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ヘビの魔物
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スーッ、と両刃のナイフがブラックサーペントの腹を裂いていく。途端に、血腥さが解体場に広がる。
この臭いに慣れなければ冒険者は務まらない。
私は薬師家系ということもあって、子供の頃から悪臭には慣れている。ただ、初めて解体を見た時は恐怖と気持ち悪さで泣いたし、夜は眠れなかった。時間がかかったけど、慣れはした。小型種なら解体もできるようになった。
偏に薬師は自分で素材を採取できてこそ一人前。という祖父の持論の下、解体を叩き込まれたからだ。
とはいえ、私が解体できるのは小型種まで。
ブラックサーペントは無理。
なので、自分の手に負えない魔物は冒険者ギルドの解体職人に頼る。今も丸太みたいな腕をした職人が、切れ味抜群のナイフでブラックサーペントを器用に解体している。
作業台に流れる血は、ナイフの刃で足元の盥に誘導する。
魔石を取り出し、心臓は切除して壺の中へ。
残りの不要な内臓は別の盥へと落とす。
ブラックサーペントの腹が空っぽになると、柄杓で汲んだ水で血を洗い流す。ここまでが第一工程だ。次いで、骨を削ぎ、皮を剥ぐ工程に進むのだけど、私に必要なものは心臓だけだ。
若い見習い2人が焼却処理場へと盥を運んで行くのを見送ると、ふぅ、と詰めていた息が零れた。
「嬢ちゃん。本当にこんなもんがいるのか?」
不可解だと、ギルドの解体職人グラハム・ギアが厳つい顔を顰め、心臓入りの壺を軽く叩いた。
魔物や獣の種類によっては、心臓や肝臓は薬材となるけど、基本的に内臓は破棄される。
ブラックサーペントのようなヘビの魔物は、血肉にも微量の毒が含まれるので食用にはむかない。毒袋の毒は解毒薬の材料になるけど、取引先も相場も固定されているので儲けはほぼ出ない。必要なものと理解しつつも、冒険者にとってヘビの魔物は、危険を伴う討伐だというのに皮以外に価値はない。割を食う魔物の代表格なのだ。
そのブラックサーペントというのは、最大7メートルになる黒い大蛇になる。
両目の上にツノ状の突起があることから、地域によっては”悪魔の使い”と忌避される。とはいえ、ブラックサーペントの革は高級素材として人気が高い。
特に富裕層向けの鞄や靴が人気だとか。
目の前の作業台に載るブラックサーペントは小型の個体。
それでも3メートル前後はある。
ちなみに、このブラックサーペントは、巡回中のキース副団長が討伐したもので、頭を一撃で串刺しにしているので小型でも皮の価値は高い。
私としては心臓が欲しいので、新鮮なうちにジャレッド団長に頼んでギルドに持ち込んでもらった。解体費用は素材の買い取り額から引かれる。残りはキース副団長の希望通り、騎士団員の振る舞い酒へと代わる予定だ。
「ヘビの魔物の心臓は全て買い取りたいです。今後、冒険者が持ち込んだら売ってもらえますか?」
「まぁ、ジャレッド様が同行してるから珍妙な使い方はせんだろうが、ヘビの魔物は1種を除いて毒持ちだ。牙はもちろん、血肉や内臓まで毒塗れになる。素手で触ることはダメだ。些細な傷からでも毒が入るからな。こいつは神経毒持ちだ。咬傷による毒の注入よりましだが、それでも血が傷口に入れば意識障害が起きる。体調によっては死ぬことすらある」
脅しというより、心配が勝っている口調だ。
「ウムム…」と唸るのは、最近頓に過保護が加速しているジャレッド団長だ。今も私の肩を抱き寄せ、「危険だぞ?」とか「乾燥したのを取り寄せられないのか?」と囁き続けている。
