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12、ロックダムに戻ります
しおりを挟む「どうして、オスカー様が……?」
オスカー様は、とても優しい方だった。王妃教育を受けている間も、いつも気遣ってくれていた。
「兄上は、頭が悪いんですよ。アンナが聖女じゃないことくらい、考えればすぐに分かる。まあ、僕がそう仕向けたんですが」
この方は、本当にオスカー様なの!?
まるで別人のようなオスカー様に、頭がついていかない。
「その兵士達に命令して町の人達を傷付けさせたのは、オスカー様ですか?」
頭がついていかなくても、怒りは込み上げてくる。
「そうですが、僕が斬れと命じたのは1人だけです。まさか、ここの人達全員が、サンドラ嬢を命懸けで逃がそうとするとは思っていませんでした。随分、人気者なのですね」
やっと分かった。この男は、悪魔だ。
エヴァン様以上の、クズ野郎だ!
「それは、私の力を確かめる為ですよね」
「さすが、サンドラ嬢。その通りです。8年前の結界は、あなたがしたことだと思ってはいましたが、この目で見たかったのです」
そんな事の為に、罪もない町の人達を傷付けるなんて……
8年前から、オスカー様は私が聖女だと気付いていた。知らないフリを続けて来たのは、エヴァン様が婚約を解消するのを待っていたから。
アンナをけしかけ、私が出て行った時の為にギルドに依頼を出し、エヴァン様に婚約を解消させた。全て、この人の計画だった。
私に優しくしていたのも、私を手に入れる為。オスカー様は、私を……聖女を手に入れて、王太子になるつもりだ。
「そんな怖い顔をしないでください。殺さないようにと命令したんですよ。死んでしまったら、さすがに聖女でも生き返らせることは不可能でしょう? あなたが僕と共に帰らないと言うなら、誤って殺してしまうかもしれませんがね」
私に、選択肢なんかない……
王子であるオスカー様を攻撃することは出来ないし、この町の人達を見捨てて逃げるわけにはいかない。せめてもの救いは、今ここにレニーとティアがいなかったこと。レニーを傷つけられでもしたら、私は何をするか分からないし、ティアは私の為にオスカー様を殺しかねない。
レニーとティアには、ジュードがついていてくれる。
「……行きましょう」
「話が早くて助かります。では、参りましょう」
オスカー様の手を取り、馬車へと向かう。
「サンドラ様!」
「サンドラ様、行かないでください!」
「我々は、共に戦います!」
町の人達は、必死に引き止めようとしてくれている。その気持ちだけで、私は十分幸せだ。
「ありがとう。でも、もう十分だから。私は、みんなに出会えて、幸せです!」
それでも引き止めようとしてくれる町の人達を振り返ることなく、馬車に乗り込んだ。
すごく短い間だったけど、ティアと一緒に旅をして、レニーと出会って、この町の人達に出会って、ジュードに出会って……本当に、幸せな日々だった。
私達を乗せた馬車は、ロックダムに向かって走り出した。
「ロックダムに戻ったら、すぐに父上に挨拶に行かなくては。ワクワクしますね! それに、兄上の顔も、きっと見物ですよ」
まるで子供のように、目を輝かせながらこれからの事を話すオスカー様。聖女の私と婚約を破棄し、聖女ではないアンナと婚約をしてしまったエヴァン様は、王太子ではいられなくなる。エヴァン様のことは嫌いだけど、オスカー様よりはマシだった。
「そういえば、髪の色が変わっていますね。そのままでいてください。あの銀色の髪は、不気味でしたから」
不気味なのは、あなたよ。善人のふりをした悪魔。その悪魔を、私は心優しいと思っていたのだから笑える。
「オスカー様は、王太子になるおつもりなのですか? それとも、エヴァン様に勝ちたいだけですか?」
エヴァン様はとても美しい容姿で、剣術もオスカー様より優れている。オスカー様の容姿は、茶色い髪に茶色の瞳。目は小さく、口は大きめ。決して美形ではない。
きっと、いつもエヴァン様と比べられて生きてきたのだろう。
「さあ、どうでしょう。余計な詮索は、しないでください。あなたはただ、僕の言う通りにすればいいのです」
国を守る道具になるだけでなく、オスカー様の操り人形になれということね。前より最悪な状況になってしまった。
だけど、邸を出たことを後悔はしてない。
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