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24、楽しい? 旅行3
しおりを挟む貴族達を味方につけるような人なのだから、ワイヤット侯爵家のエミリーとして問いつめても、本性を現すようなことはないだろう。それならば、それを踏まえた作戦を実行することにした。
私が宿の娘を装い、ブレダール子爵に税を下げて欲しいと訴える。ブライトとマーク殿下とビンセント様とサマンサも、領地に住む領民を装い一緒に行く。服は昨日、平民の服を全員分揃えておいた。
「マーク殿下、やっぱり似合いますね!」
「なんで僕がこんな格好をしなければいけないんだ!?」
頬を膨らませて怒っている殿下には、女の子の格好をしてもらった。
サマンサは他国に留学していたし、ブライトは社交の場に興味がなくほとんど出席したことがない。私はビクトリアとバーバラと一緒に出席したくなかったから、社交の場に縁がなかった。ビンセント様は殿下の護衛という立場から、表にはあまり顔を出さない。つまり四人共、顔を知られている可能性は低い。
殿下は地方に住んでいて公にはあまり姿を現してはいなかったけれど、貴族に取り入るのが好きなブレダール子爵が王族である殿下の顔を知っている可能性があると思った。
「申し訳ありません、念の為です。でも、やっぱり可愛いです」
可愛いと褒めると、余計に不機嫌な顔になった。
マーク殿下には悪いけれど、またマーサちゃんに会えたみたいで嬉しい。
「エミリーは言い出したら聞かない。諦めてください。そろそろ行きますよ」
ブライトは不貞腐れる殿下の背中を押す。
渋々歩き出してくれた殿下と共に、邸へと向かった。
邸に到着し、子爵に会いたいと門番に取り次ぎを頼む。門番は子爵に伝えることもせずに、『帰れ』と言ってきた。門前払いは、想定内だ。
「どうして会わせていただけないのですか!? お話したいことがあるのです! お願いします!」
「うるさい! ダメと言ったらダメだ! 帰れ帰れ!」
門番に詰め寄ると、突き飛ばされて地面に倒れ込む。
「大丈夫か!?」
ブライトが駆け寄って来て、抱き起こしてくれた。これも、作戦だった。服の下に布を分厚く巻いているから、倒れ込んでもケガはしない。ブライトはこの役を自分がやると言ったけど、女の私でなくてはならなかった。
「どういうつもりだ!? ケガをさせろと、命令されているのか!?」
作戦通り……のはずなのだけれど、ブライトが本気で怒っているのがわかる。
「ここはお前達が気軽に入れる場所ではない! さっさと帰れ!」
「きゃー! 乱暴しないでー!!」
マーク殿下が悲鳴をあげる。
「暴力なんて最低だ! 私達は話をしに来ただけなのだぞ!!」
今度はサマンサが門番に詰め寄る。
そこへ、騒ぎを聞きつけた執事が門までやって来た。
「騒がしいぞ! 何事だ!?」
「子爵様に会わせて欲しいとお願いしているだけなのに、門番に乱暴されました!」
ここでブレダール子爵に登場して欲しかったけど、そう上手くはいかないようだ。
「子爵様がお怒りだ! 早く静かにさせろ!」
執事は蔑んだ目で私達を見ながら、舌打ちをした。
「このままでは帰れません! 子爵様に会わせて下さい! 子爵様ー! 子爵様、お話があります!」
「いい加減にしろ! お前達のような者を相手にするほど、旦那様はお暇ではない!」
忙しい……?
お茶でも飲んでゆっくりしていたのに、うるさくされて苛立っているといったところだろう。領民の為に何もしないなら、そんな代理などいらない。
何をしても、子爵が出てくることも、中に入れてくれることもなかった。これだけ騒いだのだから、きっとブレダール子爵は私達の姿をどこかで見ていただろう。今日はここまでで十分だ。
「今日のところは帰ります。明日また来ます! 明日は、必ず子爵様にお会いしますとお伝えください!」
明日は平民の姿ではなく、エミリー・ワイヤットとしてここに来るつもりだ。今日分かったことは、使用人達もいやいや子爵の言うことを聞いているわけではないということと、子爵は領民の話を聞く気が全くないということだ。
私が身をもって体験したのだから、いいわけなど出来ないだろう。
今日は宿に帰り、明日を待つことにした。
夕食を終えた後、サマンサがまだ食べ足りないからと食堂に残り、私は一人で部屋に戻って来た。
少し疲れてしまったのか、ベッドに横になりながらいつの間にか眠ってしまっていた。
ノックの音が聞こえ、目を覚ました。
「……どうぞ」
部屋に入って来たのはブライトだった。
すぐにベッドから起き上がり、髪や服装の乱れをなおす。そんな私を見て微笑んだブライトは、ゆっくり近付いてきてベッドに腰を下ろした。
「ケガはないか?」
門番に突き飛ばされた時のことを言っているようだ。心配そうに私の目を見つめるブライト。
「平気。サマンサに、これでもかってくらい布を巻かれたからかすり傷ひとつないわ」
いつも心配ばかりかけている。それでも彼は、私のそばに居てくれる。
「それなら良かった。じゃあ、今日は一緒のベッドで寝よう!」
安心したからか、いつものブライトに戻っていた。
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