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22.アンヌの手紙
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セヴェロリンスクに到着してからは、お父様から、再三、催促が来ました。
レティシアを引き渡すように、と。
ここでも、わたくしはまだ、葛藤しておりました。
一度お姉様にお会いしてからと、理由にもならない理由を作って、その日を先延ばしにしていたのです。
けれども、お姉様の不用意な一言のために、レティシアは、全てを知ることになってしまいました。
レティシアは、お父様のもとへ向かいました。
レティシアを、お父様のもとへ向かわせたものの、わたくしの心は、揺れました。
行けば、レティシアの身に何が起こるのかは、明らかだったのですから。
そして、わたくしは、自分が引き起こした事態の行く末を、見届ける覚悟を、決めたのです。
わたくしは、お姉様に、お父様の居所である、ミラージュの隠れ家を教えました。
そして、万一わたくしに何かあれば、リヴィングストン伯爵に、手紙を書いて欲しいと。
リヴィングストン伯爵に、全てを告白して欲しいと、告げました。
わたくしが、レティシアを追って、お父様のいる古城に着いた時、レティシアは、既にお父様のもとから、逃げ出した後で、兵士たちが必死に、古城内を捜索していました。
先にレティシアを見つけたのは、わたくしでした。
レティシアは、自らの胸を刺していました。
赤ちゃんは・・・、レティシアは妊娠していましたが、その時点で、もう助からないことが、分かりました。
わたくしは、侍女のエマと一緒に、ひそかに、レティシアを馬車に運び、このままレティシアを、ミラージュの別の隠れ家へと連れて行き、手当てをすること、そして、何としても命を助けるように、指示しました。
わたくしは、お父様のもとへ向かい、お父様と、対決しました。
わたくしももう、お父様の操り人形のように生きることは、できませんでした。
思えば、あのアルカンスィエルからウッドフィールドへ向かう旅が、お父様の支配と抑圧から、わたくしを解放させたのです。
広い未知の世界に触れて、わたくしの人生の歯車が、回り始めたのです。
レティシアは、自らの命を断つことで、お父様の支配から逃れようとしました。
わたくしは、お父様との対決を選びました。
わたくしたちの違いは、そこでした。
けれども、わたくしもお父様から、逃れることはできなかったのです。
結局、最後は、お母様に守られることになったのですから。
わたくしは、その後、レティシアを運んだ、ミラージュの屋敷へ向かいました。
レティシアは、そこで手当てを受けて、わたくしが、すぐにあるところへやりました。
本当は、しばらく安静にさせておいた方がよかったのでしょうが、一刻も早くセヴェロリンスクから離れ、ミラージュから遠ざけた方がいいと、判断したからです。
胸の刺し傷は、少し深かったようですが、手当てが早かったのと、ミラージュには腕のいい医者がいますので、致命傷にはなりませんでした。
けれども、ずいぶんと深い心労があったのでしょう。
ずっと眠り続けたままで、さるところに着いて、ある者に託しても、まだ眠り続けていたと、向こうまでレティシアに付き添ったエマが、戻って来た後、わたくしに伝えました。
心配はいりません。
レティシアの居場所は、確実にミラージュの手が及ばない、安全な場所です。
それに、結局のところ、レティシアにああまで執着していたのは、お父様おひとりだったのです。
お父様が亡くなり、ミラージュに、レティシアを呼び戻したいと思っている者は、ひとりとしておりませんでした。
セヴェロリンスクで、お父様とお母様が逝かれたあの日からすぐ、わたくしはミラージュを清算する決心をしました。
それはつまり、わたくしが、過去と決別することでした。
そして、それもようやく片づき、明日、わたくしは旅立ちます。
ミラージュと言う組織は、もう壊滅したといっても、よろしいかと思います。
それぞれが、それぞれの形で、ミラージュを離れて行きました。
もちろんその残党はいると思いますが、お父様を主軸とする、忌まわしい人脈もありませんし、かつてのような資金もありません。
それに、彼らは、お父様やわたくしほど、大胆ではありませんし、思い切ったことができるとは思いません。
そもそも、ミラージュのような組織は、どこにでも存在しうる闇の組織です。
だだ、政治が腐敗すればするほど、その存在は拡大し、世の中に巣食います。
第二、第三のミラージュが暗躍することのないよう、どうか御尽力下さい。
ミラージュの莫大な資金は、わたくしの判断で、分散いたしました。
わたくしの手元に残ったのは・・・、それでもわたくしが、見知らぬ土地で新たに生きていくには、十分すぎるほどの額です。
最後になりますが、わたくしは、レティシアの居所を、あえて誰にも知らせていませんでした。
それは、このわたくしに対して、無礼な態度を取り続けた、あの御者への罰です。
レティシアが、ゆっくりと傷を癒して連絡がいくまで、あの者に、心からの反省を促すためでした。
けれども、レティシアをさる場所へ送り届けてから、既に三カ月以上が経ちました。
傷の癒えたレティシアから、リックのもとへ連絡がいき、今頃レティシアは、ブリストンで、幸せに暮らしていることでしょう。
リックのことを、深く愛するレティシアです。
そして、心に癒えない傷を持つレティシアを、心から愛し、助け、将来を築いていけるのは、大変腹立たしいことですが、リックしかいないでしょう。
本当に長い手紙になりましたが、フィリップ様に真実をお伝えすることができて、大きな役目をひとつ終えたように思います。
そして、かつてあなたさまの命を狙った者としては、矛盾するのですが、今、フィリップ様がユースティティアの王位に就かれて、本当に良かったと思っております。
あの旅を通じて、あなたさまの誠実さ、賢さ、勇敢さを、知ることができました。
