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1、追い出されました
しおりを挟むある日、養父であるサイモン・スコフィールド伯爵が私に言った。
「マディソン、お前はもうスコフィールド伯爵家の養子ではない。毎日毎日タダ飯を食らっているくせに、何の役にも立たないではないか。今すぐ、この邸から出て行け!!」
スコフィールド伯爵にとって、私は道具だった。言われた通り、私はちゃんと仕事をしていた。役に立たないのではなく、私が何をしているのか分かっていないし、興味もないだけだ。
私がスコフィールド伯爵の養子になったのは、三年前のこと。私と母は、父に捨てられ、二人で暮らしていた。お金もなく、食べるものにも困っていて、その日暮らしの毎日を生きていくのがやっとだった。そんなある日、スコフィールド伯爵が、聖女の力がある私を養子にしたいと言って来たのだ。自分が聖女だとは、この時まで知らなかった。森に山菜を採りに行った時に、一度だけ人を助けたことがあった。それが、自分の力だというのも分かっていなかったのに、その話を聞いたスコフィールド伯爵は、私に会いにやって来た。聖女はとても貴重な存在で、百年に一人の存在。確かな話ではなくとも、それだけの価値があったのだろう。使用人が切った指を、治すように言われ、半信半疑ながら手をかざしてみると、傷口が塞がっていった。
母は、私の事をたった銀貨一枚(銅貨一枚で平民の一回の食事ほどの額。銀貨一枚で普通の家の一ヶ月分の家賃。金貨一枚で小さなお店を一件買える)で売った。
最初から愛されていないのは分かっていたけれど、まさかそんなはした金で売られるとは思ってもいなかった。
養子といっても、養父も養母も義兄も義姉も、私を家族として扱ったことはなく、使用人にさえ、自分達より格下のように扱われて来た。
タダ飯……と言われたが、食事はスコフィールド伯爵家の人達が残した残飯だった。
私を養子にした理由は(使用人でも良かったのに)聖女の私を、セイバン公爵家に嫁がせたかったからだ。
セイバン公爵家のご子息であるオルガ様は、魔物に負わされた傷がもとでずっと寝たきりだった。
そんなオルガ様の傷の治療をしたことで、セイバン公爵に息子と結婚して欲しいと言われた。最初からそれを狙っていた養父は、ふたつ返事で結婚を了承した。
私に拒否権なんてあるわけがない。私は養父に買われたのだから。
だが……
「お前はもう来なくていい。お前との婚約は破棄する。卑しい平民のお前が俺の婚約者だと? ふざけるな!
何が聖女だ。お前が聖女なら、ロキシーは女神だ!」
こうして、オルガ様に婚約を破棄されてしまった。
ロキシーというのは伯爵令嬢で、毎日オルガ様のお見舞いに来ていた。オルガ様が好きだから……ではなく、公爵家の嫡男であるオルガ様を狙っているようだった。そんな女に騙されるなんて、バカな男。
まあ私は、オルガ様と結婚したいわけでも、公爵夫人になりたいわけでもないから、婚約を破棄されて嬉しかったのだけれど。
オルガ様は見た目は美しいけれど(金色の綺麗な髪、透き通るような青い瞳、背が高くて筋肉も程よく付いている)、わがままで自己中心的、気に入らないと使用人に当たり散らし、やりたい放題な方だ。平民だった私をいつもバカにし、容姿も美しいとはいえない私(茶色い髪に茶色い瞳、スタイルも並で色気もない)が婚約者なのが、心底嫌だったようだ。
ただ、オルガ様のケガは完治してはいない。オルガ様のケガは、呪いのようなもので、すぐに完治させられることは出来なかった。
少なくとも、あと二~三年は毎日治療する必要があったのだが、本人に拒絶されたのだから仕方がない。
その事を教えるつもりは、さらさらないのだけれど。
女神様に、これからの治療をしてもらえばいい。
こうして婚約を破棄されたことで、スコフィールド伯爵には私が用済みになったというわけだ。
お金で買われた身なのに(銀貨1枚だけど)自由にしてくれるなんて、スコフィールド侯爵はなんてお優しいのだろう!
意気揚々と、スコフィールド伯爵邸を出て来たのだが……
「お腹空いた……」
食べ物を、買うお金がない。
何かを買い与えられたことはないし、服は一つ年上の義姉のおさがり。その服も取り上げられて、追い出されてしまった。さすがに裸では追い出せないからか、使用人の服を一着だけもらうことが出来た。
着の身着のまま……ではなく、使用人の服に着替えさせられて追い出された。
……ケチ。
そうはいっても、銀貨を要求されなかったのだから、良しとしよう。
とりあえず、住む所も食べる物もないのだから、仕事を探そう! そう思って色々なお店をあたったのだが……全敗。
そして今、猛烈にお腹を空かせているというわけだ。丸二日間、何も食べていない。
ぐるるるるる~と、盛大にお腹がなる。
お腹を押さえて下を向いていると、
「食事をご馳走しますので、頼みを聞いてくれませんか?」
お腹が空きすぎて広場のベンチに座ったまま動けずにいた私に、一人の男性が話しかけて来た。
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