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11、婚約者
しおりを挟む公爵の顔を見上げたまま、動けずにいた。『婚約者』が、母を追い返すための嘘なのは分かっている。けれど、それでも私は嬉しかった。こんな時に、自分の気持ちに気付いてしまうなんて……
「婚約者……ですか!? まあ! それはすごいわ! うちの娘と公爵が、婚約だなんて!」
目を輝かせながら、母は喜んでいた。スコフィールド伯爵の養子になれと言っておいて、まだ母親のつもりなのか。援助してもらえるとでも、思っているのだろう。
「そういうことですので、お引き取りください」
「……………………は?」
公爵に対してその反応、無礼極まりない。この場で斬り捨てられても、文句は言えない。
「マディソンは、一度スコフィールド伯爵の養子になっています。その時すでに、マディソンはあなたの子ではなくなりました。養子ではなくなったからといって、あなたの子には戻りません。つまり、あなたとマディソンは、何の関係もないということです。理解していただけましたか?」
名前を呼んでくれたのは、初めてだった。しかも呼び捨て。
「冗談じゃありません! マディソンは、私が産んだ子です!」
「実の子を、たった銀貨一枚で売り渡したのは誰ですか? 彼女に、二度と近寄るな。クリス、頼む」
今まで見たこともないくらい怖い顔で、公爵は母を見ていた。私のために、公爵は怒ってくれている。
クリスさんは、母を応接室から連れ出し、邸の外へと追い出した。
「あなたの考えも聞かずに、勝手にすまない」
肩に置かれていた手が、ゆっくり離れていく。思わずその手を、振り返って両手で掴んでいた。
「どうして謝るのですか? 私は、公爵に感謝しています。ありがとうございます」
触れた手が、熱を持っている。これは、私の熱? そう思い、公爵の顔を見ると、彼の顔が真っ赤になっていた。それを見た私の顔も、真っ赤に染まる。
「す、すみません!」
急いで手を離そうとすると、その手を公爵がまた掴んだ。
「先程の話ですが、私の婚約者になるつもりはありますか?」
「え……?」
私が、ダナドア公爵の婚約者に……?
「その方が、この先あなたに危険がないと判断しました。いかがですか?」
勘違い……するところだった。
公爵は、私を守ろうとしてくれているだけ。この婚約を受け入れてしまって、いいのだろうか?
「あの……」
なんて答えたらいいのか、分からない。私は、自分の気持ちに気付いてしまった。好きな人の婚約者になれるのは嬉しい。けれど、彼は私の身を心配して提案してくれているだけだ。
「嫌ですか?」
「そんなことありません!」
「では、私達は今から婚約者ということで決まりです」
前にも、似たようなことがあった気がする……。断る理由もないのだから、受け入れよう。
私達が婚約したことを公にするため、婚約発表パーティーを開くことになった。
婚約者なのだから名前で呼ぶようにと言われ、公爵だなんて呼ぶと額を小突かれる。痛くはないし、何だか距離が近付いた気がしてそれはそれで嬉しい。
「何をにやけているんだ? 小突かれて笑うなんて、そんな趣味が……」
「ありません!」
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「羨ましい……。私との婚約の方が、絶対いいのに! マディソン、今からでも私に乗り換えないか? 優しいし、楽しいよ?」
「マディソンは、私を選んだのです! いい加減、諦めてください!」
二人は私を守るために、そう言ってくれている。けれど、このやり取りは何だか取り合いされているようで恥ずかしい。
「よし! 私も、今日からここに住む!」
「おやめ下さい。王宮の方が、安全です。ご自分の立場をお考えてください」
オスカー様は、口を尖らせていじけた素振りを見せる。命を狙われているのは、オスカー様だ。安全な場所にいてもらわなくては困る。
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