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11.恋一夜
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アンジェラを失った哀しみは、増すばかりだった。
必要なこと以外、話をする者は、なかった。
アンジェラの埋葬が済み次第、エイムズビルを離れた、リックの判断は正しかった。
もし、あのままエイムズビルに留まり続けたなら、哀しみに溺れて、もうウッドフィールドへ向かうことが、できなくなってしまったかもしれない。
今日、たとえわずかな距離でも、ウッドフィールドへ向かって進んだのは、アンジェラの死を無駄にはしないのだと、もうこれ以上、誰ひとり欠けることなく、目的の地へ辿り着くのだという、リックの執念だった。
リックたちが進む山道沿いの、湖のある小さな街、レイクビューのタヴァンに部屋を取った時には、もう外は暗かった。
レイクビューには、ビヴァリー湖という、周囲を林で囲まれた、水の澄んだ美しい湖があった。
みんな、心も体も、疲れ果てていた。
タヴァンに着くと、フィリップは、食事を取ろうともせず、部屋に入ったきりだった。
レティシアは、時折指で涙をぬぐいながら、アンヌの身の回りの世話をしていた。
リックは、レティシアを抱きしめてやりたかった。
抱きしめて、思い切り泣かせてやりたいと思った。
けれども、レティシアが今、それを受け入れるとは思えなかった。
昨日、川に落ちたレティシアを助け出して、無事を確認した時、リックは、思わずレティシアを抱きしめた。
涙を含んだ瞳が、リックを見つめて、大丈夫、と囁いた時、安堵が押し寄せて、抱きしめずにはいられなかった。
もしも、あのままレティシアも流されていたら・・・。
そう考えると、背筋が寒くなった。
けれども、それ以降、やはりレティシアは、リックとは眼を合わせなかった。
アンジェラの埋葬の時も、レイクビューに着いてからも、リックの傍を通る時は、必ず眼を伏せた。
タヴァンの一階の食堂で、ハリーとリックが遅い夕食を済ませた時、食堂からアンヌの食事を持って、階上へ上がるレティシアを見つけた。
貴族の娘が、食堂で堂々と食事を取るわけにもいかず、この旅の間中、アンヌの食事は、食堂の料理か、自炊場でレティシアが料理したものを、部屋に持って上がっていた。
リックは、階上に上がるレティシアの姿を認めると、立ち上がって、後を追った。
もう限界だ。
無言でいきなり立ち上がったリックに、ハリーは驚いたが、その視線の先にレティシアの姿を認めると、納得した。
若いな、二人とも。
ハリーは、羨ましいような、懐かしいような気分になった。
「レティシア」
ちょうど、レティシアが二階に上ったところで、リックは呼び止めた。
振り返ったレティシアの表情は、強張り、うつむいた。
リックは、そんな顔をされるのが、たまらなかった。
「話がある」
「お話でしたら、今ここでうかがいます」
レティシアは、小さく囁くような声で言った。
「そんな話じゃない」
レティシアは、黙った。
「大事な話だ」
「私は、そのお話を、うかがう必要がないと思います。ごめんなさい、アンヌ様の、お食事の支度がありますの」
そう言って、レティシアは背を向けようとしたが、その前にリックが立ちふさがった。
「何故、俺を避ける?」
「避けてなんて・・・」
「避けてないって?そうは見えないな」
リックは、じっとレティシアを見下ろしていたが、レティシアが顔を上げることはなかった。
「後で話だ。いいな」
リックは、きつい声でそう告げると、下に降りて行った。
リックが去った後、レティシアはその場から、動けなくなった。
話・・・、一体どんな話があるというの?
リックが、気持ちを寄せてくれていることは、痛いほどよく分かっていた。
それ故、レティシアの態度が気に入らないのも、よく分かっていた。
悪いのは、私。
中途半端な、私。
リックの想いを、受け入れることは出来ないと分かっていながら、抱き締め合って、唇を重ねた。
それなのに、不愉快な態度を取り続けるレティシアに、リックが苛立つのは、当然だと思った。
リックは、話があると言った。
理由もなく、リックが諦めるとは、思えなかった。
リックの想いを、受け入れられない理由など、何があっても話せるはずがなかった。
見知らぬ男たちの、慰みものになった身体だと?
貴族の男や、時には女にまで、弄ばれ、辱められた、汚れた身体だと?
その欲望を利用し、幾人も、毒入りの酒で、手にかけてきたと?
身体を貪られ、心をずたずたに引き裂かれ、腕に醜い烙印を受けてなお、素知らぬ顔をして、生きているのだと?
ああ、そんなこと!
話せるわけがない!
レティシアは、首を振った。
何も話せないまま、押し切られるようなことになれば・・・。
ミラージュが、ああ・・・、ミラージュが、私だけではなく、リックにまで、牙をむく!
レティシアは、膝が震えて、壁に寄りかからずには、立っていられなくなった。
まだ、間に合うわ、レティシア。
今ならまだ、間に合う。
逃げ出すのよ、今すぐ。
ここから、今すぐに。
アンジェラ様の思い出から、リックから、ミラージュから、何もかも全てから!
