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3、リック様との生活
しおりを挟むリック様との結婚生活は、思ったよりも平穏に過ぎて行きました。
夫婦らしいことはないけれど、同居人としては普通に生活出来ています。
「お帰りなさい」
仕事から帰って来たリック様を、毎日玄関で出迎えます。リック様は違っても、私は妻だという自覚を持って、リック様に接しているつもりです。
「ただいま」
何だか少し、元気がないように見えます。
「何かありましたか?」
気になった私は、リック様の顔を覗き込みながらそう聞いていました。
「わあッ!!」
リック様は驚いた顔をしたまま、私から離れました。この反応は、少し傷付きますね。
「そんなに私の顔がお嫌いなら、仮面でもつけましょうか?」
こんな言い方、感じ悪いのは分かっています。ですが、心配して顔を近づけただけなのに、あんな風に拒絶されたら嫌味のひとつも言いたくなります。
「いや……そういう事じゃなくて……」
いいわけなんて、聞きたくありません。情けないのは、最初から変わりませんね。
「もういいです。夕食にしましょう」
リック様が着替えるのを待ってから、食堂に行き席に着きました。
ものすごく、空気が重いです。少し、大人げなかったかもしれませんね。最初から、リック様が私の顔を好みではないことは分かっていたことです。
今更、そんな事で傷付くなんてバカですね。
「リック様、明日はローガン侯爵のお邸でお茶会が開かれる事は覚えていらっしゃいますか?」
「ああ、覚えてる!」
私が普通に話しかけた事が嬉しかったのか、嬉しそうに笑顔で返事をして来ました。何だか、犬みたいにシッポを振ってるように見えます。
「結婚してから、初めての社交の場になります。夫婦で参加するのですから、くれぐれも他の女性をジロジロ見ないようにお願いします。女性はジロジロ見られたら、嫌悪感を抱きます。真実の愛どころか、嫌われてしまいますよ」
リック様を応援しているわけではありません。これは、自分の為に言っています。
「分かった。気を付けるよ」
随分、素直ですね。
もしかしたら、リック様は扱いやすいのかもしれません。
食事が運ばれて来ると、リック様はゆっくり食べ始めました。黙っていればとても素敵な方なのですが、中身が伴っていないのが残念ですね。きっと、甘やかされて育ったのでしょう。
私のお父様は、男爵ですが大商人でもあります。だから、ダイアン伯爵家の借金を肩代わりするだけのお金を持っていたのです。
幼い時から、私も商売に携わって来ました。お父様は、本当は私を商人にしたかったのだと思います。そして私も、商人になるのが夢でした。
ダイアン伯爵にはお世話になっていたから、結婚の話を断る事が出来なかったのでしょう。
「今日は、何かあったのですか?」
リック様が帰宅した時、元気がなかった事が気になっていました。今も、あまり食欲がないようです。
「何もない……と言いたいところだけど、父上と喧嘩してしまってね」
まさか、私と離婚したいと言ったのでしょうか?
「すぐに仲直り出来ますよ。親子なんですから」
父親と喧嘩して落ち込むなんて、リック様は意外と繊細なのですね。
「君も、両親と喧嘩したりするのか?」
「しょっちゅう喧嘩していました。私は素直ではないので、父とは喧嘩ばかり。そんな私達を、母がいつも宥めてくれていました」
私の話を聞いて、リック様はどこか寂しそうな笑顔を浮かべました。私には、その理由が分かりませんでした。
「ご両親は、仲がいいんだな。君が素直じゃないのは、何となく分かる気がするよ」
自分で言うのはいいけど、人に言われるのは何だか嫌ですね……
「可愛げがないのは、分かっています。いつも父に言われていましたし」
「いや、それはそれで可愛いと思うよ」
……はい!? 今、なんて仰いました!?
か、か、か、可愛いって……
「あ、ありがとうございます……」
リック様から、私に向かって可愛いなんて言葉が出てくるなんて思ってもみなかったので、少し……いいえ、かなり動揺してしまいました。
無邪気な笑顔でそんな事を平然と言えちゃうリック様は、もしかしたら天然の人たらしなのかもしれません。
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