〖完結〗どうやら私は悪役令嬢に転生したようです。破滅したくないだけなのに、なぜか婚約者が溺愛してくるのですが?

藍川みいな

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6、ミシェルとセシリー

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 食堂に着くと、両親もデイビスも、すでに食事を終えて部屋に戻ろうとしていた。私が来たことに気付いているはずなのに、視線さえ向けて来ない。私が食堂に入ろうとすると、三人はイスから立ち上がり、出て行こうとした。

 「私は透明人間ではありませんよ」

 三人とすれ違いざまに、嫌味を言ってみる。

 「……透明人間の方がマシだな」

 私の方は一切見ずに、父親はそう呟いて去っていった。嫌味を嫌味で返してくるあたり、性格が悪い。人のことは、言えないけど……
 無視されなかっただけ、一歩前進かな。

 テーブルに着くと、食事が運ばれて来る。一人で食べるご飯には、一人暮らしだったから慣れているけど、さすがに部屋が広すぎて落ち着かない。貴族って、いい事ばかりだと思っていたけど、不便なことも多い。だけど、ご飯は美味しい。こんなに美味しいご飯を、毎日作ってくれる料理長に感謝しながら、残さず全部平らげた。

 「はぁ~! 美味しかった!」

 お腹を擦りながら、食後のお茶を飲む。お茶も美味しい。

 「ミシェル様、先程のことですが、あのようなことをされては困ります」

 いつの間にか、セシリーが隣に立っていて、説教が始まった。食事が終わるまで、我慢していたようだ。

 「どうしていけないの? 私が何をしても、両親は気にしないわ。だから、あなた達が叱られることもないはず」

 せっかく無関心なんだから、自由に過ごしたい。

 「そういう問題ではありません! ミシェル様は、バークリー公爵家のご令嬢なのですよ!? 」
 
 セシリーの、言いたいことは分かる。だけど、中身の私は、公爵令嬢としての記憶もないただの一般人だ。このまま行けば死んでしまう悪役令嬢になんかなってしまったんだから、自由に過ごしてもバチは当たらないと思う。

 「こんな風に、物怖じせずに意見を言ってくれることには感謝してるけど、私は自分らしく生きると決めたの。何を言われても、折れるつもりはないわ」

 「どうしてしまわれたのですか? 以前のお嬢様とは、まるで別人のようです」

 それは、ミシェルじゃないから……なんて、言えるわけがない。

 「今までの私が、私じゃなかったの。部屋に戻るわ」

 この邸で唯一、ミシェルを見てくれていたセシリーには申し訳ないけど、私はミシェル・バークリーとして生きていかなければならない。
 
 部屋に戻ると、鏡の前に立ってみた。
 見れば見るほど美しい。少しだけ、イラッとした。佐倉莉音だった時は、好きな人にブスだと言われた。ミシェルの姿になった私を、ブスだなんて言う人はいないだろう。だけど、ミシェルとして生きて来た記憶がない私には、この姿が自分だとはまだ思えない。
 もしかしたら、ブスと言われた私が美しく生まれ変わって、先輩にそっくりなウィルソン様に美しいと言わせたいが為に、ミシェルに生まれ変わったのではと思えてくる。
 ……ミシェルは、ウィルソン様に婚約を破棄されてフラれるんだから、結末は同じか。理由なんて、考えるだけ無駄ね。答えなんて、分からないんだから。

 今日は、身体を動かしたからグッスリ眠れそう。少し汗臭いかも……あれ? お風呂は、どうするの!?
 ゲームの中には、お風呂シーンなんてなかったけど、まさかお風呂がないなんてことはないよね……

 プチパニックになっているところに、ノックの音が聞こえて来た。

 「はい」

 返事をすると、ドアを開けてセシリーが入って来た。

 「お風呂の準備が、出来ております」

 お風呂が、あったーーーっ!!!
 心の中でガッツポーズをする。

 「すぐに行くわ!」

 急いで着替えを持って、セシリーのあとを着いていく。嬉しくて鼻歌を歌いながら歩く私を、セシリーは怪訝そうに見てくる。

 「あの……聞いたことのない音楽ですね」

 聞いたことのない音楽……これは、この乙女ゲームの中でかかっていた曲だった。なんだか不思議だけど、この世界には存在していない曲なのね。

 「何となく、聞いたことがあったんだけど、何の曲だったか忘れてしまったわ」

 「そうなんですか? また聞かせてください。凄く心地良かったです」

 セシリーは、笑顔でそう言ってくれた。普通に会話してくれるのが、凄く嬉しかった。みんな、私の顔色ばかり伺って、この世界で一人ぼっちのような気がしていたから、少しだけこの世界の一員になれたような気がした。

 お風呂場に着くと、心が踊った。
 広い……物凄く、広い。銭湯並みに広い。
 こんなお風呂に、毎日入れるなんて幸せ。ミシェルになって、初めて良かったと思えた。
 
 「それでは、失礼いたします」

 セシリーは、頭を下げて去っていった。
 
 こんなに広いお風呂を独り占め出来るなんて、ワクワクが止まらない。頭と身体を洗ってから、湯船に浸かる。

 「気持ちいい……」

 今日1日が、凄く長く感じた。
 昨日まで、私の記憶では佐倉莉音だった。それがいきなり、乙女ゲームの悪役令嬢になっていたわりには、上手くやれてるんじゃないかと思う。
 なぜか先輩になっている婚約者のウィルソン様と、少し様子が違うヒロインは、なんか意味があるのかな? 
 とにかく、ヒロインとウィルソン様には、上手くいってもらわなければ困る。また同じ人にフラれるのは嫌だけど、彼と結婚するのはもっと嫌。明日は、上手くやらなくちゃ。
 考え事をしていたら、眠くなって来た。お風呂で寝ちゃう前に、早く部屋に戻ろう。

 部屋に戻ると、疲れていたからか、すぐに眠りについていた。

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