3 / 178
第一話 貴女は悋気に狂いて呪殺を好しとす
貴女は悋気に狂いて呪殺を好しとす 一
しおりを挟む
第一話 貴女は悋気に狂いて呪殺を好しとす
女は森を歩くには不似合いな格好をしていた。
パーティーに出るほどじゃないけれど、それなりに値の張りそうなスカートドレスにハイヒールで、見たところけっこうな身分だと思う。顔立ちもきれいで、ぼくより年上に見えるけど、苦労なんてしたことないって感じの幼さが目元に現れていて、多少なりとも頭を使うことを知っていればこんな格好で森を歩いたりしない。まさか王族ってことはないだろうから、貴族の娘が共も連れずにひとりで来たんだろう。服も肌も汚れたり擦り切れたりして、ヒールなんか履いてるから大変だったろうなぁ。
レオはというと、ゆったりチェアでくつろいで、サラミに塩とレモンを絞ってウィスキーで流し込んでいた。ボロボロの客なんてお構いなしって感じだ。まあ、客に無愛想なのはいつものことだけどさ。
ぼくはそんな彼女のうしろで、なんであの女はこんなところまで来ちゃったんだろうなぁ、なんて考えていた。
ほどなくして女がぼくらの前に立った。
「あの、こちらに”魂売りのレオ”様がいらっしゃるとお聞きしたのですが……」
歩き疲れて肩で息をしているけど、言葉使いはかなり上品で丁寧だった。ただ、この光景を見て怪訝に思っているらしい。そうだよね。だってまさか魔の森にこんな立派な館があって、その庭で美女がお酒飲んでくつろいでるなんて思うはずがないもの。さぞ異様な光景だろうなぁ。
「わたしがレオだが?」
レオはグラスをカランと鳴らして、どこか見下すような声色で言った。レオはけっこう性格が悪い。腕が立つうえ美人だからか、自分意外を総じて下に見るきらいがある。たとえ王族相手でも態度を改めることはない。
「あなたが?」
女はハッと驚いた顔をした。たぶん彼女もほかの客とおなじで、魂売りをもっとおどろおどろしい姿でイメージしてたんだろう。無理もない。だって、魂売りっていうのは文字通り人間の魂を商品として扱う闇の商人だ。決して世間には存在しない、たとえるなら伝説やおとぎ話に近いものだ。そういう言葉は知っていても、現実に目にすることはまずない。そもそも魂売りという単語を知るひと自体が少ない。
ぼくも子供のころにいちど本で読んだきりだった。その本はたしか怖い話を集めた本で、描写は、
——洞窟の奥に、決して消えない魔法の燭台を灯す、真っ黒なローブを身にまとう半裸の老人がいた。それはひどく痩せこけ、体じゅう汚物と土で汚れ、しかし目だけは黄色くギラギラ輝いていた。その手には生きたコウモリを握り、キイキイとわめくそいつを、まるで悲鳴をたのしむかのようにガリガリと食らっていた。老人は言った。「魂がほしいのかい? ヒヒ、ヒヒ、ヒヒ」
ぼくはそのあたりで怖くて読むのをやめてしまった。いつだったかそれをレオに話すと、
「アハハハ、それはいい。わたしもローブ一枚で洞窟にひそんでみようか。おまえがどうなってしまうかたのしみだなぁ」
と言って笑ったっけ。まったく、レオはすぐいやらしいことを考えるんだから、もう。
女は目の前の美女が魂売りのレオだと知ると、途端にしゃんとして、スカートの左右をつまんで頭を下げた。
「これは失礼しました。わたくし、アンサー家の三女、ヴルペクラと申します」
「それで?」
レオは名などどうでもいいって感じで言った。たぶん相手がなんだろうと興味ないんだろうなぁ。
「はい、今日わたくしがわざわざここまで足を運んだのは、若い女の魂がほしいからでございます」
「わざわざ……?」
レオは気に入らないと言わんばかりに眉をひそめた。どうやらヴルペクラはけっこうな身分らしい。セカンドネームを持っているのがなによりの証拠だ。
高貴な人間はえてして傲慢な言葉を使う。きっと悪意なんてない、ごく自然に出た言葉だろう。でも、どうであろうがレオは相手が自分より少しでも上に立つことを許さない。その気配を察したのか、ヴルペクラは、
「あ、いえ、言葉のあやでございます。わたくし、焦るあまりについ」
そう言って深々と頭を下げた。レオは許したのか、
「フン、まあいい。で、なんでまた若い女の魂がほしいんだ?」
と、足を組んで、手すりに肘をつけた右手にほほをもたれ、現状できる限りの偉そうな態度で聞く耳を見せた。ヴルペクラもレオの気難しさを肌で感じたらしく、
「はい、実は——」
と、低い姿勢で話しはじめた。
ヴルペクラには恋仲の男がいた。
