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19、ようやく動き出す
しおりを挟む入れ替えの件のことを私が知っていることと、ガードナーさんの居場所を突き止めたという噂を、クライド伯爵家の使用人に流した。使用人達は邸内で噂し始め、すぐに母の耳に入るだろう。
そんな中、学園は学園で大変なことになっていた。
「オリビア様の噂をお聞きして、エリック様が心配になりました。病弱だなんて仰っていますが、顔色がとても良いように見えます。エリック様を騙すのは、やめていただけませんか?」
噂を流した張本人なのに、堂々と二年の教室に来てエリック様を騙すのはやめて欲しいと言い放つキャロル。
「酷いわ……根も葉もない噂で、私を陥れるなんて……」
エリック様に支えられながら、か弱い王女を演じるオリビア様。
この二人は、自分達が姉妹だということを知らない。それを知った時、この状況をどう思うのだろうか。
「僕は、噂など信じてはいない。レイチェルは、こんな汚いまねまでするようになったのか……」
オリビア様とキャロル、そしてエリック様の問題だと思っていたけれど、なぜか私まで勝手にこの争いの中に加えられた。普通に考えたら、妹がしたことなのだから、私が疑われても仕方がないのかもしれない。それは分かっているけれど、無性に腹が立つ。エリック様は本当に、私のことをなんだと思っているのか……
「エリック、いい加減にしろ。俺のレイチェルを陥れるような発言は、許すことが出来ない。どれだけ自意識過剰なんだ? レイチェルは、お前になんて全くこれっぽっちも興味はない。お前らが何をしようと勝手だが、レイチェルを巻き込むのはやめろ」
私の為に、ディアム様は本気で怒ってくれている。エリック様から隠すように私の前に立つ後ろ姿が、頼もしく見える。
「もしかして、お姉様がお好きなのですか?」
ディアム様が私を庇ってくれたことで、キャロルがエリック様よりもディアム様に目を付けてしまったようだ。けれど、ディアム様はキャロルに惑わされたりしない。いつの間にか、ディアム様をこんなにも信頼している自分に驚く。
「好き? 違うな、俺はレイチェルを愛している」
振り返ったディアム様の瞳に、私が映る。彼の視線が、私の胸を締め付けた。今まで何度も、好きだとか愛してるとか言われて来たけれど、その度に私の中で何かが変わっていたのかもしれない。
「お姉様を、ご存知ないのですね。お姉様は使用人に色目を使って、私に嫌がらせさせるような最低な女ですよ? 私のものを何でも欲しがるし、全部奪おうとするのです!」
嫌がらせ……前にも同じようなことがあった気が……
「レイチェルは、そんなことはしない。それは、全部自分のことではないのか?」
「な!? 私は、そんなことしません!」
この状況は、オリビア様が私に嫌がらせをされたと言った時と同じだった。
「俺は、何があってもレイチェルを信じる。人を貶めようとする人間は、心が貧しい。いくら着飾ろうと、性根が腐った臭いがぷんぷんする。そろそろ臭くて鼻が曲がりそうだから、教室から出て行ってくれ」
同じ状況……なんかじゃなかった。ディアム様は、どんなことがあっても私を信じてくれる。口は悪いけれど、それもディアム様らしい。けれど、臭いのはキャロルの香水がキツ過ぎるからだろう。
エリック様をオリビア様から奪うつもりでこの教室に来たはずのキャロルは、結局何も得ずに臭いという印象だけを残して自分の教室に戻って行った。
「レイチェル様は、姉妹そっくりなのですね……」
キャロルに反撃出来なかったからか、オリビア様は私に攻撃して来た。その言葉、そっくりそのまま返したい。
「もうやめろ、オリビア。そろそろ授業が始まるから、席につこう」
「エリック!? 待って!」
エリック様に止められて不満そうにしながらも、彼の後を追って席についた。あのエリック様が、オリビア様を止めるとは思わなかった。
◇ ◆ ◇
「殿下、クライド伯爵夫人が動きました」
「そうか、気付かれないようにあとをつけろ」
故意に使用人に流した噂をサラが聞き、ようやく動き出した。
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