ちょっと鬱陶しい。
ジャレッド団長の心配性を脇に退けて、改めてギアを見上げる。
「大丈夫です。そこは承知してます」
「何に使うかだけ聞いても?」
「”魔物除けの香”の材料なんです」
「魔物除けの香?」
はて?、とギアは腕を組んで天井へと視線を向ける。
「私の故郷は、人族の国なんですけど、冒険者が興したということで、森と接しつつも壁がないんです。でも、やっぱり危険なので。魔物が忌避する臭いで自衛してるんです。その臭いの材料の1つがソレです」
「ブラックサーペントの心臓か」
「正確には、ヘビの魔物の心臓です。ヘビの魔物の死骸は、他の魔物が忌避するので、それを利用しています」
恐らく、遠い先祖がそれを発見し、魔物除けの香を作り上げたのだろう。
ヘビの魔物を食べるのは、屍蟲と呼ばれる数ミリの極小な蟲だけになる。屍蟲の別名は”森の掃除屋”。森で死んだモノは、有毒無毒関係なく、数週間で土に還してしまう森の管理者だ。
「魔除けの香で一番入手が難しいのが、この心臓なんです。心臓は天日干しにするんですけど、ハエも寄り付かないので楽なんですよ」
「普通はハエが集って蛆が湧くからな。まさかヘビの心臓にそんな使い方があるとはなぁ。で、乾燥させて使うのか」
「乾燥させて、焼いて灰にしたものを、数種類のハーブと混ぜて、バリルの青い実を擂り潰した汁で捏ねれば完成です。匂い袋のような小さな袋に入れて持ち歩いたり、ペースト状にしたものを柵や家の壁に塗り込んで家畜を守ったりします」
まぁ、家畜も嫌がる臭いなので、柵に塗れば魔物も来ないし家畜の脱走防止にもなる。一石二鳥なのだ。
「うへぇ…あのバリルも使うのか。相当臭そうだ…。獣人には無理だな」
バリルはつる性植物で、腐敗臭のする小さな白い花が咲く。実はえんどう豆に似ており、青い実はやはり臭い。種が茶色になると無臭になって、地面に落ちて芽吹きを待つ。
魔除けの香に使うのは、青い実だ。
それを擂り潰し、汁ごと使う。
冬場は青い実が採れないので、あらかじめ収穫しておいたバリルの実を壺に入れておく。すると発酵し、強烈な臭いが魔除けの香の威力を一段階上げる。
このバリルを使う工程はかなり臭いのに、不思議なことに、心臓の灰を混ぜると臭いが和らぐ。心臓以外の内臓では、なぜか上手くいかないのだと祖母が言っていた。
とはいえ、獣人の鼻には強烈に臭うし、初めてハノンを訪れた人も「なんか臭うな…」と眉根を寄せる。
要はハノンの住人の鼻はニオイに慣れすぎているのだ。
他所の家にお邪魔した時に、不慣れなニオイがするくらいのレベルだと思う。
「ハノンの冒険者曰く、ヘビの魔物には効果はないそうですが、だいたいの魔物には効果があるそうです。特に嗅覚の強い魔物ほど逃げていくみたいで、わざわざ魔物除けの香を買いに立ち寄る商人もいるくらいです」
ハノンの外れにあるヴァーダト家に立ち寄り、そのまま出立するのでハノン中心部は素通りだ。
その商人たちも困っているだろう。
「そういうわけなので、今後も心臓が入れば定期的に卸してくれませんか?」
「まぁ、それは構わんよ。優先しよう。…と、優先も何も、ヘビの魔物の心臓を欲しがる奴はおらんか」
ギアは苦笑すると、「タダで構わない」と壺にコルクの蓋を押し込む。
「いいんですか?」
「もともと焼却処分するんだ。もし、今後、サーペント種の内臓に価値が出るようなことがあれば、さすがにタダでやるわけにはいかなくなるが、今は無価値だからな。持って行って構わない。ただし、壺は次回持ってきてくれ」
ほれ、と差し出された壺は、「俺が持とう」とジャレッド団長が持ってくれた。
「ありがとうございます」
「ああ」
