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冬支度①
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大きな鏡の前で、両手を広げて立つ。
生成りのケープは、襟周りにふわふわのボリュームある毛皮があしらわれている。
素材はジャッカロープで、丈は膝上。
3つあるボタンは金色で、繊細な狼紋の彫金が目を引く。
ボタンは見なかったことにしよう…。
ケープの肩下あたりにはスリットが入っているので、窮屈さはないし、いちいち裾を上げるという手間もない。防寒という面では心許ないけど、このケープは室内着らしいので問題なし。
外に行く時はナータスで作られた外套だ。
表地は鞣した防水革で、裏地はナータスのシルクのような被毛が保温性を高めている。
枯れ葉色の外套は膝下丈で、こちらも襟とフード周り、袖口にふわふわの毛皮があしらわれ、金色のボタンは狼紋付きとなる。
同じナータス素材でも、ジャレッド団長の外套にはふわふわの毛皮はない。代わりにスタンドネックのフード付きだった。
腕を上げて、軽く肩を回し、屈伸する。
窮屈さはない。
さらに軽く小走り。
ハイドロラットの生地を使ったボトムスと、ミドル丈のレースアップブーツの確認だ。
ボトムスは丈もちょうど良し、走っても生地にゆとりがあり突っ張らない。
それよりも驚いたのはブーツの靴底の厚さだ。
普段履いているぺたんこ靴は、地面の感触が足に伝わるくらいペラペラだ。でも、このブーツは違う。石を踏んでも気づかないくらい厚みがある。
ただし、少し重い。
サイズが少し大きいのは、ブーツの内側が裏起毛になっていることと、厚手の靴下を履くことを想定しているからだ。
ブーツと同じく、外套も少し大きい。
「すごくあったかいですね!」
寒さで爪先が悴むことも、凍傷を心配することもなさそうだ。
「防水加工しているので雪だけでなく、雪解けの泥濘にも強いブーツになります。ただし、長時間水の中にいると浸み込んでくるので注意して下さい」
冬場に水場付近をうろつく予定はないけど、春先は注意が必要かもしれない。
あちこちで雪解けの泥濘や水溜りができるからだ。
「サイズはどうですか?」
「ブーツも外套も、冬になったらさらに着込むのでちょうど良いと思います」
「ええ。人にもよりますが、3枚4枚着込む方がいらっしゃいますので、余裕をもったサイズで仕立てさせて頂きました」
今は薄い肌着と、試着中のセーターを着ているだけ。
セーターの素材はカシミア。
ふんわり柔らかで滑らか。私の知るセーターとは違う手触りに緊張してしまう。
洗濯して縮んだらどうしよう…。
「それでは以上で試着は終了します」
ケイトの手を借り、ブーツから履きなれた麻布のぺたんこ靴に履き替えてから外套を脱ぐ。
セーターとボトムスを脱いで、亜麻のワンピースを頭から被る。腰紐をきゅっと縛ってリボンに結ぶ。上から綿麻のカーディガンを羽織れば終了だ。
私が着替えている間に、服は丁寧にハンガーにかけられ、ブーツは箱に戻されていた。
少し待つように言われ、ソファに座って冷めたお茶を飲む。意外と喉が渇いていたらしい。冷めて僅かに渋みが出てしまった紅茶をゴクゴク飲み干した。
心の中で「ぷはぁ」と息を零した所で、ケイトとジャレッド団長が部屋へと入って来た。
声に出さずに良かった!
