〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。

藍川みいな

文字の大きさ
24 / 28

24、楽しい? 旅行3

しおりを挟む


 貴族達を味方につけるような人なのだから、ワイヤット侯爵家のエミリーとして問いつめても、本性を現すようなことはないだろう。それならば、それを踏まえた作戦を実行することにした。
 
 私が宿の娘を装い、ブレダール子爵に税を下げて欲しいと訴える。ブライトとマーク殿下とビンセント様とサマンサも、領地に住む領民を装い一緒に行く。服は昨日、平民の服を全員分揃えておいた。

 「マーク殿下、やっぱり似合いますね!」

 「なんで僕がこんな格好をしなければいけないんだ!?」

 頬を膨らませて怒っている殿下には、女の子の格好をしてもらった。
 サマンサは他国に留学していたし、ブライトは社交の場に興味がなくほとんど出席したことがない。私はビクトリアとバーバラと一緒に出席したくなかったから、社交の場に縁がなかった。ビンセント様は殿下の護衛という立場から、表にはあまり顔を出さない。つまり四人共、顔を知られている可能性は低い。
 殿下は地方に住んでいて公にはあまり姿を現してはいなかったけれど、貴族に取り入るのが好きなブレダール子爵が王族である殿下の顔を知っている可能性があると思った。

 「申し訳ありません、念の為です。でも、やっぱり可愛いです」

 可愛いと褒めると、余計に不機嫌な顔になった。
 マーク殿下には悪いけれど、またマーサちゃんに会えたみたいで嬉しい。
 
 「エミリーは言い出したら聞かない。諦めてください。そろそろ行きますよ」
 
 ブライトは不貞腐れる殿下の背中を押す。
 渋々歩き出してくれた殿下と共に、邸へと向かった。

 邸に到着し、子爵に会いたいと門番に取り次ぎを頼む。門番は子爵に伝えることもせずに、『帰れ』と言ってきた。門前払いは、想定内だ。

 「どうして会わせていただけないのですか!? お話したいことがあるのです! お願いします!」

 「うるさい! ダメと言ったらダメだ! 帰れ帰れ!」

 門番に詰め寄ると、突き飛ばされて地面に倒れ込む。
 
「大丈夫か!?」

 ブライトが駆け寄って来て、抱き起こしてくれた。これも、作戦だった。服の下に布を分厚く巻いているから、倒れ込んでもケガはしない。ブライトはこの役を自分がやると言ったけど、女の私でなくてはならなかった。

 「どういうつもりだ!? ケガをさせろと、命令されているのか!?」

 作戦通り……のはずなのだけれど、ブライトが本気で怒っているのがわかる。

 「ここはお前達が気軽に入れる場所ではない! さっさと帰れ!」

 「きゃー! 乱暴しないでー!!」

 マーク殿下が悲鳴をあげる。

 「暴力なんて最低だ! 私達は話をしに来ただけなのだぞ!!」

 今度はサマンサが門番に詰め寄る。
 そこへ、騒ぎを聞きつけた執事が門までやって来た。

 「騒がしいぞ! 何事だ!?」

 「子爵様に会わせて欲しいとお願いしているだけなのに、門番に乱暴されました!」

 ここでブレダール子爵に登場して欲しかったけど、そう上手くはいかないようだ。

 「子爵様がお怒りだ! 早く静かにさせろ!」

 執事は蔑んだ目で私達を見ながら、舌打ちをした。

 「このままでは帰れません! 子爵様に会わせて下さい! 子爵様ー! 子爵様、お話があります!」

 「いい加減にしろ! お前達のような者を相手にするほど、旦那様はお暇ではない!」

 忙しい……?
 お茶でも飲んでゆっくりしていたのに、うるさくされて苛立っているといったところだろう。領民の為に何もしないなら、そんな代理などいらない。

 何をしても、子爵が出てくることも、中に入れてくれることもなかった。これだけ騒いだのだから、きっとブレダール子爵は私達の姿をどこかで見ていただろう。今日はここまでで十分だ。

 「今日のところは帰ります。明日また来ます! 明日は、必ず子爵様にお会いしますとお伝えください!」

 明日は平民の姿ではなく、エミリー・ワイヤットとしてここに来るつもりだ。今日分かったことは、使用人達もいやいや子爵の言うことを聞いているわけではないということと、子爵は領民の話を聞く気が全くないということだ。
 私が身をもって体験したのだから、いいわけなど出来ないだろう。

 今日は宿に帰り、明日を待つことにした。


 夕食を終えた後、サマンサがまだ食べ足りないからと食堂に残り、私は一人で部屋に戻って来た。
 少し疲れてしまったのか、ベッドに横になりながらいつの間にか眠ってしまっていた。

 ノックの音が聞こえ、目を覚ました。

 「……どうぞ」

 部屋に入って来たのはブライトだった。
 すぐにベッドから起き上がり、髪や服装の乱れをなおす。そんな私を見て微笑んだブライトは、ゆっくり近付いてきてベッドに腰を下ろした。

 「ケガはないか?」

 門番に突き飛ばされた時のことを言っているようだ。心配そうに私の目を見つめるブライト。

 「平気。サマンサに、これでもかってくらい布を巻かれたからかすり傷ひとつないわ」

 いつも心配ばかりかけている。それでも彼は、私のそばに居てくれる。

 「それなら良かった。じゃあ、今日は一緒のベッドで寝よう!」

 安心したからか、いつものブライトに戻っていた。

しおりを挟む
感想 148

あなたにおすすめの小説

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)

侯爵家に不要な者を追い出した後のこと

mios
恋愛
「さあ、侯爵家に関係のない方は出て行ってくださる?」 父の死後、すぐに私は後妻とその娘を追い出した。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

その支払い、どこから出ていると思ってまして?

ばぅ
恋愛
「真実の愛を見つけた!婚約破棄だ!」と騒ぐ王太子。 でもその真実の愛の相手に贈ったドレスも宝石も、出所は全部うちの金なんですけど!? 国の財政の半分を支える公爵家の娘であるセレスティアに見限られた途端、 王家に課せられた融資は 即時全額返済へと切り替わる。 「愛で国は救えませんわ。 救えるのは――責任と実務能力です。」 金の力で国を支える公爵令嬢の、 爽快ザマァ逆転ストーリー! ⚫︎カクヨム、なろうにも投稿中

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。 父親は怒り、修道院に入れようとする。 そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。 学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。 ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。

処理中です...