なぜか嬉しそうに目元を緩めるジャレッド団長に、びくり、とギアが反応した。その顔は、”やっぱり団長のそっくりさんだったのか?”と言いたげだ。
普段が眉根を寄せた不機嫌そうな顔だから、ほんの少しでも柔和な表情になると違和感が凄い。
さすがに第2騎士団内では見慣れたものになりつつあるけど、それ以外だと誰もが驚く。グレン団長なんて、露骨に二度見したくらいだ。
驚きに、ぽかんと口を開いたままのギアに、私は「また壺を持ってきます」と頭を下げて解体場を後にする。
「ここの解体場は静かでしたね」
「畑の方に臨時でやっているからな。向こうの方が森も近い」
「そうでした」
魔物が増え、それを狩る冒険者も増えて、冒険者ギルドが急遽、麦畑の一角に臨時の買い取り受付を開いたのだ。解体も、素材買取も、そちらで行えるとあって、今の冒険者ギルドは人が少ない。
冒険者ギルドに顔を出すのは、まだ魔物を狩れない低ランカーや堅実な依頼を見に来た冒険者たちくらいだ。
今も依頼書の貼られたボードの前には、真剣な顔つきで依頼を吟味している冒険者が数人いる。一攫千金だと意気揚々と”魔女の森”に行かないのは、専門とするものが違うのだろう。
フェラー兄弟は珍しい鉱物専門の冒険者のようだけど、護衛専門の冒険者は珍しくない。商隊の護衛依頼を受ければ長期間の束縛となるが、依頼料だけでなく繋がりという利点が大きいので率先して依頼を受ける冒険者は多い。繋がりというのは、商人というのは顔が広いので、意外なところで貴族から指名依頼がくるらしい。貴族には専属の護衛騎士がついているものだけど、遠方に赴く時は、行動範囲の広い冒険者を雇うことが定石とされているのだ。
王族も例外ではなく、例えば、皇族がクロムウェル領に視察に来るとなれば、こちらの地に詳しい冒険者パーティーが選ばれる。皇族の近場を騎士たちが固め、離れた場所を冒険者パーティーが巡回するといった具合だ。
貴族の依頼は破格の高額報酬な上、活躍によっては褒賞が加算されるので”おいしい仕事”に部類される。
他にも、対魔物より、対人…盗賊討伐を得意とする冒険者もいる。
これは騎士をドロップアウトした冒険者に当てはまる。
ボードの前にいる冒険者たちは、パーティーを組んでいるのだろう。あれやこれやと話し合い、一枚の依頼書を剥ぎ取ると受付に歩いて行った。
彼らと入れ違いにボードの前に立つ。
「トードブルーの依頼がなくなってますね」
「トレバーが撤去したと言ってたな。一時期は、依頼書の半分はトードブルーに関するものになっていたらしい」
「ギルド長、我慢が爆発しちゃったんですね…」
「だろうな」と、ジャレッド団長が肩を竦める。
トードブルーの依頼書を一掃した後に残るのは、6割が魔物討伐、3割が農業手伝いと草むしり、あとは他所の領地までの商人護衛だ。
薬草採取依頼はない。
「来週には6割は護衛依頼になるぞ」
にやにやとした笑いを孕んだ声に振り向けば、ボー副ギルド長が歩いて来ている。
ボー副ギルド長は2階ではなく、1階の受付にいることが多いのか、前回もここで話しかけられた気がする。
「来週とは遅い気がするな」
「そりゃあ、仕方ない。今までギルドに依頼に来ていた商人が、ダイナマイトツリー一行にくっついて行っちまったからな」
「この時季は護衛依頼が多いんですか?」
「ああ。雪が降りだす前に仕入れは行っておきたいだろう?こっちからも納品に行かなきゃだしな。てことで、だいたい雪が降りだす前と、雪解け…春先になると、それを狙った盗賊が増えるんで商人も出し惜しみなく護衛に金を払う。儲け時ってやつなんだがなぁ」
と、ボー副ギルド長は何やら含みを持たせてジャレッド団長を見ている。