大貴族アンサー家の娘としていずれ嫁ぐ許嫁がいたが、こともあろうか彼女は近隣の農夫の息子と恋に落ちた。決して美男ではない、しかし男子の潜在的な力強さがはっきりと顔、体に体現されたなんとも魅力的な男だった。
愛してはいけない、と頭でわかっても抑えられなかった。むしろそれが余計にこころを熱くしたのかもしれない。
やがて、いけないと知りつつ体を重ねた。
いちどだけ、と言ってなんども逢った。
そんなことをすれば当然子供ができる。それをわかっていながら、やめられなかった。
というより、できてしまえと思っていた。たとえ許嫁があろうと、子供ができてしまえばもうだれもふたりの仲を割くことなどできまいと思った。
そして当然、身籠った。
まだだれにもばれてはいない。腹も膨らんではいない。しかし、月のものが来ない。話に聞くつわりらしきものが起きた。孕んだと見て間違いない。
しかしそれを男に告げると、よろこんでもらえるとばかり思っていたのに、彼の顔色は決してうれしそうではなかった。しかもそれ以降連絡が取れなくなってしまった。
彼に逢いたい。また愛してほしい。しかし逢えない。
なぜ? どうして?
彼女は顔を隠して情報屋を雇い、男の身辺を探らせた。すると信じがたいことがわかった。
男は幾人もの女と体を重ねていた。日ごとに別の女と出かけ、物陰に隠れてはくちびるを吸い、闇夜に紛れて古小屋へと連れ込んだ。中を覗かずとも耳をそばだてればなにをしているかわかった。
ヴルペクラは怒り狂った。男が許せなかった。愛し合っているとばかり思っていたのに、彼にとって自分は遊びのひとりでしかなかった。
殺してやる——その一念に凝った。
しかしどう殺すか。男は屈強である。おそらく闇討ちをかけても敵わない。殺し屋を雇うという手もあるが、どこにいて、どう連絡を取ればいいのかもわからない。そもそも殺し屋なんてものが現実にいるかもさだかではない。かといって下手に素人を雇えばそこから足がつく恐れがある。
いろいろと考えた結果、呪殺という結論に至った。
見たことはないが、世の中には呪いというものがあるらしい。そしてそれは、魔法の才能がなくても方法さえ違えなければだれにでもできると聞く。
彼女は書庫を漁った。呪いに関わりそうなものを手当たり次第拾い、一心不乱に読み漁った。
すると、あるものに興味を引かれた。
——悪魔召喚術。
内容は、儀式により悪魔を呼び出し、願いを叶えてもらうというものだった。
彼女は早速試みた。
真夜中、ひとりこっそりとだれもいない空き部屋に潜り込み、解説図の通りに魔法陣や蝋燭を用意し、儀式を行った。
すると、本当に悪魔が現れた。
ヴルペクラは悪魔に願いを言った。
「悪魔様、どうか彼を呪い殺してください」
すると、悪魔はこう答えた。
「いいだろう。しかしそのかわりおまえの魂をもらうぞ」
その対価にヴルペクラは躊躇した。復讐はしたいが、悪魔に魂を売るなど考えられない。それは死ぬということだろうし、それ以上に恐ろしいことの気がする。
ふうむ、と悪魔は考え、
「なら、おまえのかわりにだれか若い女の魂を差し出せ」
と言った。
「三日、待ってやろう。それまでに若い女の魂を用意するのだ。生きていてはいけない。死んですぐの女を持ってくるか、魂を捕らえて持ってこい。そうすれば願いを叶えてやる。それから銀の食器を持って来い。銀の皿、銀のフォーク、銀のナイフだ。われを呼んだ以上かならずこれを持って三日以内に呼び出さなければならない」
彼女はうなずき、悪魔は消えた。
しかし、その用意が難しかった。
死んですぐの女か、捕らえた魂。
果たして自分にひとが殺せるだろうか。しくじれば大事件だ。それに成功したとしても、ひとをその手で殺すという事実には変わりない。魂を捕らえるというが、その方法もわからない。
結局わからないままベッドに潜り、寝つけないのでブランデーをあおって眠った。すると、不思議な夢を見た。
自分は魔の森の近くにいた。すると、
「レオ様はこちらです」
森の中から声がした。
「魂売りのレオ様はこちらにいます」
見ると、森の中に黒猫が一匹、こちらを見て口を動かしていた。
「若い女の魂がほしいのでしょう? それなら、魂売りから買うのが一番です。魂売りのレオ様はこちらです」
黒猫はそう言って森の奥へと歩いて行った。
そこで彼女は目が覚めた。
目覚めてみれば、まだ真夜中だった。
魂売り——はじめて聞く言葉だった。
妙に鮮明な夢だった。しかし、あくまで夢だと思った。
きっと変なことばかり考えているから、それが夢に出てしまったに違いない。酒も飲んでいたし、頭がどうかしていたのだろう。
