチェルが実の妹だと知っている。

クライド伯爵夫人(サラ)
元は王妃の侍女で、王妃の子(レイチェル)と自分の子(オリビア)を入れ替えた。

ガードナー
王宮の主治医だったが、レイチェルとオリビアが入れ替えられた後に辞職し、姿を消した。サラの愛人?

ケリー
サラの侍女だったが、今はレイチェルの侍女。サラに、命じられて二人を入れ替えた。ずっと苦しみ続け、レイチェルを守ることが使命だと思っている。

キャロル
クライド伯爵家次女。レイチェルの妹だが、実はオリビアの妹。

パーカー
オリビアとデイジーの幼馴染み。デイジーがずっと好きだった。

エリック
レイチェルの元婚約者。オリビアが病弱だと思い、優しくする。

ローラ
デイジーの護衛
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