「想定外のことが起きたんだ。仕方ないだろう」
「まぁな。確かに、ダイナマイトツリーは予測できねぇわ」
と、ボー副ギルド長は豪快に笑う。
ボー副ギルド長も魔樹は初めて見たのだという。帝国内の冒険者の中でも、魔樹を見たことがある人は極僅かで、魔樹が生えているだろう場所まで足を延ばすのはSランカー集団こと探索専門パーティーくらいなんだとか。
探索専門パーティーは、まさに書いて字のごとく。未踏の地の調査を請け負う専門家だ。冒険者としての腕はもちろん、頭も良い。冒険者というよりは、めっぽう腕の立つ学者と言った方がしっくりくる。
大陸全体を見ても、探索専門は3パーティーしかいないとか。
うち1つが帝国に在籍しているのだから凄いことだ。
「んで、今日はどうした?」
「イヴの付き添いだ」と抱えた壺を軽く揺らし、「ちょうどいいな」と頷く。
「フェラー兄弟のことを訊きたい」
「フェラー兄弟?今度は鉱物か?」
「いや。商人ギルドの方で配達の依頼を出す予定でな。フェラー兄弟を薦められた。為人を聞きたいだけだ」
「なるほどな。フェラー兄弟は共にBランクだ。依頼主は主に貴族だな。”うちの領地に山がある。鉱山かどうか調べてほしい”ってな。帝国内のあちこちに足を延ばすんで、ついでに配達業もやるかと商人ギルドに登録してるんだ」
「では、冒険者として依頼がなければ配達は行わないのか?」
「いや。依頼がなくとも、配達に行った先で領主に許可を得て山に入って勝手に調査してる」
勝手に…。
フェラー兄弟は、そのうちに鉱物専門のめっぽう腕の立つ学者になりそうだ。
「今はこっちにはいないぞ。中央の方に行ってる。雪が降るまでは戻ってくるだろうが」
「すぐに、という訳ではない。こちらが依頼を出した場合、請け負ってくれると思うか?」
「依頼は断らないだろ?」
ボー副ギルド長が意味が分からないとばかりに眉根を寄せる。
「配達先が隣のゴールドスタインだからな。断られることを前提で話を聞きたいと思ったんだ」
「ああ、なるほど。お隣さんか」
ジャレッド団長は苦い表情で、ボー副ギルド長は苦笑を浮かべる。
領主が差別主義だから仕方ない。でも、ハノンでは差別的なことを見聞きしたことはない。メリンダだって、覚悟を問われただけで獣人の悪評を吹き込むようなことはしなかった。
それを思うと、獣人差別と言っても貴族全体に蔓延してのことではない。一部は善良な貴族なのだ。
メリンダがギルドの受付にいれば仲介をお願いできたかもしれないけど、今や双子の母となっている。外に働きに出ているとは考えづらい。
「コフィギルド長は差別するような人じゃないので、一度、コフィギルド長に手紙を書いてみます。できれば、ギルドを介したいので」
「ディック・コフィか。1度会ったことがある。なかなか迫力がある御仁だった…」
語尾を濁すように、ボー副ギルド長がむにゃむにゃと口籠る。
言いたいことは分かる。
「コフィギルド長は山賊みたいな見た目ですよね」
「山賊!」と、ジャレッド団長とボー副ギルド長が声を揃えた。
ただ、表情は違う。
ジャレッド団長は瞠目し、ボー副ギルド長は笑いを噛みしめた顔だ。
「向こうのギルドでは、”お頭”って呼ばれてるんです。ギルド長も強面なのを自覚してるから、”お頭”って呼ばれても怒りません。むしろ、それで子供たちが親しみを感じるならって許容してます」
「まぁ、顔はアレだが、確かに子供好きだったな」
ボー副ギルド長は「お頭にはこちらから連絡しておこう」と我慢していた笑い吹き出した。
この臭いに慣れなければ冒険者は務まらない。
