〖完結〗役立たずの聖女なので、あなた達を救うつもりはありません。

藍川みいな

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7、バカは扱いやすい

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 オルガ様がここに居ると言うことは、やっぱり……

 「お久しぶりです……そんなに、久しぶりでもないですけれど。その後、体調はいかがですか?」

 オルガ様は、私の顔を見ながら鼻で笑った。

 「お前、その顔でよく生きていられるな。その顔を見ると、吐き気がする。美しいロキシーが側に居てくれるから、すっかり良くなったよ」

 相変わらず、人を不快にさせるのが得意のようだ。こんな男に何を言われても、傷付きはしないけれど。

 「それは何よりですね。私達は急いでいるので、吐き気を催すような顔は消えますね。どうぞ、ごゆっくり~」

 オルガ様が姿を現してから、ローラさんがずっと警戒している。ここに居るのが、オルガ様だけのはずがない。数人の気配を感じる。すぐにこの場を離れるのが、賢明だと思った。

 「待て。なぜお前がここに居るのだ?」

 オルガ様はバカだから、このまま行かせてくれると思ったのだけれど……そんなに甘くはなかった。

 「オルガ様に婚約を破棄され、スコフィールド伯爵に邸を追い出されました。行くところもお金もなかった私を、二人が助けてくれたのです。この森には、食べ物を探しに来ました。ここで出会ったのも何かのご縁かもしれませんし、食べ物を恵んでくださいますか?」

 行くところもお金もなかったのは、本当のことだ。決して、オスカー様達との関係を知られるわけにはいかない。幸い、オルガ様は私が聖女だと信じていない。本気で、ロキシー様が自分のケガの治療をしたと思っている。彼女は、私がオルガ様の治療を始めた時から、オルガ様に会いに来るようになった。つまり最初から、自分が治療したのだと思わせるつもりだったのだろう。
 
 「はあ!? ふざけるな! お前に、恵んでやるものなんかない! さっさと消えろ!」

 やっぱり、バカは扱いやすい。
 ハンナのお母さんは、重い空気を察して、私達に合わせてくれた。ローラさんが兵士の格好をしていても、オルガ様は女性の兵が居るはずないと思っているから、森で魔物と戦う為に武装しているのだろうと思ったようだ。

 オルガ様の姿を見た時、腰元に下げている笛が気になった。彼はバカだし、楽器を扱えるほど器用でもない。それに、あの笛からは禍々しい何かを感じた。

 言われた通り、消えるように静かにその場を去る。慌てて離れたら、何か気付かれそうなので、ゆっくり離れて行く。しばらく歩き続け、湖からだいぶ離れたところで足を止める。

 「はあ~~~~っ!! 焦った~!!」

 上手く誤魔化せたことに安堵し、胸を撫で下ろす。私がオルガ様に捕まってしまったら、オスカー様の身が危うくなる。
 それにしても、オルガ様は魔物が引き返した理由を分かっていないのだろうか? 結界が魔物を遠ざけたのだと分かっていたら、私が聖女だと信じていないにしても、あの町の近くで遭遇しているのだから怪しいとは思うはずだ。

 「あの方が……?」

 ローラさんも、魔物を操っていたのはオルガ様だと気付いたようだ。こんな不気味な森に居たのだから、怪し過ぎて『自分がやりました』と言っているようなものだけれど。

 「間違いありません。腰に下げていたあの笛で、魔物を操っているようです。ハンナのお母さん、こんなことに巻き込んでしまい、申し訳ありません」

 もしも、私とオスカー様との関係が知られていたら、無事では済まなかっただろう。

 「謝ることなんてありません! 私は、お嬢様のおかげで救われたんです! そのお嬢様に、あんな無礼なことを言うなんて、許せません!」

 拳を握りしめながら、私の為に怒ってくれている。

 「そんな風に思ってくださるなんて、なんだかくすぐったいです。ありがとうございます。お嬢様だなんて、やめてください。私は、ただの平民です。マディソンと呼んでください。こちらは、ローラさんです」

 私の為に怒ってくれた、気持ちが嬉しかった。
 
 「マディソン様、ローラ様、本当にありがとうございました。この御恩は、一生忘れません!」

 柔らかい笑みを浮かべた彼女に、私達も自然と笑顔になっていた。
 町に戻ると、ハンナとオスカー様、そしてダナドア公爵が出迎えてくれた。

 「お母さん!!」

 お母さんの姿を見つけてすぐに、ハンナは駆け寄ってきて思い切り彼女に抱き着いた。

 「ごめんね、ハンナ。心配かけちゃって」

 ハンナをギュッと抱きしめて、愛おしそうに頭を撫でる。

 「いいの! 帰って来てくれたもん!」

 ハンナは、しばらくお母さんに抱きついたまま離れなかった。

 「マディソン、おかえり」「無事で何よりです」

 オスカー様とダナドア公爵の言葉を聞いて、私はまた涙ぐんでしまった。最近、涙もろい気がする。
 誰かに、「おかえり」だなんて言われたのは、いつぶりだろう。
 誰かに、「無事で何より」だなんて心配されたのは、いつぶりだろう。
 誰かが待っていてくれるのが、こんなに幸せなことだなんて知らなかった。

 「ただいま戻りました」

 泣き笑いのような顔で、二人にそう言った。

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