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33、陛下の愛情
しおりを挟む突き飛ばされた私は、足を力いっぱい踏ん張り、思いっきり手を伸ばして手すりを掴んだ。
「あっ……ぶないじゃない!! 危うく、落ちるところだったわ!」
踏ん張りながらも数段下に降りていたけれど、落ちずにすんだ。キャロルは私が落ちずに踏ん張ったことに驚き、目を見開いたまま固まっている。
「私ね、毎日腹筋とスクワットと腕立て伏せを百回ずつやっているの。守られているだけなんて嫌だから、心だけでなく身体も強くなりたかった。まさか、こんなところで役に立つとは思わなかったわ」
「さすが、レイチェル様ですね」
後ろから声がして振り返ると、一年生の女子生徒が拍手をしていた。
「あなたは?」
「私は、スーザン・コレットと申します。ダニエル殿下から、レイチェル様の護衛を仰せつかっておりました」
お兄様は、デイジーだけでなく私にも護衛をつけていたようだ。スーザンは私が落ちる瞬間、受け止めようとしてくれていたみたい。
「彼女を、王宮へ連行します」
スーザンは、固まっているキャロルを拘束した。
「ちょっと待って。キャロル……先程あなたは全部私のせいだと言ったけれど、本当にそう思う?」
「……だって、仕方ないじゃない! お父様もお母様も投獄されて、私には何もなくなってしまった! 全部奪ったのは、お姉様じゃない!」
何も知らなかったキャロルからしたら、一瞬で全てを奪った私は悪なのだろう。
「ごめんね、キャロル。でも、同情はしない。あなたには、散々酷い目にあわされてきたから」
唯一何も知らなかったキャロルが、少しでも私に歩み寄ってくれていたら、配慮しようと思えたかもしれない。逆に、全力で私を嫌ってくれていたキャロルに、感謝している。全てを明らかにしたことを、後悔しなくて済むのだから。
「自業自得……よね。もう~ね、何だかスッキリしたわ。だってまさか、お姉様が身体を鍛えているなんて想像もしていなかったし。ずっとね、お姉様が嫌いだった。何をしても、勝てない気がしていたの。だから、必死で何もかも奪おうとしていたのかもしれない。ごめんね……バイバイ、王女様」
そのまま、スーザンに連行されて行った。
言葉は軽かったけれど、『ごめんね』なんて口にするとは思わなかった。
「レイチェル様! ご無事でしたか!? すぐに出て行こうと思ったのですが、スーザンの姿が見えたので安心しました」
「……え? スーザンを、知っているの?」
ディアム様が用意してくれた侍女のレイミーとスーザン、そしてローラ様は、同じ騎士団に所属している騎士だそうだ。
こんなにたくさんの女性騎士がいることにも驚いたけれど、ディアム様もお兄様もそれぞれ私に護衛をつけていたことにも驚いた。
ディアム様は女子寮には入れないから、心配してくれたのだろう。
色々あったけれど、無事に家族の元に戻ることが出来て安心した。まだぎこちない家族だけれど、恥ずかしがらずにお父様やお母様、お兄様と呼べるようになりたい。そんなことを考えながら、眠りに着いた。
そして翌日、教室に行くと……
「……何をなさっているのですか?」
「い、いや、私のことは気にするな。ようやく娘だと言えたのに、会えないのが寂しくなってしまってな。授業参観だと思ってくれればいい」
なぜか教室に、国王陛下の姿。
気にするなと言われても、誰もが気にするだろう。生徒達はガチガチに固まり、時が止まっているのではと思える光景だ。しかも、私より先に教室に来ていた。
「お父様……お帰りください。お父様がいらっしゃると、皆さんが勉強になりません」
「レイチェル? それは、冷たくはないか? 父はお前の側にいたいのだ」
キャロルに階段から突き落とされそうになったことを、心配してくれているのだろうけれど、お父様が教室にいたら授業にならない。
「週末には、会いに行きます。ですから、お帰りください」
「分かった……週末には、必ず来るのだぞ?」
「お約束します」
拗ねたように唇を尖らせながら、渋々護衛を引き連れて帰って行った。厳しい陛下は、どこにいってしまったのだろうか。けれど、こんなにも素直に愛情を表現してくれるのは嬉しい。
「陛下にはびっくりしたけど、それだけレイチェルが大切なのね。本当に、良かった」
デイジーは私の両手を握りながら、目に涙を浮かべて心から喜んでくれた。
結局その日は、クラスメイト達の様子が戻ることはなく、授業どころではなかった。
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