私は薬師家系ということもあって、子供の頃から悪臭には慣れている。ただ、初めて解体を見た時は恐怖と気持ち悪さで泣いたし、夜は眠れなかった。時間がかかったけど、慣れはした。小型種なら解体もできるようになった。
偏に薬師は自分で素材を採取できてこそ一人前。という祖父の持論の下、解体を叩き込まれたからだ。
とはいえ、私が解体できるのは小型種まで。
ブラックサーペントは無理。
なので、自分の手に負えない魔物は冒険者ギルドの解体職人に頼る。今も丸太みたいな腕をした職人が、切れ味抜群のナイフでブラックサーペントを器用に解体している。
作業台に流れる血は、ナイフの刃で足元の盥に誘導する。
魔石を取り出し、心臓は切除して壺の中へ。
残りの不要な内臓は別の盥へと落とす。
ブラックサーペントの腹が空っぽになると、柄杓で汲んだ水で血を洗い流す。ここまでが第一工程だ。次いで、骨を削ぎ、皮を剥ぐ工程に進むのだけど、私に必要なものは心臓だけだ。
若い見習い2人が焼却処理場へと盥を運んで行くのを見送ると、ふぅ、と詰めていた息が零れた。
「嬢ちゃん。本当にこんなもんがいるのか?」
不可解だと、ギルドの解体職人グラハム・ギアが厳つい顔を顰め、心臓入りの壺を軽く叩いた。
魔物や獣の種類によっては、心臓や肝臓は薬材となるけど、基本的に内臓は破棄される。
ブラックサーペントのようなヘビの魔物は、血肉にも微量の毒が含まれるので食用にはむかない。毒袋の毒は解毒薬の材料になるけど、取引先も相場も固定されているので儲けはほぼ出ない。必要なものと理解しつつも、冒険者にとってヘビの魔物は、危険を伴う討伐だというのに皮以外に価値はない。割を食う魔物の代表格なのだ。
そのブラックサーペントというのは、最大7メートルになる黒い大蛇になる。
両目の上にツノ状の突起があることから、地域によっては”悪魔の使い”と忌避される。とはいえ、ブラックサーペントの革は高級素材として人気が高い。
特に富裕層向けの鞄や靴が人気だとか。
目の前の作業台に載るブラックサーペントは小型の個体。
それでも3メートル前後はある。
ちなみに、このブラックサーペントは、巡回中のキース副団長が討伐したもので、頭を一撃で串刺しにしているので小型でも皮の価値は高い。
私としては心臓が欲しいので、新鮮なうちにジャレッド団長に頼んでギルドに持ち込んでもらった。解体費用は素材の買い取り額から引かれる。残りはキース副団長の希望通り、騎士団員の振る舞い酒へと代わる予定だ。
「ヘビの魔物の心臓は全て買い取りたいです。今後、冒険者が持ち込んだら売ってもらえますか?」
「まぁ、ジャレッド様が同行してるから珍妙な使い方はせんだろうが、ヘビの魔物は1種を除いて毒持ちだ。牙はもちろん、血肉や内臓まで毒塗れになる。素手で触ることはダメだ。些細な傷からでも毒が入るからな。こいつは神経毒持ちだ。咬傷による毒の注入よりましだが、それでも血が傷口に入れば意識障害が起きる。体調によっては死ぬことすらある」
脅しというより、心配が勝っている口調だ。
「ウムム…」と唸るのは、最近頓に過保護が加速しているジャレッド団長だ。今も私の肩を抱き寄せ、「危険だぞ?」とか「乾燥したのを取り寄せられないのか?」と囁き続けている。
ちょっと鬱陶しい。
ジャレッド団長の心配性を脇に退けて、改めてギアを見上げる。
「大丈夫です。そこは承知してます」
「何に使うかだけ聞いても?」
「”魔物除けの香”の材料なんです」
「魔物除けの香?」
はて?、とギアは腕を組んで天井へと視線を向ける。
「私の故郷は、人族の国なんですけど、冒険者が興したということで、森と接しつつも壁がないんです。でも、やっぱり危険なので。魔物が忌避する臭いで自衛してるんです。その臭いの材料の1つがソレです」
