7 / 9
7、救世主
しおりを挟む「大変です! トリスア王国が我が国に攻めて来ました!!」
他国が攻めて来たと知らせを受けた兵が、息を切らせながら執務室へと駆け込んで来た。
「何!? 攻めて来たなんて、どうすればいいんだ!?」
真っ青な顔で立ち上がったと思ったら、ラクセルはぶるぶると震え出した。
「殿下、落ち着いてください!」
宰相が落ち着かせようと声をかけても、ラクセルは聞こうとしない。
「そうだ! 逃げよう! 私が死んだら、国は終わりだ! エリアーナ……エリアーナも連れて行く! 」
ラクセルが死んでも、国は終わらない。我先に逃げようとするラクセルには、王太子の資格など全くない。最初からそれは分かっていたことだが、宰相も臣下達も改めて思い知らされていた。
宰相の引き止める声にも耳を貸さず、執務室を出てエリアーナの部屋に向かう。
その途中で、ラクセルに会う為に執務室へと向かっていたカナリアと会った。
「ラクセル様~! 今、お会いしに行くところでしたあ! こんな風にお会いするなんて、やっぱり私達は運命の赤い糸で結ばれているのですね~」
張り詰めた空気の中、甲高い声が廊下に響き渡る。カナリアがラクセルに近寄ろうとすると、ラクセルはカナリアに視線を向けることなく通り過ぎて行った。
「え?? ラクセル様?? どうして私を無視するのですかあ?」
通り過ぎて行ったラクセルを、パタパタと足音を立てながら追いかけて行くカナリア。ラクセルに追い付いたカナリアは、ラクセルの腕に自分の腕を絡ませた。
「私も一緒に行きます~」
その言葉が、ラクセルのカンに触った。
「離せっ!! おまえなんて連れて行くか!! おまえに構っている時間はない! 私はエリアーナと共に逃げる!!」
ラクセルがカナリアの腕を振り払うと、カナリアは勢いよく後ろに飛ばされ、ドスンと尻もちをついた。
「ラクセル様……ぁ」
倒れているカナリアを気にすることなく、そのまま去って行く。カナリアの目には涙……ではなく、怒りの色が浮かんでいた。
「クソ野郎ー! おまえなんか、王太子じゃなかったら誰が相手にするか! 何も出来ないくせに、プライドだけは無駄に高い無能! おまえなんかこっちから願い下げだーーーー!!!」
カナリアの叫びは、虚しく王宮に響いていた。
エリアーナの部屋のドアを乱暴に開けて、ラクセルが入って来る。
「エリアーナ、逃げるぞ!!」
ラクセルはエリアーナにそう告げるが、エリアーナは反応することなくソファーに座ったまま本を読んでいる。
その様子に苛立ちを覚えたラクセルは、無理やりエリアーナの腕を掴んでソファーから立たせた。
「……離していただけますか?」
「トリスアが攻めて来たんだ! 今すぐ逃げなければ! おまえも一緒に来い!」
切羽詰まった様子のラクセルとは対照的に、落ち着いた様子のエリアーナ。
「なぜ、逃げるのですか? 殿下はこの国の王太子です。民を見捨てるおつもりなのですか!?」
エリアーナは、ラクセルに心底失望していた。
「し、しかし、私さえ無事ならば、国などいくらでも立て直せるではないか!」
ラクセルに、何を言っても無駄なのはわかっていた。国民を見捨てて逃げる国の主など、主でいる資格はない。
その時だった。
「相変わらずですね、兄上」
開かれたドアの側に、ラクセルの弟であるセリムが立っていた。
「セリム……!? なぜおまえがここに!?」
エリアーナが父であるブラント公爵に宛てた手紙には、国を守る為の方法が詳細に書かれていた。
セリムを隣国から連れ戻すこと……隣国の国王陛下に宛てた手紙も同封されていた。
ドリクセン公爵の探していた書類を、エリアーナが手に入れたことで、ドリクセン公爵の顔色を伺う必要はなくなっていた。軟禁されても冷静だったエリアーナは、セリムが戻って来る日を待っていたのだ。
「セリム様、お帰りなさい。トリスアの軍は、どうなりましたか?」
セリムはエリアーナに微笑み、
「大人しく自国に帰って行ったよ」
そう報告した。
「それは、どういうことだ!? おまえが、トリスアの軍を追い払ったというのか!? おまえにそんな力が、あるはずない!!」
ラクセルの頭の中は、混乱していた。
「そうですね、僕一人では無理でした。ですが、隣国ドワインが味方についてくれたのです」
エリアーナは王太子妃になってからずっと、隣国の国王と手紙のやり取りをしていた。ブラント公爵に預けた手紙には、セリム王子と共に国を救って欲しいと書いてあった。もちろん、簡単に協力してくれたわけではない。
「ラクセル様、あなたは王太子に相応しくありません。今この時をもって、あなたは王太子ではなくなります」
253
あなたにおすすめの小説
遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした
おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。
真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。
ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。
「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」
「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」
「…今度は、ちゃんと言葉にするから」
【完結】ロザリンダ嬢の憂鬱~手紙も来ない 婚約者 vs シスコン 熾烈な争い
buchi
恋愛
後ろ盾となる両親の死後、婚約者が冷たい……ロザリンダは婚約者の王太子殿下フィリップの変容に悩んでいた。手紙もプレゼントも来ない上、夜会に出れば、他の令嬢たちに取り囲まれている。弟からはもう、婚約など止めてはどうかと助言され……