「どうだ?手直しは不要だったか?」
「ちょうど良かったです」
さすがに洗濯の心配をしていたとは言えない。
すっと差し出された手に戸惑いつつ、ジャレッド団長の手を借り立ち上がる。
恥ずかしいけど、エスコートに少し慣れてきたと思う。
「商品は第2騎士団へ届けさせてもらいます。この度はお待たせしてしまい申し訳ございません」
「いや。白魔茸が出たことで注文が殺到しているのだろう?」
「ええ。お針子が足りないくらいに注文が来ています。もちろん、手に負えない注文数はお断りさせて頂いてますが、立場の弱い仕立て屋などは寝る間を惜しむほど働いているそうです」
立場の弱い仕立て屋とは何かといえば、独立したての新人のことらしい。そういう店は客との繋がりが弱く、また店を構えるにかかった費用を回収しなければならないので、無理を押してでも頑張らなければならないのだとか。
それでも北部はマシな方で、冬でも殆ど雪の積もらない帝都では、頻繁に貴族の社交が行われる。さらに新年祝賀パーティーという一大イベントもあって、帝都の仕立て屋は上手く立ち回らないと針子が過労で倒れてしまうそうだ。
ちなみに、帝国は国土が広く、冬は雪で閉ざされる領地が多いため、社交シーズンは初夏から晩夏にかけて行われる。
積雪で身動きが取れなくなる領地は、帝都にタウンハウスを構え、冬の間は親族が名代として小さなパーティーから皇族の行事とも言える新年祝賀などに顔を出すそうだ。
兎に角、貴族というのはパーティーが多いらしい。誕生日に結婚式。昇進に新領主相続等々。なるべく社交シーズンに合わせるそうだが、誕生日や領主の交代はそうはいかない。なので、帝都では年がら年中、何かしらの社交が行われている。
その社交に着る衣装は、一度袖を通せば二度と着ないことが多く、予算のある貴族家からは新しい注文が、予算の厳しい貴族家からはリメイクの注文が入る。
デザインを考えるのも、刺繍やレースを編むのも悲鳴が上がるほど大変だという。
一方、北部の仕立て屋は、防寒用の厚い生地に苦労する。指サックをしていても、肌は荒れ、関節炎や腱鞘炎になるという。
老舗である【サルト ディア】は、夜会のドレスは受け付けていないので楽とのこと。さらに現オーナーは3代目で、高齢ながらも現役テーラーとして活躍中。
ここのオーナーは代々”死ぬまで現役”を貫くそうなので、たった3代目と侮るなかれ。創業して百年は越えてるそうだ。
元々が平民富裕層をターゲットにしていた仕立て屋なので、仕立ててもデイドレス。基本は、気軽に楽しめる服装をコンセプトにしている。
素材の高級さはさておき…。
ということで、今では公爵家の使用人の制服まで、全て【サルト ディア】が手掛けている。
公爵家御用達という実績のお陰で、貴族の顧客が出来、さらにはクレーマー気質な客の排除に成功しているのだと、ケイトは笑う。
まぁ、公爵家が付いてたら、そこらの貴族だって無謀な注文は出せないし、下手な脅しだってできない。
「当店も今はお針子が足りずに悲鳴をあげてますが、素材の枯渇も近いので、この悲鳴も直に途絶えそうです」
「魔物が多数出没しているのにか?」
「全ての魔物が生地に、さらには防寒に適した素材ではありませんので。仕立て屋にオーダーされる方は、防寒防水の素材を求めます。当店もジャレッド様とゴゼット様のご来店の翌日にはナータスが、5日後にはホーンヘッドリンクスが在庫切れとなりました。ジャッカロープとハイドロラットの在庫は余裕があるのですが、ビクーニャは残り僅か…と。今後は仕立て素材に偏りがでるかと思います」
「そうか。イヴ。他に欲しいものがあれば今のうちに言えばいい」
その言葉に慌てて頭を振る。
「もう十分ほどあります!」
「そうか?」
しょんぼりとするジャレッド団長の後ろで、商機を逃したとばかりに、ケイトも残念そうに眉尻を下げている。
「またのお越しをお待ちしております」と見送るケイトと別れ、次に向かったのはハベリット商会だ。