「ブラックサーペントの心臓か」
「正確には、ヘビの魔物の心臓です。ヘビの魔物の死骸は、他の魔物が忌避するので、それを利用しています」
恐らく、遠い先祖がそれを発見し、魔物除けの香を作り上げたのだろう。
ヘビの魔物を食べるのは、屍蟲と呼ばれる数ミリの極小な蟲だけになる。屍蟲の別名は”森の掃除屋”。森で死んだモノは、有毒無毒関係なく、数週間で土に還してしまう森の管理者だ。
「魔除けの香で一番入手が難しいのが、この心臓なんです。心臓は天日干しにするんですけど、ハエも寄り付かないので楽なんですよ」
「普通はハエが集って蛆が湧くからな。まさかヘビの心臓にそんな使い方があるとはなぁ。で、乾燥させて使うのか」
「乾燥させて、焼いて灰にしたものを、数種類のハーブと混ぜて、バリルの青い実を擂り潰した汁で捏ねれば完成です。匂い袋のような小さな袋に入れて持ち歩いたり、ペースト状にしたものを柵や家の壁に塗り込んで家畜を守ったりします」
まぁ、家畜も嫌がる臭いなので、柵に塗れば魔物も来ないし家畜の脱走防止にもなる。一石二鳥なのだ。
「うへぇ…あのバリルも使うのか。相当臭そうだ…。獣人には無理だな」
バリルはつる性植物で、腐敗臭のする小さな白い花が咲く。実はえんどう豆に似ており、青い実はやはり臭い。種が茶色になると無臭になって、地面に落ちて芽吹きを待つ。
魔除けの香に使うのは、青い実だ。
それを擂り潰し、汁ごと使う。
冬場は青い実が採れないので、あらかじめ収穫しておいたバリルの実を壺に入れておく。すると発酵し、強烈な臭いが魔除けの香の威力を一段階上げる。
このバリルを使う工程はかなり臭いのに、不思議なことに、心臓の灰を混ぜると臭いが和らぐ。心臓以外の内臓では、なぜか上手くいかないのだと祖母が言っていた。
とはいえ、獣人の鼻には強烈に臭うし、初めてハノンを訪れた人も「なんか臭うな…」と眉根を寄せる。
要はハノンの住人の鼻はニオイに慣れすぎているのだ。
他所の家にお邪魔した時に、不慣れなニオイがするくらいのレベルだと思う。
「ハノンの冒険者曰く、ヘビの魔物には効果はないそうですが、だいたいの魔物には効果があるそうです。特に嗅覚の強い魔物ほど逃げていくみたいで、わざわざ魔物除けの香を買いに立ち寄る商人もいるくらいです」
ハノンの外れにあるヴァーダト家に立ち寄り、そのまま出立するのでハノン中心部は素通りだ。
その商人たちも困っているだろう。
「そういうわけなので、今後も心臓が入れば定期的に卸してくれませんか?」
「まぁ、それは構わんよ。優先しよう。…と、優先も何も、ヘビの魔物の心臓を欲しがる奴はおらんか」
ギアは苦笑すると、「タダで構わない」と壺にコルクの蓋を押し込む。
「いいんですか?」
「もともと焼却処分するんだ。もし、今後、サーペント種の内臓に価値が出るようなことがあれば、さすがにタダでやるわけにはいかなくなるが、今は無価値だからな。持って行って構わない。ただし、壺は次回持ってきてくれ」
ほれ、と差し出された壺は、「俺が持とう」とジャレッド団長が持ってくれた。
「ありがとうございます」
「ああ」
なぜか嬉しそうに目元を緩めるジャレッド団長に、びくり、とギアが反応した。その顔は、”やっぱり団長のそっくりさんだったのか?”と言いたげだ。
普段が眉根を寄せた不機嫌そうな顔だから、ほんの少しでも柔和な表情になると違和感が凄い。
さすがに第2騎士団内では見慣れたものになりつつあるけど、それ以外だと誰もが驚く。グレン団長なんて、露骨に二度見したくらいだ。
驚きに、ぽかんと口を開いたままのギアに、私は「また壺を持ってきます」と頭を下げて解体場を後にする。
