〖完結〗拝啓、愛する婚約者様。私は陛下の側室になります。

藍川みいな

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贈り物

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 「私は誰とも、夜を共にしていない。
 だから、子が出来るわけがないのだ。」

 誰とも……?
 陛下はまさか……

 「男が好きなわけではないぞ。」

 え、え、ええ!?
 私の心が読めるのでしょうか!?

 「……ものすごく顔に出ている。」

 「…………すみません…………」

 「私はただ、愛してもいない相手を抱くことが出来なかっただけだ。」

 「陛下は、純粋な方なのですね。」

 「少しは惚れてくれたか? ……なんてな。
 カイトよりも先に、君に会いたかった……」

 それって……

 「今日はもう戻る。また明日会いに来るから、ゆっくり休みなさい。」

 意味深な言葉を残して、陛下は王宮に戻って行きました。もしかしたら、陛下は私を……? なんて、そんなはずないですね。
 今日は色々あったので、少し疲れてしまいました。早めに休む事にします。

 疲れがたまっていたのか、結構な目にあったのに、この日は何も考えずにぐっすり眠る事が出来ました。
 


 翌日、朝から王妃様に呼ばれ、会いに行く事になりました。
 今日は何をされるのでしょうか……
 
 「遅かったじゃない!」

 呼ばれてすぐに来たのですが、叱られてしまいました。
 王妃様のお住いは側室の住む離宮ではなく王宮なので、どんなに急いでも少し時間がかかってしまいます。

 「申し訳ありません。」

 今日は、大人気ない事をしないようにしないといけませんね。

 「まあ、いいわ。今日は、これをリサにあげる為に呼んだの。」

 そう言われて渡されたのは、香水でした。

 「ありがとうございます。」

 「毎日つけなさい。あなたの為に、私が選んだのよ。」

 そうでしょうね。
 まだ使ってもいないのに、ものすごい臭いが漂ってきます。柑橘系と花の甘い香りと……なぜか魚の臭いと獣の臭い……つまり、ものすごく臭いです。こんなものを香水として売るなんて、作った人は鼻が詰まっていたのでしょうか……

 「王妃様にいただいた物ですから、もったいなくて使えません!」

 これをつけたら、失神してしまいそうです……

 「あら、大丈夫よ。沢山買ってあるから、全部持っていきなさい。」

 箱いっぱいの香水を渡され、鼻が曲がりそうです。これをどうしろというのでしょう……

 「さっさと部屋に戻りなさい。」

 ……臭いからですね。
 こんなに臭いものを、あの王妃様が自分の部屋に置いておくほど嫌がらせがしたかったのかと思うと、本当に子供のイタズラみたい。

 部屋に戻り、大量の香水をどうしようか考えていると、

 コンコン……

 ノックの音が聞こえました。
 ドアを開けると、そこにはレノン様が立っていました。

 「また、来てしまいました。」

 そう言ってニッコリ笑うレノン様。
 こうして訪ねてきてくれる方がいるのは、とても嬉しいです。
 気分を害してしまったのでは? と不安でしたが、あまり気にしてはいないようです。

 「来ていただけて嬉しいです。」

 ルビーにお茶を頼み、レノン様にはソファーに座ってもらった。
 向かいのイスに座り、テーブルの上に置いてある香水に気付く。

 ……忘れていました。

 「申し訳ありません!」

 急いで片付けようとすると、

 「それは、王妃様の嫌がらせですか?」

 レノン様は、すぐに王妃様の嫌がらせだと気付いたようです。

 「どうして分かったのですか?」

 「その香水、私もいただいたんです。多分、他のご側室の方も貰ったのではないでしょうか。」

 王妃様……ものすごく単純な方ですね……

 「陛下が近寄らないように……という理由でしょうか。
 レノン様は、香水をどうされたのですか?」

 こんな臭いもの、まさか使ってはいないですよね。

 「あー。捨てました。」

 「捨てたのですか!? よく叱られませんでしたね!」

 毎日つけるように言われたから、王妃様にお会いする時だけつけようと思っていました。

 「王妃様は陛下が近付きたくないようにしたかったのでしょうから、私が使わなくても問題はないのです。
 開けてみてもいいですか?」

 「え、開けるのですか!?」

 「私はすぐに捨ててしまったので、開けた事がないんです。」

 「怖いもの見たさ……ですか。どうぞ。」

 レノン様は側室にはならなかったのだから、使わなくても問題なかったのですね……
 香水の瓶の蓋を開けると、ものすごい悪臭が部屋中に充満しました。

 「申し訳ありません……開けない方が、よかったですね……
 リサ様は、この香水をどうなさるおつもりなのですか?」

 レノン様はすぐに瓶の蓋を締め、テーブルの上に置いた。

 「王妃様にお会いする時だけつけようと思っていたのですが、臭すぎですね……」

 このまま部屋に置いておきたくない……

 「それなら、全部捨ててしまって、違う香水をおつけしたらいかがですか?
 王妃様があれをつけたとは思えないので、つけてみたら匂いが変わったと言えば問題ないかと。」

 「ですが、他の側室の方はつけたのですよね?」

 「つけていないですよ。リサ様とは違い、他の方の元へ陛下は一度も行かれていないようです。
 だから、王妃様は何も仰らなかったそうです。」

 陛下は、他の方の部屋に行ったことがないのですね……て、どうして私、そんな事気にしているのでしょう?

 「そういえば、リサ様の婚約者だったカイト様のお噂、聞きましたか?」

 カイト様の噂!?

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