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10、母との再会
しおりを挟むダナドア公爵邸へと、戻って来た。
公爵は王宮の前で待って居てくれて、オスカー様はローラさんを私の護衛につけてくれた。ローラさんの部屋を、私の部屋の隣に用意してくれて、オスカー様をお守りするはずの私が、逆に守られる形になってしまった。
「見張りを増やしてあるので、安心して休んでください」
「ありがとうございます」
『守る』その言葉通り、私のために見張りを増やしてくれた。公爵邸を襲撃するなんて大それたことは、きっとないだろう。それでも、用心するに越したことはないということのようだ。
ベントン様やオルガ様に、なんの動きもないまま一週間が経った。
「マディソン様に、お会いしたいという女性の方がお見えになっております」
ローラさんが確認し、危険はないと判断されたのだが……
「マディソン様の、お母様だと仰っているのですが……」
ローラさんは、困った顔でそう言った。
彼女は、私の事情を知っている。私を心配してくれているのだろう。
「応接室に、通してください」
今更、会いたくなんかない。けれど、会わなければあの人は何度でも訪ねて来るだろう。それは、公爵に迷惑をかけることになる。
応接室に入ると、母は涙を浮かべてソファーから立ちがった。
「マディソン……会いたかった……」
あんなはした金で売り渡しておいて、どの口が言っているのか。
抱きしめようとした母を、ローラさんが止める。
「娘を抱きしめることも出来ないの!?」
涙ぐんでいたと思えば、今度は怒り出した。この人は、こういう人だった。感情の起伏が激しく、笑っていたかと思えば、すぐ怒り出す。理由もなく殴られたこともあった。
「話があって来たのですよね? お座り下さい」
私は感情を出すことなく、冷静に対応した。
「マディソン!? その話し方は、なんなの!?」
本当に、何しに来たのか。
「お話がないのでしたら、失礼します」
私が立ち上がると、母は慌てて謝った。
「ごめんなさい! 悪かったわ。話を聞いてちょうだい!」
話を聞かなければ、きっと帰らないだろう。仕方なく、向かいのソファーに腰を下ろす。
「それで、お話とは?」
「私ね、後悔しているの。あなたをスコフィールド伯爵に連れて行かれて、あなたをどんなに愛していたのか気付いたの。ロバートに捨てられて、私はどうかしていたのよ! でもね、彼には罰が下っていたの! あの人ったら、魔物に食われたんですって! 最高よね!」
愛されていると、感じたことなんてない。
くだらない話を、いつまで聞いていればいいのだろうか。父の記憶は、ほとんどない。捨てられる前から、家には帰って来なかった。顔さえ覚えていない父が亡くなったと聞いても、泣くほど悲しいなんてことはない。けれど、死んだことを『最高』だなんて言うこの人が、母だなんて悲しくなる。
母の話は、なかなか終わらなかった。次は、父の悪口が始まった。出会った頃からの話で、その話は二時間にも及んだ。
「でね、スコフィールド伯爵に言われたの。『マディソンは役立たずだったのだから、銀貨一枚と今まで養って来た費用として金貨三枚を支払いなさい』と」
でね……の意味が分からなかった。
なんの脈絡もなく、スコフィールド伯爵の話が始まった。
残飯しか食べさせてもらっていないのに、金貨三枚とは随分とぼったくりだ。だからといって、母に同情する気はさらさらない。お金の無心にでも来たのだろう。
「お金を払えないなら、もう一度マディソンを養子にするから連れて来いと言われたの」
本題に入るまで、気付かなかった。
これは、ベントン様の差し金だったということに。
本気で私に会いたいなんて、母が思っていたとは考えていなかった。良く考えれば、分かることだ。私がダナドア公爵邸に居ると、母が調べられるはずがなかったのだ。
「で? 私に、スコフィールド伯爵の元に行けと言いたいのですか?」
「そうしてくれると、助かるわ!」
先程、私をスコフィールド伯爵に売ったことを、後悔していると言ったばかりなのに。舌の根も乾かぬうちに、また私を差し出そうとしている。愛して欲しかったなんて言わないから、もう放っておいて欲しかった。
「それは、困ります」
急に応接室のドアが開き、ダナドア公爵が入って来た。彼は私の肩に手を置き、
「マディソンは、私の婚約者です。そのようなことは、許しません」
にっこり微笑んで、そう言った。
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