〖完結〗役立たずの聖女なので、あなた達を救うつもりはありません。

藍川みいな

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6、最悪な再会

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 目を覚ますと、荷馬車の荷台で横になっていた。
 私……魔力を使い切って倒れたんだ。結界は、ちゃんと張れている。

 「目を覚まされましたか? 動けるようでしたら、教会に来るようにとダナドア公爵から伝言を預かっております」

 女性の兵士? 私が女だから、気を使ってくれたのだろうか。

 「分かりました。教会に行きます」 

 女性の兵士と一緒に、教会へと歩いて行く。兵士って、女性でもなれるのだと初めて知った。
 気になってチラチラと女性を見ていると、『ふふっ』と笑われてしまった。

 「……ごめんなさい」

 チラチラ見られていたら、いい気はしないだろう。無神経だったと反省した。

 「いいえ、気になってしまう気持ちは分かります。女なのに、このような格好をしているのが気になるのですよね? 
 私は、兵士です。女だからと、騎士の試験に落とされたところを、オスカー殿下に拾っていただきました」    

 やっぱり、騎士にはなれないんだ……。女だから無理だと勝手に決めつけられて、やらせてもらえないことは沢山ある。
 そんなの間違ってると思うけれど、それが現実だ。けれど、オスカー様は女性の兵士を雇った。本当に素晴らしい方なのだと、改めて思った。ダナドア公爵が尊敬するのも分かる。

 教会の前で、オスカー様とダナドア公爵、そして兵士達が、炊き出しをしていた。オスカー様まで、料理を作っている。でも……

 「痛っ!」

 野菜を切ろうとしたオスカー様は、指を切ってしまった。オスカー様の元に急いで駆け寄る。

 「オスカー様、お手に触れる事をお許しください」

 オスカー様の手を取り、祈りを捧げる。小さな光が傷口を包み、傷口は塞がった。

 「ありがとう、マディソン」

 「またおケガをされたら困るので、代わりますね」

 オスカー様からナイフを取り上げ、野菜を切り始める。

 「すまない。情けない所を見せてしまった」

 申し訳なさそうな顔で謝って来る、オスカー様。料理が出来ないからと、情けないなんて思うはずがない。

 「情けなくなんかありません。貴族なんて、自分の利益になることしか興味がないのだと思っていました。ですが、オスカー様やダナドア公爵を見ていたら、そんな風に思っていたことを反省しました」

 玉ねぎを切りながら、涙目になる。
 二人は、誰かの為に戦っている。自分のことしか考えて来なかった私とは、全然違う。

 「玉ねぎが、目にしみたようです……」

 こぼれ落ちそうな涙を浮かべながら、玉ねぎのせいだと誤魔化した。
 命令されたことだけを、ただやって来ただけ。私には、こんなにすごい力があるのに、自分から誰かを助けたいと思ったことはなかった。初めて使った力は、無意識で発動しただけで、自分の意思ではない。
 オスカー様は、自分が出来ることも、出来ないことでさえ必死にやろうとしていた。ダナドア公爵も、そんなオスカー様を必死に守ろうとしている。私も、そんな二人のようになりたいと思った。

 「マディソンには、感謝している。兄弟喧嘩に巻き込んでしまい申し訳ないが、これからも私と民を助けて欲しい」

 「もちろんです。私に出来ることなら、手伝わせてください!」

 私の心は決まった。
 二人と一緒に、戦う!

 「そうですか、では報酬はなしでよろしいですね?」

 オスカー様とは違って、器用に野菜を切っていたダナドア公爵が、鍋に野菜を入れながらそう言って来た。

 「なしで……と言いたいところですが、それは困ります。私も生活しなければならないので、報酬はきっちりいただきます」

 そう答えると、オスカー様は笑い出した。

 「ぷッ! あははは! それはそうだ! ケチケチするなよディーン! 」

 私は、貴族ではない。財産もない。何にもない。報酬を貰えなければ、生きて行くことさえ困難になってしまう。気持ちは無報酬でと思っても、生活出来ないのだから仕方がない。

 オスカー様が笑顔になってくださって良かった。
 子供みたいに笑うオスカー様に、不機嫌な顔をするダナドア公爵。正反対の二人だけれど、信頼し合っているのが分かる。
 
 炊き出しを作り終え、町の人達と一緒に外で食事をする。町の人達も笑顔になり、食事も美味しい! 生きてて良かったと、心の底から思えていた。



 「お姉ちゃん……聖女様なの?」

 炊き出しの片付けをしていると、八歳くらいの女の子が泣きそうな顔をして話しかけて来た。

 「そうよ。どうしてそんな悲しそうな顔をしているの?」

 女の子は、そのまま泣き出してしまった。

 女の子の名前は、ハンナ。父親は魔物に襲撃された時にハンナを庇って亡くなってしまい、母親と一緒に教会で寝泊まりしていたそうだ。その母親が、私達が町に来る少し前に食料を探しに出かけて、まだ戻っていないらしい。母親が向かった先は、結界の外だ。

