〖完結〗容姿しか取り柄のない殿下を、愛することはありません。

藍川みいな

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7、救世主

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 「大変です! トリスア王国が我が国に攻めて来ました!!」

 他国が攻めて来たと知らせを受けた兵が、息を切らせながら執務室へと駆け込んで来た。

 「何!? 攻めて来たなんて、どうすればいいんだ!?」

 真っ青な顔で立ち上がったと思ったら、ラクセルはぶるぶると震え出した。

 「殿下、落ち着いてください!」

 宰相が落ち着かせようと声をかけても、ラクセルは聞こうとしない。
 
「そうだ! 逃げよう! 私が死んだら、国は終わりだ! エリアーナ……エリアーナも連れて行く! 」

 ラクセルが死んでも、国は終わらない。我先に逃げようとするラクセルには、王太子の資格など全くない。最初からそれは分かっていたことだが、宰相も臣下達も改めて思い知らされていた。
 
 宰相の引き止める声にも耳を貸さず、執務室を出てエリアーナの部屋に向かう。
 その途中で、ラクセルに会う為に執務室へと向かっていたカナリアと会った。

 「ラクセル様~! 今、お会いしに行くところでしたあ! こんな風にお会いするなんて、やっぱり私達は運命の赤い糸で結ばれているのですね~」

 張り詰めた空気の中、甲高い声が廊下に響き渡る。カナリアがラクセルに近寄ろうとすると、ラクセルはカナリアに視線を向けることなく通り過ぎて行った。

 「え?? ラクセル様?? どうして私を無視するのですかあ?」

 通り過ぎて行ったラクセルを、パタパタと足音を立てながら追いかけて行くカナリア。ラクセルに追い付いたカナリアは、ラクセルの腕に自分の腕を絡ませた。

 「私も一緒に行きます~」

 その言葉が、ラクセルのカンに触った。

 「離せっ!! おまえなんて連れて行くか!! おまえに構っている時間はない! 私はエリアーナと共に逃げる!!」

 ラクセルがカナリアの腕を振り払うと、カナリアは勢いよく後ろに飛ばされ、ドスンと尻もちをついた。

 「ラクセル様……ぁ」

 倒れているカナリアを気にすることなく、そのまま去って行く。カナリアの目には涙……ではなく、怒りの色が浮かんでいた。

 「クソ野郎ー! おまえなんか、王太子じゃなかったら誰が相手にするか! 何も出来ないくせに、プライドだけは無駄に高い無能! おまえなんかこっちから願い下げだーーーー!!!」

 カナリアの叫びは、虚しく王宮に響いていた。

 エリアーナの部屋のドアを乱暴に開けて、ラクセルが入って来る。

 「エリアーナ、逃げるぞ!!」

 ラクセルはエリアーナにそう告げるが、エリアーナは反応することなくソファーに座ったまま本を読んでいる。
 その様子に苛立ちを覚えたラクセルは、無理やりエリアーナの腕を掴んでソファーから立たせた。

 「……離していただけますか?」

 「トリスアが攻めて来たんだ! 今すぐ逃げなければ! おまえも一緒に来い!」

 切羽詰まった様子のラクセルとは対照的に、落ち着いた様子のエリアーナ。
 
 「なぜ、逃げるのですか? 殿下はこの国の王太子です。民を見捨てるおつもりなのですか!?」

 エリアーナは、ラクセルに心底失望していた。

 「し、しかし、私さえ無事ならば、国などいくらでも立て直せるではないか!」

 ラクセルに、何を言っても無駄なのはわかっていた。国民を見捨てて逃げる国の主など、主でいる資格はない。

 その時だった。

 「相変わらずですね、兄上」

 開かれたドアの側に、ラクセルの弟であるセリムが立っていた。

 「セリム……!? なぜおまえがここに!?」

 エリアーナが父であるブラント公爵に宛てた手紙には、国を守る為の方法が詳細に書かれていた。
 セリムを隣国から連れ戻すこと……隣国の国王陛下に宛てた手紙も同封されていた。
 ドリクセン公爵の探していた書類を、エリアーナが手に入れたことで、ドリクセン公爵の顔色を伺う必要はなくなっていた。軟禁されても冷静だったエリアーナは、セリムが戻って来る日を待っていたのだ。

 「セリム様、お帰りなさい。トリスアの軍は、どうなりましたか?」

 セリムはエリアーナに微笑み、

 「大人しく自国に帰って行ったよ」

 そう報告した。

 「それは、どういうことだ!? おまえが、トリスアの軍を追い払ったというのか!? おまえにそんな力が、あるはずない!!」

 ラクセルの頭の中は、混乱していた。

 「そうですね、僕一人では無理でした。ですが、隣国ドワインが味方についてくれたのです」

 エリアーナは王太子妃になってからずっと、隣国の国王と手紙のやり取りをしていた。ブラント公爵に預けた手紙には、セリム王子と共に国を救って欲しいと書いてあった。もちろん、簡単に協力してくれたわけではない。

 「ラクセル様、あなたは王太子に相応しくありません。今この時をもって、あなたは王太子ではなくなります」



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