「ここの解体場は静かでしたね」
「畑の方に臨時でやっているからな。向こうの方が森も近い」
「そうでした」
魔物が増え、それを狩る冒険者も増えて、冒険者ギルドが急遽、麦畑の一角に臨時の買い取り受付を開いたのだ。解体も、素材買取も、そちらで行えるとあって、今の冒険者ギルドは人が少ない。
冒険者ギルドに顔を出すのは、まだ魔物を狩れない低ランカーや堅実な依頼を見に来た冒険者たちくらいだ。
今も依頼書の貼られたボードの前には、真剣な顔つきで依頼を吟味している冒険者が数人いる。一攫千金だと意気揚々と”魔女の森”に行かないのは、専門とするものが違うのだろう。
フェラー兄弟は珍しい鉱物専門の冒険者のようだけど、護衛専門の冒険者は珍しくない。商隊の護衛依頼を受ければ長期間の束縛となるが、依頼料だけでなく繋がりという利点が大きいので率先して依頼を受ける冒険者は多い。繋がりというのは、商人というのは顔が広いので、意外なところで貴族から指名依頼がくるらしい。貴族には専属の護衛騎士がついているものだけど、遠方に赴く時は、行動範囲の広い冒険者を雇うことが定石とされているのだ。
王族も例外ではなく、例えば、皇族がクロムウェル領に視察に来るとなれば、こちらの地に詳しい冒険者パーティーが選ばれる。皇族の近場を騎士たちが固め、離れた場所を冒険者パーティーが巡回するといった具合だ。
貴族の依頼は破格の高額報酬な上、活躍によっては褒賞が加算されるので”おいしい仕事”に部類される。
他にも、対魔物より、対人…盗賊討伐を得意とする冒険者もいる。
これは騎士をドロップアウトした冒険者に当てはまる。
ボードの前にいる冒険者たちは、パーティーを組んでいるのだろう。あれやこれやと話し合い、一枚の依頼書を剥ぎ取ると受付に歩いて行った。
彼らと入れ違いにボードの前に立つ。
「トードブルーの依頼がなくなってますね」
「トレバーが撤去したと言ってたな。一時期は、依頼書の半分はトードブルーに関するものになっていたらしい」
「ギルド長、我慢が爆発しちゃったんですね…」
「だろうな」と、ジャレッド団長が肩を竦める。
トードブルーの依頼書を一掃した後に残るのは、6割が魔物討伐、3割が農業手伝いと草むしり、あとは他所の領地までの商人護衛だ。
薬草採取依頼はない。
「来週には6割は護衛依頼になるぞ」
にやにやとした笑いを孕んだ声に振り向けば、ボー副ギルド長が歩いて来ている。
ボー副ギルド長は2階ではなく、1階の受付にいることが多いのか、前回もここで話しかけられた気がする。
「来週とは遅い気がするな」
「そりゃあ、仕方ない。今までギルドに依頼に来ていた商人が、ダイナマイトツリー一行にくっついて行っちまったからな」
「この時季は護衛依頼が多いんですか?」
「ああ。雪が降りだす前に仕入れは行っておきたいだろう?こっちからも納品に行かなきゃだしな。てことで、だいたい雪が降りだす前と、雪解け…春先になると、それを狙った盗賊が増えるんで商人も出し惜しみなく護衛に金を払う。儲け時ってやつなんだがなぁ」
と、ボー副ギルド長は何やら含みを持たせてジャレッド団長を見ている。
「想定外のことが起きたんだ。仕方ないだろう」
「まぁな。確かに、ダイナマイトツリーは予測できねぇわ」
と、ボー副ギルド長は豪快に笑う。
ボー副ギルド長も魔樹は初めて見たのだという。帝国内の冒険者の中でも、魔樹を見たことがある人は極僅かで、魔樹が生えているだろう場所まで足を延ばすのはSランカー集団こと探索専門パーティーくらいなんだとか。
探索専門パーティーは、まさに書いて字のごとく。未踏の地の調査を請け負う専門家だ。冒険者としての腕はもちろん、頭も良い。冒険者というよりは、めっぽう腕の立つ学者と言った方がしっくりくる。
