〖完結〗聖女の力を隠して生きて来たのに、妹に利用されました。このまま利用されたくないので、家を出て楽しく暮らします。

藍川みいな

文字の大きさ
2 / 37

2、結界



 もしかしたら、私が聖女だという事をアンナは知っているのかもしれない。私が何をしようと誰も気にしないが、アンナだけはいつも私の事を見ていた。あの日も、森に入って行く所を見ていたのかもしれない。アンナが私を気にしていたのは、私が心配だからとか、家族だからとかいう理由ではない。アンナは、私が大嫌いだった。

 アンナが生まれてからは、私は使用人に育てられた。父にとっては、私はただの道具。私にとっての家族は、育ててくれた使用人のアリーだけだった。アリーは、私が6歳の時に病で亡くなってしまい、私はこの邸で1人ぼっちになった。

 アンナが婚約してから数日後、とんでもない事を言い出した。

 「お姉様の力、私にくれない?」

 やっぱり、アンナは私が聖女だと気付いていた。

 「何を言っているの? 私に力なんてないわ」

 気付かれていると分かっていても、認めるわけにはいかなかった。認めてしまったら、アンナに利用されるのが分かりきっている。

 「誤魔化してもムダよ。8年前のあの日、森に入って行ったお姉様が、慌てて邸に戻って来たのは知ってるわ。あの時は、他に聖女がいたのかと思っていたけれど、今はあれがお姉様の力だって分かるわ」

 今なら分かる……か。
 アンナは、私が聖女だという事を確信している。ずっと私を見張っていたのだろう。
 8年間、力を隠し続けて来たのに、少し前に1度だけ力を使ってしまった。羽根に傷を負い、飛べなくなっていた小鳥を癒したのを見られていたんだ……

 「あなたは、何がしたいの? エヴァン様と婚約出来たのだから、それでいいでしょう?」

 それでいいはずはなかった。アンナには力がないのだから、聖女ではないと気付かれるのも時間の問題。 アンナは、私がエヴァン様の事を苦手に思っている事にも気付いている。だから、最初から利用するつもりだったのだろう。

 「さっき言ったじゃない。お姉様の力が欲しいの。私が聖女じゃないとバレたら、この公爵家は終わりよ。お父様を悲しませたいの?」

 『お父様を悲しませたいの?』
 その一言で、何かが吹っ切れた気がした。
 
 「いいわ、力を貸してあげる」

 父が悲しもうと、この公爵家が終わろうと、どうでもいい事に気付いてしまった。力を貸さないという選択肢もあったけど、それだとすぐにアンナが聖女ではないとバレてしまう。
 私はこの邸を出て、1人で生きて行く決意を固めた。それまでの時間稼ぎをする為に、アンナに協力をする事にした。
 邸を出ると決めてから、気持ちが楽になった。



 「結界を張り直して欲しいそうよ。今日中にお願いね」

 王城に呼び出されていたアンナが帰って来たと思ったら、すぐに私の部屋へ訪れてそう言った。

 簡単に言ってくれるわ。
 前王妃様が残した結界を張り直せだなんて、どれだけ大変な事なのか分かっていない。

 「今日中にはムリよ。今からすぐに始めても、明日の朝まではかかるわ。その間、あなたも部屋から出てはダメよ」

 アンナが誰かに見つかったら、結界を張っていない事が分かってしまう。

 「冗談でしょ!? 邸から出なければ、それでいいじゃない!」

 アンナは、軽く考え過ぎている。本来なら、大聖堂で結界を張るはず……大聖堂で待つのが退屈だから、邸で行う事にしたのね。

 「お父様は、この事を知っているの?」

 知るはずがない。自分の事しか考えていない父が、こんなリスクがある事を許しはしない。義母と結婚したのも、お金が目的だった。

 「……分かったわよ! 明日の朝ね。それ以上は、我慢出来ないわ!」

 アンナは不機嫌そうな顔で、自室に戻って行った。この邸の人間は、自分の事しか考えていない。父がアンナを可愛がる理由は、義母の父であるフーディー侯爵の援助があるから。義母は他の貴族夫人を集めて、自慢話ばかりしている。そしてアンナは、ワガママで自己中。

 こんな所、早く出て行きたい。
 
 仕方なく、結界を張る準備をする。準備といっても、特にする事はない。この部屋に訪れる者もいない。部屋の掃除も、自分でしている。父も義母も、使用人でさえ、まるで私なんて存在していないように振る舞う。
 食事の時が、唯一家族と顔を合わせる時間だけど、私に話しかける事も、私を見る事もない。愛情のない家族。
 もしもアリーが居なかったら、感情をなくしていたかもしれない。だけど、アリーが私に愛情を沢山与えてくれた。母の事も、沢山話してくれた。だから私は、強く生きて来られた。

 部屋の真ん中に座り、目を閉じて祈り始める。真ん中である必要はないけれど、この方が結界の形をイメージしやすい。まさか、隠していた力をこんな形で使う事になるとは思っていなかった。 
 温かい光が身体を包み込み、その光は邸の屋根を突き抜けて上空に向かって立ち上る。そのまま国全体が、優しい光に包まれて行った。