どうか、末永く民に愛される、ユースティティアの国王になられますよう、異国の地より、心からお祈り申し上げております。
アンヌ
レティシアを引き渡すように、と。
ここでも、わたくしはまだ、葛藤しておりました。
一度お姉様にお会いしてからと、理由にもならない理由を作って、その日を先延ばしにしていたのです。
けれども、お姉様の不用意な一言のために、レティシアは、全てを知ることになってしまいました。
レティシアは、お父様のもとへ向かいました。
レティシアを、お父様のもとへ向かわせたものの、わたくしの心は、揺れました。
行けば、レティシアの身に何が起こるのかは、明らかだったのですから。
そして、わたくしは、自分が引き起こした事態の行く末を、見届ける覚悟を、決めたのです。
わたくしは、お姉様に、お父様の居所である、ミラージュの隠れ家を教えました。
そして、万一わたくしに何かあれば、リヴィングストン伯爵に、手紙を書いて欲しいと。
リヴィングストン伯爵に、全てを告白して欲しいと、告げました。
わたくしが、レティシアを追って、お父様のいる古城に着いた時、レティシアは、既にお父様のもとから、逃げ出した後で、兵士たちが必死に、古城内を捜索していました。
先にレティシアを見つけたのは、わたくしでした。
レティシアは、自らの胸を刺していました。
赤ちゃんは・・・、レティシアは妊娠していましたが、その時点で、もう助からないことが、分かりました。
わたくしは、侍女のエマと一緒に、ひそかに、レティシアを馬車に運び、このままレティシアを、ミラージュの別の隠れ家へと連れて行き、手当てをすること、そして、何としても命を助けるように、指示しました。
わたくしは、お父様のもとへ向かい、お父様と、対決しました。
わたくしももう、お父様の操り人形のように生きることは、できませんでした。
思えば、あのアルカンスィエルからウッドフィールドへ向かう旅が、お父様の支配と抑圧から、わたくしを解放させたのです。
広い未知の世界に触れて、わたくしの人生の歯車が、回り始めたのです。
レティシアは、自らの命を断つことで、お父様の支配から逃れようとしました。
わたくしは、お父様との対決を選びました。
わたくしたちの違いは、そこでした。
けれども、わたくしもお父様から、逃れることはできなかったのです。
結局、最後は、お母様に守られることになったのですから。
わたくしは、その後、レティシアを運んだ、ミラージュの屋敷へ向かいました。
レティシアは、そこで手当てを受けて、わたくしが、すぐにあるところへやりました。
本当は、しばらく安静にさせておいた方がよかったのでしょうが、一刻も早くセヴェロリンスクから離れ、ミラージュから遠ざけた方がいいと、判断したからです。
胸の刺し傷は、少し深かったようですが、手当てが早かったのと、ミラージュには腕のいい医者がいますので、致命傷にはなりませんでした。
けれども、ずいぶんと深い心労があったのでしょう。
ずっと眠り続けたままで、さるところに着いて、ある者に託しても、まだ眠り続けていたと、向こうまでレティシアに付き添ったエマが、戻って来た後、わたくしに伝えました。
心配はいりません。
レティシアの居場所は、確実にミラージュの手が及ばない、安全な場所です。
それに、結局のところ、レティシアにああまで執着していたのは、お父様おひとりだったのです。
お父様が亡くなり、ミラージュに、レティシアを呼び戻したいと思っている者は、ひとりとしておりませんでした。
セヴェロリンスクで、お父様とお母様が逝かれたあの日からすぐ、わたくしはミラージュを清算する決心をしました。
それはつまり、わたくしが、過去と決別することでした。
そして、それもようやく片づき、明日、わたくしは旅立ちます。
ミラージュと言う組織は、もう壊滅したといっても、よろしいかと思います。
それぞれが、それぞれの形で、ミラージュを離れて行きました。
もちろんその残党はいると思いますが、お父様を主軸とする、忌まわしい人脈もありませんし、かつてのような資金もありません。
それに、彼らは、お父様やわたくしほど、大胆ではありませんし、思い切ったことができるとは思いません。
そもそも、ミラージュのような組織は、どこにでも存在しうる闇の組織です。
だだ、政治が腐敗すればするほど、その存在は拡大し、世の中に巣食います。
第二、第三のミラージュが暗躍することのないよう、どうか御尽力下さい。
ミラージュの莫大な資金は、わたくしの判断で、分散いたしました。
わたくしの手元に残ったのは・・・、それでもわたくしが、見知らぬ土地で新たに生きていくには、十分すぎるほどの額です。
最後になりますが、わたくしは、レティシアの居所を、あえて誰にも知らせていませんでした。
それは、このわたくしに対して、無礼な態度を取り続けた、あの御者への罰です。
レティシアが、ゆっくりと傷を癒して連絡がいくまで、あの者に、心からの反省を促すためでした。
けれども、レティシアをさる場所へ送り届けてから、既に三カ月以上が経ちました。
傷の癒えたレティシアから、リックのもとへ連絡がいき、今頃レティシアは、ブリストンで、幸せに暮らしていることでしょう。
リックのことを、深く愛するレティシアです。
そして、心に癒えない傷を持つレティシアを、心から愛し、助け、将来を築いていけるのは、大変腹立たしいことですが、リックしかいないでしょう。
本当に長い手紙になりましたが、フィリップ様に真実をお伝えすることができて、大きな役目をひとつ終えたように思います。
そして、かつてあなたさまの命を狙った者としては、矛盾するのですが、今、フィリップ様がユースティティアの王位に就かれて、本当に良かったと思っております。
あの旅を通じて、あなたさまの誠実さ、賢さ、勇敢さを、知ることができました。
どうか、末永く民に愛される、ユースティティアの国王になられますよう、異国の地より、心からお祈り申し上げております。
アンヌ
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