大陸全体を見ても、探索専門は3パーティーしかいないとか。
うち1つが帝国に在籍しているのだから凄いことだ。
「んで、今日はどうした?」
「イヴの付き添いだ」と抱えた壺を軽く揺らし、「ちょうどいいな」と頷く。
「フェラー兄弟のことを訊きたい」
「フェラー兄弟?今度は鉱物か?」
「いや。商人ギルドの方で配達の依頼を出す予定でな。フェラー兄弟を薦められた。為人を聞きたいだけだ」
「なるほどな。フェラー兄弟は共にBランクだ。依頼主は主に貴族だな。”うちの領地に山がある。鉱山かどうか調べてほしい”ってな。帝国内のあちこちに足を延ばすんで、ついでに配達業もやるかと商人ギルドに登録してるんだ」
「では、冒険者として依頼がなければ配達は行わないのか?」
「いや。依頼がなくとも、配達に行った先で領主に許可を得て山に入って勝手に調査してる」
勝手に…。
フェラー兄弟は、そのうちに鉱物専門のめっぽう腕の立つ学者になりそうだ。
「今はこっちにはいないぞ。中央の方に行ってる。雪が降るまでは戻ってくるだろうが」
「すぐに、という訳ではない。こちらが依頼を出した場合、請け負ってくれると思うか?」
「依頼は断らないだろ?」
ボー副ギルド長が意味が分からないとばかりに眉根を寄せる。
「配達先が隣のゴールドスタインだからな。断られることを前提で話を聞きたいと思ったんだ」
「ああ、なるほど。お隣さんか」
ジャレッド団長は苦い表情で、ボー副ギルド長は苦笑を浮かべる。
領主が差別主義だから仕方ない。でも、ハノンでは差別的なことを見聞きしたことはない。メリンダだって、覚悟を問われただけで獣人の悪評を吹き込むようなことはしなかった。
それを思うと、獣人差別と言っても貴族全体に蔓延してのことではない。一部は善良な貴族なのだ。
メリンダがギルドの受付にいれば仲介をお願いできたかもしれないけど、今や双子の母となっている。外に働きに出ているとは考えづらい。
「コフィギルド長は差別するような人じゃないので、一度、コフィギルド長に手紙を書いてみます。できれば、ギルドを介したいので」
「ディック・コフィか。1度会ったことがある。なかなか迫力がある御仁だった…」
語尾を濁すように、ボー副ギルド長がむにゃむにゃと口籠る。
言いたいことは分かる。
「コフィギルド長は山賊みたいな見た目ですよね」
「山賊!」と、ジャレッド団長とボー副ギルド長が声を揃えた。
ただ、表情は違う。
ジャレッド団長は瞠目し、ボー副ギルド長は笑いを噛みしめた顔だ。
「向こうのギルドでは、”お頭”って呼ばれてるんです。ギルド長も強面なのを自覚してるから、”お頭”って呼ばれても怒りません。むしろ、それで子供たちが親しみを感じるならって許容してます」
「まぁ、顔はアレだが、確かに子供好きだったな」
ボー副ギルド長は「お頭にはこちらから連絡しておこう」と我慢していた笑い吹き出した。
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これは、不遇な少女が本当の愛を見つけ、最高に幸せになるまでの逆転溺愛ストーリー。
※気を抜くと読点だらけになることがあるので、読みづらさを感じたら教えてくれるとうれしいです。
祝:女性HOT69位!(2025年8月25日4時05分)
→27位へ!(8/25 19:21)→11位へ!(8/26 22:38)→6位へ!(8月27日 20:01)→3位へ!(8月28日 2:35)
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