前回も忙しそうだったけど、今日はそれに輪をかけて従業員が走り回っている。
あのびくびくおどおどとジャレッド団長に視線を送っていた従業員たちが、今や誰一人としていない。というか、ジャレッド団長に気づいていない。
「申し訳ございません。お待たせしました」
ぺこり、と頭を下げたのは、ハベリット商会で新たに立ち上がった薬材部門責任者のスタン・ドーマーだ。
彼は私の2つ上なだけなのに、勉強熱心な性格が買われてとんとん拍子に新設薬材部門の責任者に収まった。最初に私の対応をしていたという経緯もあるのだろう。何より、ドーマーは薬草の匂いに忌避感がない。
そっと隣を見上げれば、鼻の頭に皺を刻んだジャレッド団長が二の足を踏んでいる。
それくらい取り扱う薬草の種類が増えた。
以前は葉の部分だけしかなかったのに、今や茎や根、花もある。それだけじゃない。薬材部門というだけあり、茸や樹皮、魔物の角や乾燥させた臓器と、多様性に富むようになった。
正確には、それらの名を記したプレートだけが、ぽつんと空の棚にある。
茸の棚にはガラス瓶が並んでいるけど、ほぼ空。これまた同じくガラス瓶に収まった魔物の臓器は、そこそこ在庫がある。主に腎臓や肝臓、睾丸なので、ヘビの心臓はない。
よくよく見ると、その他の薬草も在庫が寂しい。
「やっぱり薬材が不足しているんですね」
「はい…。今夏は白魔茸の影響もあって、魔物によって商人たちが立ち往生している箇所も出ていて、通常配達が困難になっています。配達の遅延だけでなく、怪我人が多発しているのも薬不足に拍車をかけ、在庫不足が解消されてません。薬の処方は子供や年寄り優先ですが、あまりにも酷い怪我人の治療にも必要ですので、なかなか難しい状況です」
「欲をかいた冒険者が診療所に担ぎ込まれるケースが多発しているからな。痛みに強く治りが早いといっても限度があるんだ」
と、ジャレッド団長が教えてくれる。
いくら治癒力が高くても、大怪我を負って放置していいわけじゃない。薬だって、一回塗って終わりじゃないので、無謀冒険者の治療で大量の傷薬が必要になる。
怪我を負った冒険者は依頼を熟せないので、護衛依頼が滞ることになり、その打撃を被るのは商人であり、商品入荷を待つ遠方の商店だ。
結果、薬草不足が常態化しているわけだ。
「一応、公爵家から冒険者ギルドに薬草採取依頼を出したそうだが、ボー曰く、薬草も毒草も見分けがつかない奴らばかりなので選別に時間がとられて二度手間どころか損失が出る、とのことだ」
うへぇ…、と声が出そうになる。
「ジャレッド団長。薬草採取って、レアなものや毒草以外は、冒険者に登録したての新人や子供の作業なんです。討伐することに不慣れな冒険者が、フィールドに慣れる準備期間のようなものなので、依頼料もお小遣い程度です。それを生活がかかった大人が熟すのは無理かもしれません。薬草採取を子供から教えて、薬草採取依頼を根付かせるしかないんじゃ…。例えば、孤児院の子供とかは、遊びの中で学ぶので覚えが早いかもしれません」
「そうだな…。いきなりは無理か」
ジャレッド団長は思案顔で頷く。
ドーマーも「今後、子供たちに薬草採取の依頼を出してみましょう」と乗り気な返答だ。
「簡単な薬草から初めて、いずれは採取できる薬草の種類が増えるのが理想ですね。ここもそうです。前みたいな単調じゃないですもん」
「ええ。今はコッツェイ先生と相談しながらになりますが、種類を増やしている最中なのです。なかなか手に入りづらい状況ですが」
「コッツェイ先生って…公爵家のおじいちゃん先生ですか?」
「はい。公爵家のお抱えでもありますが、コッツェイ家といえば、古都カスティーロでも有名な医師家系なんです。今回の件で、公爵領の医師が集まり、医師会を作ったんです。その医師会長にエステウリー・コッツェイ先生が就任されて、薬草の扱い方などを医師会で共有することになっています」
「確か、こっちには薬師はいないんですよね?」
そう商人ギルドで聞いた気がする。
「ええ。帝国全体で見ても数は少ないです。薬師がいる領地は、属国…人族の国に沿った領地ばかりです。一番多いのは帝都ですが、あそこは属国の人族が奴隷という形で定着しているんです」
奴隷か…。
多くの国で奴隷は合法だ。
人権のない犯罪奴隷は、罪の重さに応じて過酷な場所に割り振られる。
首が回らなくなった借金奴隷は、ちゃんと人権が守られているけど自由はない。借金が返済できるまで働き続けることが課せられる。
借金奴隷の中でも、何かしらの技能がある者は高値で購入される投資物件扱いとなる。
帝都で薬師をしている人族も、投資物件として購入され、店を与えられたのだろう。というのがドーマーの見解だ。
獣人は痛みに強く自己治癒力が高いけど、病気は違う。
痛みに強い性質が、逆に悪化を招く事態もあるらしい。特に子供だ。
帝都のような密集地は、あっという間に病気が蔓延するし、人口が多い分、ひとたび病が流行すると死者数が爆発的に増える。その為、聖属性薬師が必要となるが、人族の薬師は国境を越えない。ならばと目を付けたのが借金奴隷だ。
とても数は少ないそうだけど、一応、帝都には聖属性薬師がいることは分かった。
「だったら帝都の方は聖属性の混血がいるんじゃないですか?」
「それが…。奴隷契約が終了した聖属性は全員、故郷に戻っているそうです。獣人と結婚した聖属性は確認できていないとか」
「帝都にいた聖属性薬師は、獣人とは相容れないでしょうね」
誰?と振り向くと、飴色の髪をした男性が階段を上がって来た。
「お初にお目にかかります。この度、薬材部門の営業に着任いたしましたマーカス・スミスです」
ジャレッド団長に丁寧にお辞儀した後、私にも頭を下げた。
年齢は30才前後に見えるけど、人懐っこそうな笑顔を浮かべれば更に若く見える。
「営業…?」
「取り扱う薬草の種類を増やすために、各地の薬草農園へ行き来しています」
「マーカスさんはフットワークも軽いんです。先日、帝都から戻ってきたばかりなんですよ」
「帰路で魔樹のお祭りも堪能しましたよ」
と、スミスはからりと笑う。
やっぱり行く先々でお祭りと化しているのか…。
「それで、帝都の人族の薬師の店に行ったのです。そこで使用する薬草の種類などを知り得たのですが、どの店の聖属性薬師も…なんというか…」
スミスは歯切れ悪く、「一言で言えば根暗でした」と申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「奴隷という立場もあるのでしょうが、対応は必要最低限。表情は暗く、笑い方もぎこちない。後ろ向きな言動が多いせいで、店番曰く、基本的に薬師は裏方で表には出さないと言っていました。残念ながら獣人の好む性格ではありません」
「もしかすると、奴隷という立場のために無理やり故郷から連れ出されたことを不安に思っているのかもしれませんね」
私は自分で考え、納得した上で出国したけど、奴隷なら自分の意思は無視される。
属国とはいえ獣人差別がないとは限らない。もし獣人差別の思想がある奴隷なら、周囲が敵だらけの中に放り込まれたと思ってもおかしくない。
自分で言うのもなんだけど、聖属性とはなかなかに扱いが難しいのだ。
=====魔物の注釈=====
◇ナータス:北部に棲息するイタチのような見た目の魔物。
北米に棲息するクズリ(体長1m前後)をイメージしています。グリズリーよりもクズリを見たら逃げろ!と言われるほど危険なイタチ科です。
でもこちらはファンタジーなので、体長は2m前後をイメージ。
◇ジャッカロープ:通称ツノウサギと呼ばれる魔物。
ファンタジーで有名な魔物の代名詞。
ここでは体長1m前後をイメージして書いてます。あと雑食性。群れると危険度MAXです。
北部にはスノージャッカロープも棲息。こちらは長毛種でふわふわ度MAXです!
◇ハイドロラット:水辺に棲息する体長1m前後のネズミの魔物。
日本で問題になっているヌートリアをイメージしてます。
でもこちらはファンタジーなので、完全肉食性の凶暴な顔面をしています!
◇ホーンヘッドリンクス:雪山に棲息するネコ科の魔物。
ヨーロッパオオヤマネコをイメージしています。
でもここは…以下略…、体長3m前後、頭に角の生えた凶暴さを前面に出したイメージです。
生成りのケープは、襟周りにふわふわのボリュームある毛皮があしらわれている。
素材はジャッカロープで、丈は膝上。
3つあるボタンは金色で、繊細な狼紋の彫金が目を引く。
ボタンは見なかったことにしよう…。
ケープの肩下あたりにはスリットが入っているので、窮屈さはないし、いちいち裾を上げるという手間もない。防寒という面では心許ないけど、このケープは室内着らしいので問題なし。
外に行く時はナータスで作られた外套だ。
表地は鞣した防水革で、裏地はナータスのシルクのような被毛が保温性を高めている。
枯れ葉色の外套は膝下丈で、こちらも襟とフード周り、袖口にふわふわの毛皮があしらわれ、金色のボタンは狼紋付きとなる。
同じナータス素材でも、ジャレッド団長の外套にはふわふわの毛皮はない。代わりにスタンドネックのフード付きだった。
腕を上げて、軽く肩を回し、屈伸する。
窮屈さはない。
さらに軽く小走り。
ハイドロラットの生地を使ったボトムスと、ミドル丈のレースアップブーツの確認だ。
ボトムスは丈もちょうど良し、走っても生地にゆとりがあり突っ張らない。
それよりも驚いたのはブーツの靴底の厚さだ。
普段履いているぺたんこ靴は、地面の感触が足に伝わるくらいペラペラだ。でも、このブーツは違う。石を踏んでも気づかないくらい厚みがある。
ただし、少し重い。
サイズが少し大きいのは、ブーツの内側が裏起毛になっていることと、厚手の靴下を履くことを想定しているからだ。
ブーツと同じく、外套も少し大きい。
「すごくあったかいですね!」
寒さで爪先が悴むことも、凍傷を心配することもなさそうだ。
「防水加工しているので雪だけでなく、雪解けの泥濘にも強いブーツになります。ただし、長時間水の中にいると浸み込んでくるので注意して下さい」
冬場に水場付近をうろつく予定はないけど、春先は注意が必要かもしれない。
あちこちで雪解けの泥濘や水溜りができるからだ。
「サイズはどうですか?」
「ブーツも外套も、冬になったらさらに着込むのでちょうど良いと思います」
「ええ。人にもよりますが、3枚4枚着込む方がいらっしゃいますので、余裕をもったサイズで仕立てさせて頂きました」
今は薄い肌着と、試着中のセーターを着ているだけ。
セーターの素材はカシミア。
ふんわり柔らかで滑らか。私の知るセーターとは違う手触りに緊張してしまう。
洗濯して縮んだらどうしよう…。
「それでは以上で試着は終了します」
ケイトの手を借り、ブーツから履きなれた麻布のぺたんこ靴に履き替えてから外套を脱ぐ。
セーターとボトムスを脱いで、亜麻のワンピースを頭から被る。腰紐をきゅっと縛ってリボンに結ぶ。上から綿麻のカーディガンを羽織れば終了だ。
私が着替えている間に、服は丁寧にハンガーにかけられ、ブーツは箱に戻されていた。
少し待つように言われ、ソファに座って冷めたお茶を飲む。意外と喉が渇いていたらしい。冷めて僅かに渋みが出てしまった紅茶をゴクゴク飲み干した。
心の中で「ぷはぁ」と息を零した所で、ケイトとジャレッド団長が部屋へと入って来た。
声に出さずに良かった!
「どうだ?手直しは不要だったか?」
「ちょうど良かったです」
さすがに洗濯の心配をしていたとは言えない。
すっと差し出された手に戸惑いつつ、ジャレッド団長の手を借り立ち上がる。
恥ずかしいけど、エスコートに少し慣れてきたと思う。
「商品は第2騎士団へ届けさせてもらいます。この度はお待たせしてしまい申し訳ございません」
「いや。白魔茸が出たことで注文が殺到しているのだろう?」
「ええ。お針子が足りないくらいに注文が来ています。もちろん、手に負えない注文数はお断りさせて頂いてますが、立場の弱い仕立て屋などは寝る間を惜しむほど働いているそうです」
立場の弱い仕立て屋とは何かといえば、独立したての新人のことらしい。そういう店は客との繋がりが弱く、また店を構えるにかかった費用を回収しなければならないので、無理を押してでも頑張らなければならないのだとか。
それでも北部はマシな方で、冬でも殆ど雪の積もらない帝都では、頻繁に貴族の社交が行われる。さらに新年祝賀パーティーという一大イベントもあって、帝都の仕立て屋は上手く立ち回らないと針子が過労で倒れてしまうそうだ。
ちなみに、帝国は国土が広く、冬は雪で閉ざされる領地が多いため、社交シーズンは初夏から晩夏にかけて行われる。
積雪で身動きが取れなくなる領地は、帝都にタウンハウスを構え、冬の間は親族が名代として小さなパーティーから皇族の行事とも言える新年祝賀などに顔を出すそうだ。
兎に角、貴族というのはパーティーが多いらしい。誕生日に結婚式。昇進に新領主相続等々。なるべく社交シーズンに合わせるそうだが、誕生日や領主の交代はそうはいかない。なので、帝都では年がら年中、何かしらの社交が行われている。
その社交に着る衣装は、一度袖を通せば二度と着ないことが多く、予算のある貴族家からは新しい注文が、予算の厳しい貴族家からはリメイクの注文が入る。
デザインを考えるのも、刺繍やレースを編むのも悲鳴が上がるほど大変だという。
一方、北部の仕立て屋は、防寒用の厚い生地に苦労する。指サックをしていても、肌は荒れ、関節炎や腱鞘炎になるという。
老舗である【サルト ディア】は、夜会のドレスは受け付けていないので楽とのこと。さらに現オーナーは3代目で、高齢ながらも現役テーラーとして活躍中。
ここのオーナーは代々”死ぬまで現役”を貫くそうなので、たった3代目と侮るなかれ。創業して百年は越えてるそうだ。
元々が平民富裕層をターゲットにしていた仕立て屋なので、仕立ててもデイドレス。基本は、気軽に楽しめる服装をコンセプトにしている。
素材の高級さはさておき…。
ということで、今では公爵家の使用人の制服まで、全て【サルト ディア】が手掛けている。
公爵家御用達という実績のお陰で、貴族の顧客が出来、さらにはクレーマー気質な客の排除に成功しているのだと、ケイトは笑う。
まぁ、公爵家が付いてたら、そこらの貴族だって無謀な注文は出せないし、下手な脅しだってできない。
「当店も今はお針子が足りずに悲鳴をあげてますが、素材の枯渇も近いので、この悲鳴も直に途絶えそうです」
「魔物が多数出没しているのにか?」
「全ての魔物が生地に、さらには防寒に適した素材ではありませんので。仕立て屋にオーダーされる方は、防寒防水の素材を求めます。当店もジャレッド様とゴゼット様のご来店の翌日にはナータスが、5日後にはホーンヘッドリンクスが在庫切れとなりました。ジャッカロープとハイドロラットの在庫は余裕があるのですが、ビクーニャは残り僅か…と。今後は仕立て素材に偏りがでるかと思います」
「そうか。イヴ。他に欲しいものがあれば今のうちに言えばいい」
その言葉に慌てて頭を振る。
「もう十分ほどあります!」
「そうか?」
しょんぼりとするジャレッド団長の後ろで、商機を逃したとばかりに、ケイトも残念そうに眉尻を下げている。
「またのお越しをお待ちしております」と見送るケイトと別れ、次に向かったのはハベリット商会だ。
前回も忙しそうだったけど、今日はそれに輪をかけて従業員が走り回っている。
あのびくびくおどおどとジャレッド団長に視線を送っていた従業員たちが、今や誰一人としていない。というか、ジャレッド団長に気づいていない。
「申し訳ございません。お待たせしました」
ぺこり、と頭を下げたのは、ハベリット商会で新たに立ち上がった薬材部門責任者のスタン・ドーマーだ。
彼は私の2つ上なだけなのに、勉強熱心な性格が買われてとんとん拍子に新設薬材部門の責任者に収まった。最初に私の対応をしていたという経緯もあるのだろう。何より、ドーマーは薬草の匂いに忌避感がない。
そっと隣を見上げれば、鼻の頭に皺を刻んだジャレッド団長が二の足を踏んでいる。
それくらい取り扱う薬草の種類が増えた。
以前は葉の部分だけしかなかったのに、今や茎や根、花もある。それだけじゃない。薬材部門というだけあり、茸や樹皮、魔物の角や乾燥させた臓器と、多様性に富むようになった。
正確には、それらの名を記したプレートだけが、ぽつんと空の棚にある。
茸の棚にはガラス瓶が並んでいるけど、ほぼ空。これまた同じくガラス瓶に収まった魔物の臓器は、そこそこ在庫がある。主に腎臓や肝臓、睾丸なので、ヘビの心臓はない。
よくよく見ると、その他の薬草も在庫が寂しい。
「やっぱり薬材が不足しているんですね」
「はい…。今夏は白魔茸の影響もあって、魔物によって商人たちが立ち往生している箇所も出ていて、通常配達が困難になっています。配達の遅延だけでなく、怪我人が多発しているのも薬不足に拍車をかけ、在庫不足が解消されてません。薬の処方は子供や年寄り優先ですが、あまりにも酷い怪我人の治療にも必要ですので、なかなか難しい状況です」
「欲をかいた冒険者が診療所に担ぎ込まれるケースが多発しているからな。痛みに強く治りが早いといっても限度があるんだ」
と、ジャレッド団長が教えてくれる。
いくら治癒力が高くても、大怪我を負って放置していいわけじゃない。薬だって、一回塗って終わりじゃないので、無謀冒険者の治療で大量の傷薬が必要になる。
怪我を負った冒険者は依頼を熟せないので、護衛依頼が滞ることになり、その打撃を被るのは商人であり、商品入荷を待つ遠方の商店だ。
結果、薬草不足が常態化しているわけだ。
「一応、公爵家から冒険者ギルドに薬草採取依頼を出したそうだが、ボー曰く、薬草も毒草も見分けがつかない奴らばかりなので選別に時間がとられて二度手間どころか損失が出る、とのことだ」
うへぇ…、と声が出そうになる。
「ジャレッド団長。薬草採取って、レアなものや毒草以外は、冒険者に登録したての新人や子供の作業なんです。討伐することに不慣れな冒険者が、フィールドに慣れる準備期間のようなものなので、依頼料もお小遣い程度です。それを生活がかかった大人が熟すのは無理かもしれません。薬草採取を子供から教えて、薬草採取依頼を根付かせるしかないんじゃ…。例えば、孤児院の子供とかは、遊びの中で学ぶので覚えが早いかもしれません」
「そうだな…。いきなりは無理か」
ジャレッド団長は思案顔で頷く。
ドーマーも「今後、子供たちに薬草採取の依頼を出してみましょう」と乗り気な返答だ。
「簡単な薬草から初めて、いずれは採取できる薬草の種類が増えるのが理想ですね。ここもそうです。前みたいな単調じゃないですもん」
「ええ。今はコッツェイ先生と相談しながらになりますが、種類を増やしている最中なのです。なかなか手に入りづらい状況ですが」
「コッツェイ先生って…公爵家のおじいちゃん先生ですか?」
「はい。公爵家のお抱えでもありますが、コッツェイ家といえば、古都カスティーロでも有名な医師家系なんです。今回の件で、公爵領の医師が集まり、医師会を作ったんです。その医師会長にエステウリー・コッツェイ先生が就任されて、薬草の扱い方などを医師会で共有することになっています」
「確か、こっちには薬師はいないんですよね?」
そう商人ギルドで聞いた気がする。
「ええ。帝国全体で見ても数は少ないです。薬師がいる領地は、属国…人族の国に沿った領地ばかりです。一番多いのは帝都ですが、あそこは属国の人族が奴隷という形で定着しているんです」
奴隷か…。
多くの国で奴隷は合法だ。
人権のない犯罪奴隷は、罪の重さに応じて過酷な場所に割り振られる。
首が回らなくなった借金奴隷は、ちゃんと人権が守られているけど自由はない。借金が返済できるまで働き続けることが課せられる。
借金奴隷の中でも、何かしらの技能がある者は高値で購入される投資物件扱いとなる。
帝都で薬師をしている人族も、投資物件として購入され、店を与えられたのだろう。というのがドーマーの見解だ。
獣人は痛みに強く自己治癒力が高いけど、病気は違う。
痛みに強い性質が、逆に悪化を招く事態もあるらしい。特に子供だ。
帝都のような密集地は、あっという間に病気が蔓延するし、人口が多い分、ひとたび病が流行すると死者数が爆発的に増える。その為、聖属性薬師が必要となるが、人族の薬師は国境を越えない。ならばと目を付けたのが借金奴隷だ。
とても数は少ないそうだけど、一応、帝都には聖属性薬師がいることは分かった。
「だったら帝都の方は聖属性の混血がいるんじゃないですか?」
「それが…。奴隷契約が終了した聖属性は全員、故郷に戻っているそうです。獣人と結婚した聖属性は確認できていないとか」
「帝都にいた聖属性薬師は、獣人とは相容れないでしょうね」
誰?と振り向くと、飴色の髪をした男性が階段を上がって来た。
「お初にお目にかかります。この度、薬材部門の営業に着任いたしましたマーカス・スミスです」
ジャレッド団長に丁寧にお辞儀した後、私にも頭を下げた。
年齢は30才前後に見えるけど、人懐っこそうな笑顔を浮かべれば更に若く見える。
「営業…?」
「取り扱う薬草の種類を増やすために、各地の薬草農園へ行き来しています」
「マーカスさんはフットワークも軽いんです。先日、帝都から戻ってきたばかりなんですよ」
「帰路で魔樹のお祭りも堪能しましたよ」
と、スミスはからりと笑う。
やっぱり行く先々でお祭りと化しているのか…。
「それで、帝都の人族の薬師の店に行ったのです。そこで使用する薬草の種類などを知り得たのですが、どの店の聖属性薬師も…なんというか…」
スミスは歯切れ悪く、「一言で言えば根暗でした」と申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「奴隷という立場もあるのでしょうが、対応は必要最低限。表情は暗く、笑い方もぎこちない。後ろ向きな言動が多いせいで、店番曰く、基本的に薬師は裏方で表には出さないと言っていました。残念ながら獣人の好む性格ではありません」
「もしかすると、奴隷という立場のために無理やり故郷から連れ出されたことを不安に思っているのかもしれませんね」
私は自分で考え、納得した上で出国したけど、奴隷なら自分の意思は無視される。
属国とはいえ獣人差別がないとは限らない。もし獣人差別の思想がある奴隷なら、周囲が敵だらけの中に放り込まれたと思ってもおかしくない。
自分で言うのもなんだけど、聖属性とはなかなかに扱いが難しいのだ。
=====魔物の注釈=====
◇ナータス:北部に棲息するイタチのような見た目の魔物。
北米に棲息するクズリ(体長1m前後)をイメージしています。グリズリーよりもクズリを見たら逃げろ!と言われるほど危険なイタチ科です。
でもこちらはファンタジーなので、体長は2m前後をイメージ。
◇ジャッカロープ:通称ツノウサギと呼ばれる魔物。
ファンタジーで有名な魔物の代名詞。
ここでは体長1m前後をイメージして書いてます。あと雑食性。群れると危険度MAXです。
北部にはスノージャッカロープも棲息。こちらは長毛種でふわふわ度MAXです!
◇ハイドロラット:水辺に棲息する体長1m前後のネズミの魔物。
日本で問題になっているヌートリアをイメージしてます。
でもこちらはファンタジーなので、完全肉食性の凶暴な顔面をしています!
◇ホーンヘッドリンクス:雪山に棲息するネコ科の魔物。
ヨーロッパオオヤマネコをイメージしています。
でもここは…以下略…、体長3m前後、頭に角の生えた凶暴さを前面に出したイメージです。
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