彼女はのどの渇きを覚え、飲み物を探しに厨房へ向かおうとした。すると、部屋を出てすぐの廊下でお付きのメイドと鉢合わせた。
こんな真夜中になにをしているのかと訊いた。すると、
「実はヴルペクラ様が心配になりまして」
と言った。なんでもおかしな夢を見て、ヴルペクラの様子を見に来る途中だったという。
「夢の中のヴルペクラ様は森にいました。そして、黒い猫のあとを追ってどんどん奥へと進んでいくのです。そこで目が覚め、わたくしはなにやら恐ろしくなり、もしやあなた様が部屋にいらっしゃらないのでは、と気になって見に行こうと思ったのです」
それは奇妙な一致だった。偶然とは思えない。明らかに不思議な力が働いている。
そこで翌日の今日、彼女はひとの目を避けてひとり森へ訪れた。夢の通りなら森に黒猫がいるはずだった。
そして実際に黒猫がいた。
それはまるで、彼女を待っているかのように佇んでいた。
女は森を歩くには不似合いな格好をしていた。
パーティーに出るほどじゃないけれど、それなりに値の張りそうなスカートドレスにハイヒールで、見たところけっこうな身分だと思う。顔立ちもきれいで、ぼくより年上に見えるけど、苦労なんてしたことないって感じの幼さが目元に現れていて、多少なりとも頭を使うことを知っていればこんな格好で森を歩いたりしない。まさか王族ってことはないだろうから、貴族の娘が共も連れずにひとりで来たんだろう。服も肌も汚れたり擦り切れたりして、ヒールなんか履いてるから大変だったろうなぁ。
レオはというと、ゆったりチェアでくつろいで、サラミに塩とレモンを絞ってウィスキーで流し込んでいた。ボロボロの客なんてお構いなしって感じだ。まあ、客に無愛想なのはいつものことだけどさ。
ぼくはそんな彼女のうしろで、なんであの女はこんなところまで来ちゃったんだろうなぁ、なんて考えていた。
ほどなくして女がぼくらの前に立った。
「あの、こちらに”魂売りのレオ”様がいらっしゃるとお聞きしたのですが……」
歩き疲れて肩で息をしているけど、言葉使いはかなり上品で丁寧だった。ただ、この光景を見て怪訝に思っているらしい。そうだよね。だってまさか魔の森にこんな立派な館があって、その庭で美女がお酒飲んでくつろいでるなんて思うはずがないもの。さぞ異様な光景だろうなぁ。
「わたしがレオだが?」
レオはグラスをカランと鳴らして、どこか見下すような声色で言った。レオはけっこう性格が悪い。腕が立つうえ美人だからか、自分意外を総じて下に見るきらいがある。たとえ王族相手でも態度を改めることはない。
「あなたが?」
女はハッと驚いた顔をした。たぶん彼女もほかの客とおなじで、魂売りをもっとおどろおどろしい姿でイメージしてたんだろう。無理もない。だって、魂売りっていうのは文字通り人間の魂を商品として扱う闇の商人だ。決して世間には存在しない、たとえるなら伝説やおとぎ話に近いものだ。そういう言葉は知っていても、現実に目にすることはまずない。そもそも魂売りという単語を知るひと自体が少ない。
ぼくも子供のころにいちど本で読んだきりだった。その本はたしか怖い話を集めた本で、描写は、
——洞窟の奥に、決して消えない魔法の燭台を灯す、真っ黒なローブを身にまとう半裸の老人がいた。それはひどく痩せこけ、体じゅう汚物と土で汚れ、しかし目だけは黄色くギラギラ輝いていた。その手には生きたコウモリを握り、キイキイとわめくそいつを、まるで悲鳴をたのしむかのようにガリガリと食らっていた。老人は言った。「魂がほしいのかい? ヒヒ、ヒヒ、ヒヒ」
ぼくはそのあたりで怖くて読むのをやめてしまった。いつだったかそれをレオに話すと、
「アハハハ、それはいい。わたしもローブ一枚で洞窟にひそんでみようか。おまえがどうなってしまうかたのしみだなぁ」
と言って笑ったっけ。まったく、レオはすぐいやらしいことを考えるんだから、もう。
女は目の前の美女が魂売りのレオだと知ると、途端にしゃんとして、スカートの左右をつまんで頭を下げた。
「これは失礼しました。わたくし、アンサー家の三女、ヴルペクラと申します」
「それで?」
レオは名などどうでもいいって感じで言った。たぶん相手がなんだろうと興味ないんだろうなぁ。
「はい、今日わたくしがわざわざここまで足を運んだのは、若い女の魂がほしいからでございます」
「わざわざ……?」
レオは気に入らないと言わんばかりに眉をひそめた。どうやらヴルペクラはけっこうな身分らしい。セカンドネームを持っているのがなによりの証拠だ。
