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しおりを挟む「ねぇ…、何してるの?
君は誰…?」
振り返ると、そこに居たのは赤い髪に黄色の瞳の
私と同じくらいの少年だった
見惚れるほどでは無いが、目鼻立ちが整い
愛らしく、肌は陶器のように綺麗だ
「え、と…お手洗いを探しておりまして…。」
「あ、それなら一つ前の角を左だよ。」
「そうですか、ありがとうございます。
あの、貴方様は…?」
「僕…?…僕はジレード…。」
消え入りそうな声で呟くその名前を私は知っている
ジレード・ラクレシアン第二王子
国王陛下の第二夫人とのご子息である
なるほど、美しい容姿なはずだわ…
「ジレード殿下、失礼を致しました。
私はパルスヴァイン公爵家の…「いいよ」
「え…?」
「いいよ、別に。
出来損ないで、紛い物の僕にそんな事しなくて。」
頭を下げて挨拶をしようとすると
顔を顰めて遮られてしまった
「みーんな影で言ってるの、知ってる。
紛い物の王子だって。金色も持てない紛い物。
だから兄上と違って出来損ないだって。」
自分を嘲笑うように、苦しそうに黄色の瞳が揺れる。
確かに王家の証である金色というよりも
レモンイエローに近い黄色の瞳だった。
「だから今日も、僕は出られないんだ。
君は出たんでしょ?父上とも話したの?」
「はい、お言葉を賜りましたわ。」
「そう、良かったね…。
父上は…僕が劣っているから…
皆に見せたくないんだろうね…。」
どう、言葉を掛けたら良いのか…
慰めるような言葉は不敬に取られる事もある
それに、何だろう、この感じ…
「僕だって、沢山努力はしたのに…!!
いつもいつも兄上ばかり!!!!
兄上ならこうした、兄上ならもっと出来た…!
誰も僕を、…っ…僕として、見て、くれない…!!!
…っく…、この瞳が金色じゃないってだけで!!!」
咳を切ったように溢れ出した言葉と涙
今日の席に出られない事を我慢していたのが
出席者であり、お言葉を賜った私を見て
溢れ出してしまった、という所だろう
何なのかしら、これ…?
悲劇のヒロイン気取りの三文芝居を見せられた気分
あ、男性だからヒーローかしら?
そんなのどうでもいいわ、何だか気分が悪い…
「…はぁ…、殿下とは知らず失礼致しました。
私は急ぎますのでこれで…。」
目的の場所の位置も聞けたのでもう要は無い
それに今の精神状態でこれ以上聞いてると
余計な事を言ってしまいそう…
「待って…!!!
君も、君も皆と同じなの…?
僕を出来損ないだと、思うの…?」
知らないわよ、そんな事…
駄目だ、今日は我慢出来ない…!
「さぁ、私には分かりませんわ。
実際に殿下の努力を見てもおりませんので。
ですが、王子である殿下がこのような所で
このように声を荒げられるのはいけませんわ。」
「だ、だって…っ!!
誰も僕の話なんか、っ、聞いてくれない…!!」
「その話し方も、王家の方に有るまじきものです。
それでは出席が許されないはず…「君も!!」
「君も、やっぱり君も僕を、っ…
馬鹿にするんだ…!!!」
はぁ…、もういい、もう知らない…
「人の話を最後まで聞きなさいっ!!
貴方が努力していたとして、足りていないのです!
今の態度を見ていれば当然です!
それに比べられるのが辛いでしたか…当前でしょう?
同じ王家の子供で、同じ事をしていれば
誰だって比較しますわっ!!」
疲れや落胆で脆くなっていたせいか
苛立つ気持ちを落ち着ける事が出来ない
「それが嫌なら違う事を磨けば良いのです!
黄色と馬鹿にされるのが嫌なら、
黄色を金色と言わせられる力を持てば良い。
周りから黄金と言われる立派な方になるよう
努力すれば良いだけでしょうっ!!
それを喚き散らし、同情を買うような真似をして…
そんな事で何が変わるというのですか…
泣き言を言うだけで評価が変わるほど、
王家も社交界は甘くはありませんわっ!!」
あぁ、そうか…
こんなにも苛立つのは、昔の自分が重なるからだ
泣き言を言い、諦めが付かずに喚くあの日の私…
自分だけを見てと、愛を求めて喚く王子様…
はぁ、虫唾が走るわ…
っ!いけない!
そんな事より、早く行かなきゃ!!
「…差し出がましい事を申し上げました。
失礼致します、殿下…。」
私の言葉に放心している殿下を尻目に
そそくさとお手洗いへ向かった。
急がなければ、叱られてしまうわ…
慌ててその場を去った私は知らない
今日の出来事が
ジレードの今後にどれだけ影響を与えたのか、
「…黄色を…、金色と言わせる…力、…」
私が鳥籠に囚われる未来の
第一歩になってしまったのだ、という事も
…………………………………………
お読み頂きありがとうございました!!
蛇足にはなりますが…
フェリシアは7歳ですが、あえて感情を抑えるように
大人のように話すよう書いていました。
ちょっと大人びて書きすぎかなとは思うのですが
それだけ厳しくされてきた、という事です。
違和感あるのでは…と気になってしまったので
書いているイメージの説明でした。
だらだらと失礼しました!
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