レティシアは、アンヌの部屋には向かわなかった。
自分の部屋に戻ると、アンヌの食事を、テーブルの上に置き、震える手で、鞄に自分の荷物を詰め始めた。
必要なこと以外、話をする者は、なかった。
アンジェラの埋葬が済み次第、エイムズビルを離れた、リックの判断は正しかった。
もし、あのままエイムズビルに留まり続けたなら、哀しみに溺れて、もうウッドフィールドへ向かうことが、できなくなってしまったかもしれない。
今日、たとえわずかな距離でも、ウッドフィールドへ向かって進んだのは、アンジェラの死を無駄にはしないのだと、もうこれ以上、誰ひとり欠けることなく、目的の地へ辿り着くのだという、リックの執念だった。
リックたちが進む山道沿いの、湖のある小さな街、レイクビューのタヴァンに部屋を取った時には、もう外は暗かった。
レイクビューには、ビヴァリー湖という、周囲を林で囲まれた、水の澄んだ美しい湖があった。
みんな、心も体も、疲れ果てていた。
タヴァンに着くと、フィリップは、食事を取ろうともせず、部屋に入ったきりだった。
レティシアは、時折指で涙をぬぐいながら、アンヌの身の回りの世話をしていた。
リックは、レティシアを抱きしめてやりたかった。
抱きしめて、思い切り泣かせてやりたいと思った。
けれども、レティシアが今、それを受け入れるとは思えなかった。
昨日、川に落ちたレティシアを助け出して、無事を確認した時、リックは、思わずレティシアを抱きしめた。
涙を含んだ瞳が、リックを見つめて、大丈夫、と囁いた時、安堵が押し寄せて、抱きしめずにはいられなかった。
もしも、あのままレティシアも流されていたら・・・。
そう考えると、背筋が寒くなった。
けれども、それ以降、やはりレティシアは、リックとは眼を合わせなかった。
アンジェラの埋葬の時も、レイクビューに着いてからも、リックの傍を通る時は、必ず眼を伏せた。
タヴァンの一階の食堂で、ハリーとリックが遅い夕食を済ませた時、食堂からアンヌの食事を持って、階上へ上がるレティシアを見つけた。
貴族の娘が、食堂で堂々と食事を取るわけにもいかず、この旅の間中、アンヌの食事は、食堂の料理か、自炊場でレティシアが料理したものを、部屋に持って上がっていた。
リックは、階上に上がるレティシアの姿を認めると、立ち上がって、後を追った。
もう限界だ。
無言でいきなり立ち上がったリックに、ハリーは驚いたが、その視線の先にレティシアの姿を認めると、納得した。
若いな、二人とも。
ハリーは、羨ましいような、懐かしいような気分になった。
「レティシア」
ちょうど、レティシアが二階に上ったところで、リックは呼び止めた。
振り返ったレティシアの表情は、強張り、うつむいた。
リックは、そんな顔をされるのが、たまらなかった。
「話がある」
「お話でしたら、今ここでうかがいます」
レティシアは、小さく囁くような声で言った。
「そんな話じゃない」
レティシアは、黙った。
「大事な話だ」
「私は、そのお話を、うかがう必要がないと思います。ごめんなさい、アンヌ様の、お食事の支度がありますの」
そう言って、レティシアは背を向けようとしたが、その前にリックが立ちふさがった。
「何故、俺を避ける?」
「避けてなんて・・・」
「避けてないって?そうは見えないな」
リックは、じっとレティシアを見下ろしていたが、レティシアが顔を上げることはなかった。
「後で話だ。いいな」
リックは、きつい声でそう告げると、下に降りて行った。
リックが去った後、レティシアはその場から、動けなくなった。
話・・・、一体どんな話があるというの?
リックが、気持ちを寄せてくれていることは、痛いほどよく分かっていた。
それ故、レティシアの態度が気に入らないのも、よく分かっていた。
悪いのは、私。
中途半端な、私。
リックの想いを、受け入れることは出来ないと分かっていながら、抱き締め合って、唇を重ねた。
それなのに、不愉快な態度を取り続けるレティシアに、リックが苛立つのは、当然だと思った。
リックは、話があると言った。
理由もなく、リックが諦めるとは、思えなかった。
リックの想いを、受け入れられない理由など、何があっても話せるはずがなかった。
見知らぬ男たちの、慰みものになった身体だと?
貴族の男や、時には女にまで、弄ばれ、辱められた、汚れた身体だと?
その欲望を利用し、幾人も、毒入りの酒で、手にかけてきたと?
身体を貪られ、心をずたずたに引き裂かれ、腕に醜い烙印を受けてなお、素知らぬ顔をして、生きているのだと?
ああ、そんなこと!
話せるわけがない!
レティシアは、首を振った。
何も話せないまま、押し切られるようなことになれば・・・。
ミラージュが、ああ・・・、ミラージュが、私だけではなく、リックにまで、牙をむく!
レティシアは、膝が震えて、壁に寄りかからずには、立っていられなくなった。
まだ、間に合うわ、レティシア。
今ならまだ、間に合う。
逃げ出すのよ、今すぐ。
ここから、今すぐに。
アンジェラ様の思い出から、リックから、ミラージュから、何もかも全てから!
レティシアは、アンヌの部屋には向かわなかった。
自分の部屋に戻ると、アンヌの食事を、テーブルの上に置き、震える手で、鞄に自分の荷物を詰め始めた。
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