高貴な人間はえてして傲慢な言葉を使う。きっと悪意なんてない、ごく自然に出た言葉だろう。でも、どうであろうがレオは相手が自分より少しでも上に立つことを許さない。その気配を察したのか、ヴルペクラは、
「あ、いえ、言葉のあやでございます。わたくし、焦るあまりについ」
そう言って深々と頭を下げた。レオは許したのか、
「フン、まあいい。で、なんでまた若い女の魂がほしいんだ?」
と、足を組んで、手すりに肘をつけた右手にほほをもたれ、現状できる限りの偉そうな態度で聞く耳を見せた。ヴルペクラもレオの気難しさを肌で感じたらしく、
「はい、実は——」
と、低い姿勢で話しはじめた。
ヴルペクラには恋仲の男がいた。
大貴族アンサー家の娘としていずれ嫁ぐ許嫁がいたが、こともあろうか彼女は近隣の農夫の息子と恋に落ちた。決して美男ではない、しかし男子の潜在的な力強さがはっきりと顔、体に体現されたなんとも魅力的な男だった。
愛してはいけない、と頭でわかっても抑えられなかった。むしろそれが余計にこころを熱くしたのかもしれない。
やがて、いけないと知りつつ体を重ねた。
いちどだけ、と言ってなんども逢った。
そんなことをすれば当然子供ができる。それをわかっていながら、やめられなかった。
というより、できてしまえと思っていた。たとえ許嫁があろうと、子供ができてしまえばもうだれもふたりの仲を割くことなどできまいと思った。
そして当然、身籠った。
まだだれにもばれてはいない。腹も膨らんではいない。しかし、月のものが来ない。話に聞くつわりらしきものが起きた。孕んだと見て間違いない。
しかしそれを男に告げると、よろこんでもらえるとばかり思っていたのに、彼の顔色は決してうれしそうではなかった。しかもそれ以降連絡が取れなくなってしまった。
彼に逢いたい。また愛してほしい。しかし逢えない。
なぜ? どうして?
彼女は顔を隠して情報屋を雇い、男の身辺を探らせた。すると信じがたいことがわかった。
男は幾人もの女と体を重ねていた。日ごとに別の女と出かけ、物陰に隠れてはくちびるを吸い、闇夜に紛れて古小屋へと連れ込んだ。中を覗かずとも耳をそばだてればなにをしているかわかった。
ヴルペクラは怒り狂った。男が許せなかった。愛し合っているとばかり思っていたのに、彼にとって自分は遊びのひとりでしかなかった。
殺してやる——その一念に凝った。
しかしどう殺すか。男は屈強である。おそらく闇討ちをかけても敵わない。殺し屋を雇うという手もあるが、どこにいて、どう連絡を取ればいいのかもわからない。そもそも殺し屋なんてものが現実にいるかもさだかではない。かといって下手に素人を雇えばそこから足がつく恐れがある。
いろいろと考えた結果、呪殺という結論に至った。
見たことはないが、世の中には呪いというものがあるらしい。そしてそれは、魔法の才能がなくても方法さえ違えなければだれにでもできると聞く。
彼女は書庫を漁った。呪いに関わりそうなものを手当たり次第拾い、一心不乱に読み漁った。
すると、あるものに興味を引かれた。
——悪魔召喚術。
内容は、儀式により悪魔を呼び出し、願いを叶えてもらうというものだった。
彼女は早速試みた。
真夜中、ひとりこっそりとだれもいない空き部屋に潜り込み、解説図の通りに魔法陣や蝋燭を用意し、儀式を行った。
すると、本当に悪魔が現れた。
ヴルペクラは悪魔に願いを言った。
「悪魔様、どうか彼を呪い殺してください」
すると、悪魔はこう答えた。
「いいだろう。しかしそのかわりおまえの魂をもらうぞ」
その対価にヴルペクラは躊躇した。復讐はしたいが、悪魔に魂を売るなど考えられない。それは死ぬということだろうし、それ以上に恐ろしいことの気がする。
ふうむ、と悪魔は考え、
「なら、おまえのかわりにだれか若い女の魂を差し出せ」
と言った。
「三日、待ってやろう。それまでに若い女の魂を用意するのだ。生きていてはいけない。死んですぐの女を持ってくるか、魂を捕らえて持ってこい。そうすれば願いを叶えてやる。それから銀の食器を持って来い。銀の皿、銀のフォーク、銀のナイフだ。われを呼んだ以上かならずこれを持って三日以内に呼び出さなければならない」
彼女はうなずき、悪魔は消えた。
しかし、その用意が難しかった。
死んですぐの女か、捕らえた魂。
果たして自分にひとが殺せるだろうか。しくじれば大事件だ。それに成功したとしても、ひとをその手で殺すという事実には変わりない。魂を捕らえるというが、その方法もわからない。
結局わからないままベッドに潜り、寝つけないのでブランデーをあおって眠った。すると、不思議な夢を見た。
自分は魔の森の近くにいた。すると、
「レオ様はこちらです」
