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20、キマイラ
しおりを挟む依頼を受けて直ぐにドーグに向かった。私の移動速度なら、2時間程で着きそう。
魔物がドーグから先に進んで来ている可能性もある為、辺りを警戒しながら移動する。
まだ気配を感じないから、ドーグ村にいるようだ。それでも警戒はしつつ、ドーグ村へと向かっていると、男性がうつ伏せで倒れているのを見つけて駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
男性は、冒険者のようだ。きっと、ドーグ村の魔物討伐の依頼を受けた冒険者だろう。
男性を仰向けにすると、お腹の辺りを大きく切り裂かれていた。
傷口に手を当て、回復魔法を施す。光が男性の傷口を包み込み、切り裂かれていた皮膚が再生していく。傷が完全に塞がると同時に、男性は目を覚ました。
「あなたは……女神様……ですか?」
「違います。人間ですよ」
「す、すみません!」
勘違いしたのが恥ずかしかったのか、急いで起き上がる男性。……言われた方は、もっと恥ずかしい。
「ドーグ村の依頼を受けた冒険者ですか?」
あんな酷い傷を負っていたら、動くことさえキツかったはず。それでも、痛みを堪えて何かを知らせようと町に向かっていたように見えた。
「そうです! あの魔物には、普通の冒険者が束になっても勝てません! これ以上犠牲者を出さない為にも、最低Aランク以上の冒険者が数人は必要だと、ギルドに報告しに向かうところでした!」
そんなに強力な魔物なら、援軍が来ても全滅だった。それにしても、どうしてそんな魔物が、いきなり現れたのか……
「そうですか、分かりました。その魔物は、まだドーグ村にいるのですか?」
「います……けど、あの……まさか、行くつもりですか!?」
「その為に来たのだから、行きますよ。あなたはギルドに戻ってください」
「まっ……」
冒険者さんの言葉を最後まで聞くことなく、その場を去った。少しでも早く行かないと、他の冒険者の命が次々奪われて行くかもしれない。
お姉さんから頼まれたこの依頼は、報酬が安かった。きっと、お姉さん自身が出した依頼なのだろう。その安い報酬で、全力で戦っている冒険者を、見殺しには出来ない。
数分後、ドーグ村に到着した。
「何だ? お前、この前最低ランクだって連呼されてた女じゃねーか?」
ドーグ村の入口で魔物の気配を探っていると、村に着く少し前に追い越した冒険者の馬車が到着して、男性が3人降りて来た。そのうちの1人が話しかけて来た。
私がギルドに加入した時、あの場にいたようだ。
「あなたも、この村の討伐依頼を受けたのですか?」
「セリアちゃんが、困っていたからな! つーか、お前もか? お前じゃ無理だから、怪我しないうちに帰んな!」
「嬢ちゃん、魔物討伐は遊びじゃないんだぜ。俺たちは、Aランク冒険者だ。命が惜しけりゃ、ギルドに帰ってもっと簡単な依頼受けな」
「そうだそうだ」
3人はセリアさん狙いのようだ。
Aランク冒険者(自称)が3人居るなら、先に戦ってもらうことにした。
「そうですね。では、魔物をお任せします」
私と同じ道を来たのに、彼らは先程の冒険者さんを助けようとはしなかった。倒れている人を見捨てるような人達を、助ける義理はない。
私は負傷者を探すことにした。
まずは、魔物の気配を感じ取る。きっと魔物の周辺に、冒険者達はいるはず。
…………見つけた!
すぐにその場に移動すると、冒険者数人が傷を負いながら戦っていた。
魔物は、キマイラ。
3つの頭を持つといわれる合成獣。
倒れている冒険者の男性に駆け寄り、回復魔法をかける。
「……ありがとう……ございます……」
何人かは、既に息をしていない。私に治せるのは、生きている人だけ……自分が初めて無力だと感じた。
「お前ら、どけどけー! クズ共が束になっても勝てねーよ!」
「そうだクズ共! 邪魔だ! 俺らは、Aランク冒険者だ!」
「そうだそうだ!」
そこに、さっきの3人組が現れた。
戦っていた冒険者達は、Aランク冒険者の援軍が現れたことで、邪魔にならないように魔物から離れて行く。
「「「とりゃーーーーーーっ!!!」」」
3人は一気に飛びかかった!
そして、一気に振り払われ、地面に叩きつけられた!
それを見ていた他の冒険者も、もちろん私も、言葉を失った。
3人居るのに、連携もとらずに突っ込み、一撃で撃退された。……アホだ。
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