視点が話ごとに変わります。タイトルに誰の視点なのか入っています(入ってない場合もある)。話ごとの文字数が違うのは、場面が変わるから(言い訳)
婚約破棄された令嬢は、ざまぁの先で国を動かす ――元王太子の後悔が届かないほど、私は前へ進みます』
ふわふわ
恋愛
名門アーデン公爵家の令嬢ロザリーは、
王太子エドワードの婚約者として完璧に役目を果たしてきた――はずだった。
しかし彼女に返ってきたのは、
「聖女」と名乗る平民の少女に心酔した王太子からの一方的な婚約破棄。
感情論と神託に振り回され、
これまでロザリーが支えてきた国政はたちまち混乱していく。
けれど、ロザリーは泣かない。縋らない。復讐に溺れもしない。
「では、私は“必要な場所”へ行きますわ」
冷静に、淡々と、
彼女は“正しい判断”と“責任の取り方”だけで評価を積み上げ、
やがて王太子すら手を出せない国政の中枢へ――。
感情で選んだ王太子は静かに失墜し、
理性で積み上げた令嬢は、誰にも代替できない存在になる。
これは、
怒鳴らない、晒さない、断罪しない。
それでも確実に差がついていく、**強くて静かな「ざまぁ」**の物語。
婚約破棄の先に待っていたのは、
恋愛の勝利ではなく、
「私がいなくても国が回る」ほどの完成された未来だった。
――ざまぁの、そのさらに先へ進む令嬢の物語。
復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~
水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のクラリスは、婚約者のネイサンを支えるため、幼い頃から血の滲むような努力を重ねてきた。社交はもちろん、本来ならしなくても良い執務の補佐まで。
ネイサンは跡継ぎとして期待されているが、そこには必ずと言っていいほどクラリスの尽力があった。
しかし、クラリスはネイサンから婚約破棄を告げられてしまう。
彼の隣には妹エリノアが寄り添っていて、潔く離縁した方が良いと思える状況だった。
「俺は真実の愛を見つけた。だから邪魔しないで欲しい」
「分かりました。二度と貴方には関わりません」
何もかもを諦めて自由になったクラリスは、その時間を満喫することにする。
そんな中、彼女を見つめる者が居て――
◇5/2 HOTランキング1位になりました。お読みいただきありがとうございます。
※他サイトでも連載しています
婚約破棄されました。
まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。
本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。
ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。
習作なので短めの話となります。
恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。
ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。
Copyright©︎2020-まるねこ
【完結】傲慢にも程がある~淑女は愛と誇りを賭けて勘違い夫に復讐する~
Ao
恋愛
由緒ある伯爵家の令嬢エレノアは、愛する夫アルベールと結婚して三年。幸せな日々を送る彼女だったが、ある日、夫に長年の愛人セシルがいることを知ってしまう。
さらに、アルベールは自身が伯爵位を継いだことで傲慢になり、愛人を邸宅に迎え入れ、エレノアの部屋を与える暴挙に出る。
挙句の果てに、エレノアには「お飾り」として伯爵家の実務をこなさせ、愛人のセシルを実質の伯爵夫人として扱おうとする始末。
深い悲しみと激しい屈辱に震えるエレノアだが、淑女としての誇りが彼女を立ち上がらせる。
彼女は社交界での人脈と、持ち前の知略を駆使し、アルベールとセシルを追い詰める貴族らしい復讐を誓うのであった。
【完結】愛してきた義妹と婚約者に騙され、全てを奪われましたが、大商人に拾われて幸せになりました
よどら文鳥
恋愛
私の婚約者であるダルム様との婚約を破棄しろと、義父様から突然告げられました。
理由は妹のように慕っているマーヤと結婚させたいのだと言うのです。
ですが、そんなことをマーヤが快く思うはずがありません。
何故ならば、私とマーヤは本当の姉妹のように仲が良いのですから。
あまりにも自信満々に言ってくるので、マーヤの元へこのことを告げます。
しかし、そこでマーヤから驚くべき言葉を告げられました。
婚約者のダルム様のところへ行き、助けを求めましたが……。
行き場を完全に失ったので、王都の外へ出て、途方に暮れていましたが、そこに馬車が通りかかって……。
【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~
山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。
この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。
父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。
顔が良いから、女性にモテる。
わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!?
自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。
*沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる