〖完結〗拝啓、愛する婚約者様。私は陛下の側室になります。

藍川みいな

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愛する人

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 「きっと勝って、君の元に必ず帰って来るから、待っていて欲しい。」

 彼を戦地に送り出すのは、これで何度目でしょうか。何度経験しても、慣れることはありません。
 ですが、今回の戦争で長かった隣国との争いに決着がつきます。

 「帰って来たら、ずっと一緒にいよう。」

 「はい。ご武運をお祈りしております。」

 10月21日、彼は戦地へと向かって行きました。

 
 私はリサ・ブラッド。18歳。侯爵令嬢です。
 5年前に侯爵令息のカイト・バーキュリー様と婚約しました。カイト様とは幼馴染みで、私は二つ年上のカイト様がずっと好きでした。
 銀色の髪に赤い目のすごく綺麗な方で、女性の私より美しいかもしれません。
 そんな彼から、5年前に婚約者になって欲しいと言われた時は、嬉し過ぎて泣いてしまいました。
 カイト様は私の涙を拭ってくれて、ずっと好きだったと言ってくれた。
 結婚式は二年前に行われるはずだったのですが、隣国との仲がこじれ、戦争にまで発展してしまい、騎士長としてカイト様が兵を率いる事になった事で、戦争が終わるまで婚姻を先延ばしにする事になりました。
 もしも戦争で自分が死んでしまったら……そう考えて、先延ばしにしてくれたようですが、私はカイト様以外の方と婚姻するつもりなどありません。


 カイト様が戦地に向かわれてから、約4ヶ月後の2月25日。戦争がこの国マトルーシュの勝利で終わったという知らせが届きました。
 彼が帰って来るのを、待っていたのですが……彼が帰って来る事はありませんでした。

 「それは、どういうことですか!?」

 私は平静ではいられず、声を荒らげていた。

 「申し訳ありません……テントにいたはずの騎士長のお姿が、突然消えたのです……」

 隣国との戦いが終わり、兵達は勝利の祝杯をあげていた。カイト様は1人、テントで休んでいたそうなのですが、兵士が様子を見に行ったところ、カイト様のお姿はなく、テントの中は血の海だったそうです。
 兵士達総出で1週間探したそうですが、カイト様は見つからなかった。

 「あの血の量だと……見込みはないかと……」

 目の前が真っ暗になり、私は気を失っていました。

 目を覚ますと、自室のベッドの上でした。
 夢だったら、どんなに良かったでしょう…… 
 ですが、目を覚ましたら辛い現実が待っていました。
 カイト様のお父様、バーキュリー侯爵はカイト様の葬儀をあげました。遺体は見つからなかったけど、血の量で生きてはいないと判断した。
 近くには川が流れていて、連日の雨で増水していた。傷を負ったまま川に落ち、命を落としたと考えるのが妥当だということのようです。

 私には信じられませんでした。きっと、カイト様は生きている! 私の元に、必ず帰って来ると約束してくれました。

 彼の行方が掴めないまま、半年が過ぎました。バーキュリー侯爵は、彼の遺体を探していたのですが、捜索を打ち切ったそうです。
 私はカイト様が必ず帰って来ると信じているので、葬儀には出ませんでした。その事が噂になり、冷たい婚約者だと言われ続けています。

 「リサ、陛下から王宮に来て欲しいと使いの方が来ている。」

 「分かりました。行ってきます。」

 この国の国王であるロベルト様は、カイト様が行方不明になってから私を気遣ってくれています。陛下とは、3年前に初めてお会いしました。その時はお忍びで街にいらしていて、最初は陛下だと知らずに失礼な事をしてしまったのですが、陛下は許してくださいました。


 王宮に着くと、メイドが陛下のいらっしゃる温室へと案内してくれました。
 温室に入ると沢山の花が咲いていて、少しだけ癒されました。

 「来たか。」 

 私が来た事に気づいた陛下は、私の顔を見て笑顔を浮かべた。

 「遅くなって申し訳ありませんでした。」

 「気にするな。急に呼び出してすまなかったな。君の顔が見たくなったのだが、あまり城を離れるわけにはいかなくてな。」

 「いいえ、カイト様のお父様さえ諦めてしまったのに、陛下は今もカイト様を探してくださっています……本当に感謝しております。」

 カイト様が行方知れずになってから、陛下はずっとカイト様を探してくださっている。

 「国の為に戦ってくれた者を、見捨てるわけにはいかない。それに、君の悲しむ顔を見たくないのだ。」

 陛下はカイト様を見捨てたりしない。それだけが、今の私の救いです。

 



 カイト様が行方不明になってから、1年が経ちました。1年が経っても何の情報もないまま、月日だけが過ぎていきます。



 「困った事になった……」

 お父様は王城に呼ばれたのですが、帰って来るなり暗い顔で下を向いた。何だか胸騒ぎがする……

 「困った事とは、何なのですか?」

 「実は、ドレステード王国の王がお前を側室に迎えたいと言って来たそうなんだ……」

 「な!? どうして、そのような事になったのですか!?」

 ドレステード王国は、マトルーシュの同盟国です。国王は女性の扱いが酷く、側室になった女性が次々に亡くなっていると聞きます。
 どうして私を指名して来たのでしょうか……
 
 「カイトの噂を聞いたようだ。婚約者が亡くなったのなら、断る理由はないだろうと……」

 そんな……!!
 私はカイト様を待ち続けるつもりなのに、他国に嫁ぐ事など出来ません!
 でも……ドレステードとは同盟国ですが、まだ不安定な間柄だと聞いています。私が断ったら、どうなるのでしょう……
 
 「………………」

 何も答えられずにいた私に、お父様は思ってもみなかった事を口にした。

 「断る為には、理由がいる。それも、ドレステードの王との婚姻を断る事の出来る理由。
 ……陛下はお前を、ご自分の側室にするつもりだと言って断ったようだ。」

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