 そのまま朝まで祈り続けた。 

 
 結界を張り終えた事を、アンナに伝えに行く。そんな義務はないけれど、後で文句を言いに来られたら鬱陶しい。

 アンナの部屋のドアをノックすると、待ってましたと言わんばかりの勢いで返事が返って来た。
 
 「終わったわ」

 ドア越しにそう伝えて部屋に戻ろうとすると、ドアが開いてアンナが出て来た。

 「おっそいわよ! 退屈過ぎて、死にそうだったわ!」

 人は退屈では死なない。
 仮にも聖女を名乗ったのだから、祈るフリくらいしなさいよ。

 「死ななくて良かったわね。私は部屋に戻るわ」

 結界を張って分かった。前王妃様の結界は、もう限界だった。今の王妃様が水晶玉を使って、その限界を先延ばしにしていただけ。いつ消滅しても、おかしくはなかった。恐らく、水晶玉の魔力も尽きかけている。だから、アンナの話を信じたのね。そして、逃がさないように、確認よりも先に婚約をした。
 この結界は、最終試験のようなもの。だけど、結界というのは毎日数時間は祈らなければ維持出来ない。早めに邸を出て行かなければ、逃げられなくなってしまう。

 「何を言っているの!? 私が死ぬはずないじゃない!」

 ……自分が、死にそうだったと言ったわよね?
 相手にしても疲れるから、無視しよう。

 部屋に戻り、荷造りを始める。荷物といっても、ほとんどない。机の引き出しから、指輪を取り出す。この指輪は、母の唯一の形見。母が亡くなる前に、『産まれてくる子に渡して』と、アリーに預けていた。
 指輪を取り上げられたらと思うと、ずっと隠しておく事しか出来なかった。
 何着か服をバッグに入れ、部屋から出る。この部屋は、アリーとの思い出がつまっていた。少し寂しいけど、もうここには居られない。

 荷物を持って玄関に向かうと、何だか騒がしい。私は急いで、荷物を隠した。
 私に力はなくても、ヒルダの血を引く私を素直に逃がしてくれるとは思えない。それに、アンナに見つかるのは困る。アンナは私を利用し続ける気でいるのだから、1番厄介な相手だ。荷物は諦めよう。

 何食わぬ顔で玄関に歩いて行くと、そこには苦手なエヴァン様が立っていた。


感想 25

あなたにおすすめの小説

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

救国の代償で白髪になった聖女、一度のミスを理由に「無能の戦犯」として追放される ~隣国の覇王に拾われ、愛され、奇跡の力を見せつける~

スカッと文庫
ファンタジー
聖女アリシアは、百年に一度の大氾濫から国を守るため、禁忌の魔力全解放を行い、単身で数万の魔物を殲滅した。その代償として、彼女の美しい金髪は真っ白な「白雪色」に染まり、魔力は一時的に枯渇してしまう。 しかし、その功績はすべて現場にいなかった「偽聖女セシリア」に奪われ、アリシアは「結界を一部損壊させた戦犯」「魔力を失った役立たず」として、婚約者の王太子ギルバートから国外追放を言い渡される。 「失敗したゴミに、この国の空気は吸わせない」 泥の中に捨てられたアリシア。しかし、彼女を拾ったのは、敵対国として恐れられていた帝国の「武徳皇帝」ラグナールだった。彼はアリシアの白髪が「高純度の神聖魔力による変質」であることを瞬時に見抜き、彼女を帝国の宝として迎える。 数ヶ月後。アリシアが帝国の守護聖女として輝きを取り戻した頃、王国では「一度きりの奇跡」だったセシリアの魔力が尽き、本当の滅亡が始まっていた。 「今さら結界が解けたと泣きつかれても、もう私の魔力は一滴も残っていません」

聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます

香木陽灯
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。 どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。 「私は聖女になりたくてたまらないのに!」 ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。 けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。 ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに…… なんて心配していたのに。 「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」 第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。 本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。

婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。

石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。 やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。 失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。 愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

婚約者が毒を使って私を消そうとするけど、聖女だから効きません

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私シルフは聖女になっていたけど、家族以外には伝えていない。  婚約者のズドラは侯爵令嬢のロゼスが好きで、私を切り捨てようと考えていたからだ。    婚約破棄を言い渡されると考えていたけど、ズドラは毒で私を消そうとしてくる。  聖女の力で無力化できたけど――我慢の限界を迎えた私は、やり返そうと思います。

引きこもり聖女は祈らない

鷹 綾
恋愛
内容紹介 聖女ポーラ・スターは、引きこもっていた。 人と話すことができず、部屋から出ることもできず、 彼女の意思表示は、扉に貼られる小さなメモだけだった。 「西の街道でがけ崩れが起きます」 「今日は、クラムチャウダーが食べたいです」 祈らず、姿も見せず、奇跡を誇示することもない聖女。 その存在は次第に「役立たず」と見なされ、 王太子リチャードから一方的に婚約を破棄され、聖女の地位も解かれる。 ──だが、その日を境に、王国は壊れ始めた。 天候不順、嵐、洪水、冷害。 新たに任命された聖女は奇跡を演じるが、世界は救われない。 誰もが気づかぬまま、 「何もしない聖女」が、実はすべてを支えていた事実だけが残されていた。 扉の向こうで静かに生きる少女と、 毎日声をかけ続ける精神科医フォージャー。 失われていく王国と、取り戻されていく一人の人生。 これは、 祈らない聖女が選んだ、 誰にも支配されない静かな結末の物語。 『引きこもり聖女は祈らない』 ざまぁは声高でなく、 救いは奇跡ではなく、 その扉の向こうに、確かにあった。

婚約破棄されたので、聖女になりました。けど、こんな国の為には働けません。自分の王国を建設します。

ぽっちゃりおっさん
恋愛
 公爵であるアルフォンス家一人息子ボクリアと婚約していた貴族の娘サラ。  しかし公爵から一方的に婚約破棄を告げられる。  屈辱の日々を送っていたサラは、15歳の洗礼を受ける日に【聖女】としての啓示を受けた。  【聖女】としてのスタートを切るが、幸運を祈る相手が、あの憎っくきアルフォンス家であった。  差別主義者のアルフォンス家の為には、祈る気にはなれず、サラは国を飛び出してしまう。  そこでサラが取った決断は?

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。