 「私が……ひっく……っ……お腹空いたなんて言ったから……お母さんが……うわああああぁっ」

 「大丈夫……きっと、大丈夫だから」

 落ち着かせようと、女の子を抱きしめる。こんなに小さな女の子を、一人ぼっちなんかさせない……そう思った時、

 「探しに行こう」

 と、オスカー様が仰った。
 一人で行こうと思っていたけれど、オスカー様も公爵も、行く気満々だ。
 
 「オスカー様、ご自分が狙われていることを分かっているのですか? 私が行きます。公爵は、オスカー様の護衛をしていてください」

 なぜか二人は、目を見開いて驚いている。

 「まさか、あなたに命令される日が来るとは思いませんでした」

 呆れてはいるようだけど、嫌だとは思っていないようだ。ダナドア公爵は、素直ではないらしい。

 「短期間で、ずいぶん逞しくなったね。頼もしいけれど、一人では行かせられない。ローラ、頼めるか?」

 ローラと呼ばれた女性は、先程の兵士だった。
 二人共、私の言ったことを理解して納得してくれたようだ。私自身が魔物に襲われる心配はない。聖女が貴重な存在である理由の一つ……聖なる力に守られている。魔物が私を襲うことは、決してないのだ。

 「お任せ下さい!」

 ローラさんに一緒に行くように言ったのは、人間から私を守る為。魔物を操っていた人間が、気になっているのだろう。

 私達は、ハンナのお母さんが食料を探しに出かけた森へと向かった。
 森の中は、薄暗かった。こんな非常時でない限り、町の人達はこの森に近付くことはなかったそうだ。町が魔物に襲撃され、自国からも他国からも流通がストップし、町にある食べ物だけでは足りなくなった。食べ物を探しに、今まで近付くことのなかった森にまで食料を探しに来たというわけだ。

 森の中は、たくさんの魔物の気配がしたけれど、それほど強い魔物ではない。これくらいの魔物なら、姿を現すこともないだろう。

 「もう少し、奥に行ってみましょう」

 森の入口付近には、人の気配がなかった。奥に行けば行くほど、暗くなって来る。まだ日が高いというのに、この暗さは不気味だ。

 「マディソン様、こちらに足跡があります」

 ローラさんが見つけた足跡は、サイズから女性のものだと分かった。しかも、足跡はまだ新しい。この足跡が、ハンナのお母さんの物ならば、近くに居るということだ。
 
 「これは……」

 足跡のすぐ側に、血の跡がある。葉に付いた血が固まっていないところをみると、ケガをしてからまだそんなに時間は経っていない。

 「急ぎましょう!」

 「はい!」

 ケガをしているなら、一刻も早く見つけなければ命に関わるかもしれない。私達は、急いで足跡を追った。
 
 しばらく歩くと、湖が見えて来た。

 「マディソン様! 見てください!」

 ローラさんが指差した方を見ると、湖の側にうつ伏せで倒れている女性の姿があった。急いで駆け寄り、女性を抱き起こす。

 「大丈夫ですか!?」

 「…………ん…………」

 声をかけると、女性は反応を示した。
 足に深い傷を負ってはいるけれど、命に別状はないようだ。
 傷口に手をかざし、傷を治療していく。傷口が塞がると、苦しそうに顔をしかめていた女性の表情が、穏やかになった。

 「ローラさん、お水をお願いします」

 ローラさんが女性の口元に水をたらすと、女性は意識を取り戻した。
 女性はゆっくり起き上がり、私達の顔を不思議そうに交互に見ている。

 「ハンナのお母さんですよね? ハンナが心配しています。帰りましょう」

 ハンナという名前を聞いて、女性は涙を浮かべた。
 この森に食料を探しに入った女性は、キノコや山菜を探しながら、気付いたら森の奥に来ていたそうだ。戻ろうとしたところで、魔物に襲われて足にケガを負った。そのまま逃げ続け、この場所で倒れてしまったということだった。

 「本当に、ありがとうございました! お二人がいなかったら、ハンナに二度と会えなかったかもしれません」

 「ハンナの為にも、もう無茶なことはしないでください」

 お互いを想いあっているこの母娘が、羨ましい。無事で、本当に良かった。

 森を出ようと歩き出したところで、人の気配を感じて振り返る。

 「まさか、こんなところでまた会うことになるとはな」

 そこに立っていたのは、私の元婚約者……オルガ様だった。

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