森の中から声がした。
「魂売りのレオ様はこちらにいます」
見ると、森の中に黒猫が一匹、こちらを見て口を動かしていた。
「若い女の魂がほしいのでしょう? それなら、魂売りから買うのが一番です。魂売りのレオ様はこちらです」
黒猫はそう言って森の奥へと歩いて行った。
そこで彼女は目が覚めた。
目覚めてみれば、まだ真夜中だった。
魂売り——はじめて聞く言葉だった。
妙に鮮明な夢だった。しかし、あくまで夢だと思った。
きっと変なことばかり考えているから、それが夢に出てしまったに違いない。酒も飲んでいたし、頭がどうかしていたのだろう。
彼女はのどの渇きを覚え、飲み物を探しに厨房へ向かおうとした。すると、部屋を出てすぐの廊下でお付きのメイドと鉢合わせた。
こんな真夜中になにをしているのかと訊いた。すると、
「実はヴルペクラ様が心配になりまして」
と言った。なんでもおかしな夢を見て、ヴルペクラの様子を見に来る途中だったという。
「夢の中のヴルペクラ様は森にいました。そして、黒い猫のあとを追ってどんどん奥へと進んでいくのです。そこで目が覚め、わたくしはなにやら恐ろしくなり、もしやあなた様が部屋にいらっしゃらないのでは、と気になって見に行こうと思ったのです」
それは奇妙な一致だった。偶然とは思えない。明らかに不思議な力が働いている。
そこで翌日の今日、彼女はひとの目を避けてひとり森へ訪れた。夢の通りなら森に黒猫がいるはずだった。
そして実際に黒猫がいた。
それはまるで、彼女を待っているかのように佇んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
冴えない建築家いずれ巨匠へと至る
木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」
かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。
安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。
現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。
異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。
背徳のミラールージュ(母と子 それぞれが年の差恋愛にのめり込んでいく鏡写し)
MisakiNonagase
恋愛
24歳の市役所職員・中村洋平には、自慢の恋人がいた。2歳年上の小学校教師、夏海。誰もが羨む「正解」の幸せの中にいたはずだった。
しかし、50歳になる母・美鈴が21歳の青年・翔吾と恋に落ちたとき、歯車は狂い出す。
母の恋路を「不潔だ」と蔑んでいた洋平だったが、気づけば自分もまた、抗えない引力に引き寄せられていた。
その相手は、母の恋人の母親であり、二回りも年上の柳田悦子。
純愛か、背徳か。4年付き合った恋人を捨ててまで、なぜ僕は「彼女」を求めてしまうのか。
交差する二組の親子。歪な四角関係の果てに、彼らが見つける愛の形とは――。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密
まさき
青春
俺は今、東大院生の実験対象になっている。
ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。
「家庭教師です。住まわせてください」
突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。
桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。
偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。
咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。
距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。
「データじゃなくて、私がそう思っています」
嘘をついているような顔じゃなかった。
偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。
不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる