僕が君に殺されるまで

フィボナッチ恐怖症

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25話 閃光

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 ぼくは泣き出した。
男は久しぶりに、笑みを見せた。そして、

「これくらいじゃ、俺の気は晴れない。特にお前だ」

 そう言って、潔の方を指さす。

「お前は家族を殺した」

 金属を操作するあの女は男と婚姻関係にあったのだろう。婚姻......いい響きだなぁ......
と、それどころではないか。一旦、動けないこの状況を打破しなければならない。

「ひどく痛めつけて、明日、明後日にお前らを順番に殺してやろう」

 男の怒りが治まってきているようだ。そんなによろしくない状況だ。
ぼくたちの体を封印している鉄が、ギリギリとぼくと潔を締め付けていく。ありありと血流が悪くなっているのが分かる。血管が押し潰されてしまいそうだ。

パキン

 左足が割れた音がした。けれども、痛みは感じない。神経は繋いでもらったが、痛覚は取り除いてくれていたようだ。
ありがとう。比奈。

あれ? 左足が動くぞ?

 ぼくを拘束していた鉄が、気づいたら溶けていた。

もしかして......

 ぼくはズボンのポケットに入っていたオモチャのボールを無理矢理体を動かして、鉄にボールを押しつけて割る。
シューっと音がして、下半身の鉄が消滅した。
間違いない。
男の能力は有機物に弱い。それゆえに、皮膚だけが拘束されずに残っていたのだ。
灯油は有機物。左足を破壊されたことで漏れ出た灯油が、気づかせてくれた。

 少し割れた左足を振り上げて、ぼくの上半身にも灯油をかける。
潔にも、灯油入りのボールを投げつけて、鉄の拘束を外した。

 さらに、男の上を越すように、ボールをフワッと投げる。
それを男は目で追う。

 そして、そろそろ男は気づくだろう。ぼくが嘘泣きをしていたことに。そして、絶望する。
そう、比奈は死んでなんていない。比奈が倒れているように見えているのは、相手の電気使い......男の、子どもだろう。

 男の動きがピタリと止まった。
やはり、そうだったか。

「後は、お前だけだな」

 ぼくは男に話しかける。

「分かるよ。大切な人を失うのは」

 わからないけれど。
というその言葉は心の内に秘めておいた。

「ダメじゃないか。守らないと」

「そっか。守れるほど強くないんだね」

 ぼくの煽りのような呟きが聞こえてないように感じられるほど、男はピクリとも動かない。
ように見えているが、ぼくは気づいている。少しずつ車内の空気を水素に変えていっているのを。
意外と冷静なのだろうか。いや、今にも噴火しそうなその力をぼくらを確実に倒す方向になんとか向けているようだ。

 しかし、複数人を一気に倒してしまいそうな攻撃ばかりを先程から放っている。冷静さを残している男を見るに、考え無しに攻撃しているわけではなさそうだ。
それなら、どうやって1人だけにターゲットを絞ってるんだ?
そうか、何人かをカバーしてやればいいのか。
先程のウランであれば、ぼくと潔にあたらないように壁を張っていたのかもしれない。

 そうすると、今回のターゲットは、潔か。
男にとって相性は悪いし、恨みもあるだろう。

 いや、もうひとつの可能性があるな。
ぼくは、恐らく電車の上に潜んでいる比奈に右手をスッと上げて合図を送る。

 そして、ぼくは久しぶりに時間のずれを復活させ、男の方に向かう。

バリバリ......

 倒れているはずの子どものところから音がした。

まさか......

 車内を激しい閃光が埋め尽くさんばかりに光り、
車内が爆風で満たされた。
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